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目[mé]がディレクターを務める「さいたま国際芸術祭2023」がスタート

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
メイン会場である旧市民会館おおみやは、大宮駅、さいたま新都心駅から徒歩約15分。

 「さいたま国際芸術祭2023」が幕を開けた。

 のっけから、「幕を開けた」という手垢のついたフレーズを用いたのは、わけがある。この芸術祭のメイン会場は、旧市民会館おおみや。こちらの大ホールでは、連日、コンサートやダンス、演劇公演、映画の上映など、さまざまなプログラムが構成されている。そして、この大ホールの日々の催しが、芸術祭の目玉のひとつ。

 つまり、美術の展覧会にとどまらない。文字どおり、「芸術祭」の名にふさわしい幅広いラインナップなのである。

芸術祭を鑑賞しているはずの入場者が、みられる立場に

 しかも、ひと筋縄ではいかない。大ホールの客席には、今回のために通路が新たに設けられた。入場者は、展覧会の導線として、透明な壁で囲われたこの通路をわたる。楽屋の前も通る。ステージの背後にも足を運ぶ。

 したがって、普段は見ることのできない、劇場のバックヤードさえも「鑑賞ポイント」と化す。

 急いで付け加えたいことがある。公演準備中に入場者がステージを横切る場合は、いわゆるバックヤード体験会の類いと似たようなものだ。しかし、本番中に通路を通ることもある。すると、芸術祭を鑑賞しているはずの入場者が、ホールの客席から鑑賞される立場になる。

 つまり、芸術のみる/みられるという決まりごとをあっけらかんとひっくり返すのだ。

 これはいったい何事か? 

 この芸術祭のディレクターは、現代アートチーム目[mé]である。

 このチームが「さいたま国際芸術祭2023」のディレクターを務めることは、今年の1月にYahoo!ニュースでの目[mé]のインタビューですでにお伝え済みだが、今回、いろいろな仕掛けのある芸術祭を見せてくれた。

「さいたま国際芸術祭2023」でディレクターを務める現代アートチーム目[mé]。左から増井宏文、荒神明香、南川憲二。
「さいたま国際芸術祭2023」でディレクターを務める現代アートチーム目[mé]。左から増井宏文、荒神明香、南川憲二。

盆栽も自動販売機の缶コーヒーも、紛れもない出品作

 選び抜かれた作品が、いちいち興味深い。

 たとえば、会場のロビーに入ると、平尾成志の《幻姿文飾》がお目見え。会期中、不定期に設置される盆栽である。繰り返す、盆栽である。よって、配布されたフロアマップを見ない限り、会場にもともとある装飾物なのか、出品作なのか判断するのが難しい。

L PACK.は、2007年に結成された小田桐奨と中嶋哲矢によるアーティストユニット。作品を前にした中嶋哲矢。
L PACK.は、2007年に結成された小田桐奨と中嶋哲矢によるアーティストユニット。作品を前にした中嶋哲矢。

 また、地下に進むと、L PACK.の《定吉と金兵衛》が設置され、自動販売機で缶コーヒーが販売中だ。もちろん買える。この自動販売機にたどり着くまでの空間にも着目したい。かねがね展覧会で入場者にコーヒーを振る舞ってきたL PACK.の中嶋哲矢は語る。

「目[mé]の3人に『一緒に空間づくりを考えましょう』と言われ、みんなで取り組みました」

日常と非日常の境を行ったり来たりできる芸術祭

 そして、作品だけとは限らない。この芸術祭では、作品の展示や公演のみならず、展示室間の通路や窓の外にも目が離せない。

 たとえば、廊下にバケツや塗料などが雑然と置かれていたりする。窓の外にタオルが干されていることも。この通路の仕掛けが、日常と非日常の境を意識させてくれる。つまり、アート作品を前に非日常に触れたかと思うと、日用品で急に日常に引き戻されるのだ。あるいは、通路のユルい空間によって、作品の強度がいちだんと増す。

 なお、この「さいたま国際芸術祭2023」は、一度見ただけで済ませるのはもったいない。

 もう一度、足を運ぶと、見落とした仕掛けがまだまだ発見できそうだからだ。そして、日々変化していくに違いない芸術祭だから、繰り返し出かけたい。

あたかも設置作業中かと困惑させる通路の様子。 photo takasix(この記事すべて)
あたかも設置作業中かと困惑させる通路の様子。 photo takasix(この記事すべて)

さいたま国際芸術祭2023

会期:2023年10月7日(土)〜12月10日(日)

会場:メイン会場(旧市民会館おおみや)ほかさいたま市内随所

時間:10時~18時(金・土は20時まで) *メイン会場

休み:月

料金:1DAYチケット 一般2000円、さいたま市民1500円

   フリーパス 一般5000円、さいたま市民3500円

   高校生以下、障害者手帳所持者及び同伴者(1名)は無料

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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