「砂」が大金に変わる?希少化する「砂」の今

(写真:アフロ)

公園の砂場やビーチの砂浜、畑、ゴルフ場のバンカー。

日々の生活で目にする機会が多い「砂」ですが、そこにあって当たり前。

「水を大切に」や「空気をきれいに」とは耳にしますが、「砂を大切に」という言葉は聞いたことがありません。

少しその存在を意識すれば気づくのですが、「砂」も限りある天然資源なのです。

そして近年世界各地で砂不足が問題化し、違法採取による環境破壊が顕在化したり、「砂マフィア」と呼ばれる犯罪組織が暗躍したりするほど、貴重な存在になっているのです。

なぜ、砂が不足するのか?

サハラ砂漠(撮影/筆者)
サハラ砂漠(撮影/筆者)

砂を大量に消費する行為として頭に浮かぶのは、関西国際空港やお台場などの大規模な埋め立て工事でしょう。

しかしそれは砂の使い道の一つでしかありません。最も多く使われているのはコンクリートやアスファルト混合物を作る際に使われる細骨材。その他にも、ガラス、歯磨き粉、化粧品など日常生活に深く関わる物から、電子機器や鋳型、シェールガスの採掘時など多種多様な形で利用されています。

他方、世界規模で「砂漠化」が問題になっている昨今、「むしろ砂は増えているのでは?」と考える方もいるかもしれません。ところが砂漠の砂は丸く小さすぎて、最大の使用用途である細骨材としても、埋め立て用としても利用出来ないのです。

そのため世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」や、椰子の木の形をした埋め立てリゾート「ザ・パーム」などで有名な中東の国・アラブ首長国連邦(UAE)も、国土の大半が砂漠であるにもかかわらず関わらず常に砂を必要としていて、2017年は120万トン(6400万米ドル)を海外から輸入しています。

サハラ砂漠の砂(撮影/筆者)
サハラ砂漠の砂(撮影/筆者)

BUSINESS INSIDERによると、通常の家一軒に200トン、病院一つに3000トン、高速道路1マイル毎に1万5千トンの砂が必要だそうです。

いつの間にか「そこにあるのが当たり前」だった砂は、人口爆発と都市化の進展、そして急速なインフラ整備が進む今の時代、国家間で奪い合う天然資源になってしまっているのです。

正確なデータが存在しない「砂」

瀬戸内海の採石場(撮影/筆者)(1990年)
瀬戸内海の採石場(撮影/筆者)(1990年)

そんな重要な存在であるにもかかわらず、他の資源のように注目されることが少なかったため、砂に関する採取・使用・貿易に関する国際的な規制や取り決めは整備されていません。

現在、世界各国でどれほどの砂が消費されているのか、公的機関による正確なデータが存在しないのです。

国連環境計画は(UNEP)、砂の使用用途として最も大きな割合を占めるコンクリート(砂、礫〔れき〕、セメント、水で作られる)に使用されているセメントの世界生産量(※1)から、その消費量を推定しています。アメリカのコンクリート作成時の比率(砂の使用量はセメントの10倍)を基に算出した世界全体の消費量は、年間500億トン。「一人あたり一日平均18キロを必要としている」と、先月出された報告書に記しています。(※2)

また消費量と同様、国家間の貿易取引量も不明瞭です。

ITC(国際貿易センター)の貿易統計によると、砂(※3)の最大の輸出国はドイツ832万トン(約1億4900万米ドル)、輸入国はシンガポール6000万トン(約3億6600万米ドル)となっているのですが、不思議なことに2018年の総量・総額にずれがあるのです。

総輸出「4935万トン・17億2千万ドル(約1863億円)」に対し、総輸入は「1億2700万トン・22億6500万ドル(約2459億円)」と、輸入総量・総額が「約7800万トン(約600億円)」上回っています。

この輸出・輸入量の不整合については専門家の方々が研究されていて、輸送費用とタイムラグなどの「不可避な要因」、統計基準の違いによる「構造的な要因」、そして誤申告や密輸などを含む「エラーによる要因」に分類されているようです。

とはいえ、あきらかにおかしなデータもあります。アフリカ大陸南部の国・モザンビークのデータです。

2018年の輸出量はわずか44万トン(全体の0.9パーセント)ですが、2017年は1億9300万トン。世界輸出総量2億4570万トンの78パーセントを占める砂を輸出しているのです。

そしてITCのデータ上、その99.9パーセントが中国に輸出されたと記されているにもかかわらず、中国側の輸入統計では、モザンビークから輸入した砂は「0」。2001~2018年の累計ですら「463トン」となっているのです。

この原因についてITCは明示していないため、どのデータが正しいのかは分かりませんが、少なくとも、砂の国家間貿易が不明瞭かつ監視が行き届いていないことは明らかです。

アフリカ諸国の砂事情

ソマリアの首都モガディシュでも建築ラッシュが続く(撮影/筆者)(2018年)
ソマリアの首都モガディシュでも建築ラッシュが続く(撮影/筆者)(2018年)

今年4月9日、IMF(国際通貨基金)は「世界経済見通し」で2019年のサブサハラ地域の実質GDP成長率を3.8パーセントから3.5パーセントに下方修正しました。それでも世界全体の成長率3.2パーセントを上回る経済成長を続けるアフリカ諸国。都市人口の急増による建築ラッシュは続いており、砂問題と無縁ではありません。

2000年代半ばから砂が絡んだトラブルが表に出始め、最近では、ケニア・ウガンダ・タンザニア(東部アフリカ)、ガンビア、リベリア、セネガル、シエラレオネ(西部アフリカ)、モザンビーク・南アフリカ(南部アフリカ)、モロッコ・チェニジア(北部アフリカ)などなど、東西南北問わずアフリカ中でニュースになっています。

そのいくつかを紹介すると――

  • ウガンダ(東部アフリカ)

世界第三位の湖水面積を持つビクトリア湖に面する同国では、違法採取による、重要な輸出品である魚・魚製品への影響が深刻。3メートルという規制に対し実態は12メートルの深さまで浚渫が行われているケースもあり、魚の生息域や稚魚の成育に影響を与えている。

  • ケニア(東部アフリカ)

違法採取された砂を運搬中のドライバーが、敵対する砂マフィアにより殺害される。

  • ガンビア(西部アフリカ)

アフリカ大陸で最も小さな国土である同国では、2017年6月に砂の採取を巡る小競り合いで2名が死亡。また国土の全体が標高100メートル以下であるため、違法採取により、満潮時に川を経由して海水が耕作地に流れ込む可能性が危惧されている。

  • モザンビーク(南部アフリカ)

政府公認の採取による自然環境の破壊。砂採取が行われ始めてから洪水が頻発し、家の流出などにより採取場近くの村が壊滅。国際人権団体であるアムネスティが、操業をしていた中国の鉱山会社の違法操業を告発。

  • モロッコ(北部アフリカ)

砂マフィアによる違法採取で、同国の海岸線が破壊されているとUNEPが報告書内で指摘。

同国で算出されている1000万トンの半分が違法採取であるとのこと。

――概してガバナンスが脆弱なアフリカ諸国では、UNEPを始め国際機関や政府・NGOなどが砂を守るために様々な取り組みをしていますが、その実、どの国も後手に回っているのが現状です。

砂と共存するために

瀬戸内海の島(撮影/筆者)(1990年)
瀬戸内海の島(撮影/筆者)(1990年)

ここまで「砂」という言葉でひとくくりに表記してきましたが、実際は採取場所(川・海・山など)や、砂の種類によって用途も価値も異なります。詳細な説明は割愛しますが、過剰採取による採取場所ごとの主な影響は以下のようなものが考えられます。

  • 川砂

洪水のリスク、川筋の変化、水質汚濁、マラリア汚染地域では媒介者のハマダラ蚊増殖の要因

  • 海砂

高潮浸水の被害拡大、海流への影響、魚礁破壊の要因

  • 山砂

地滑りや水質汚濁、地下水枯渇の要因

また違法採取が被害を与えるのは環境だけではありません。

2000年には台湾で、2001年にはポルトガルで、2016・2018年にはインドで、砂の違法採取が原因とされる橋の崩落事故が発生し多くの死者も出てしまっています。

さらにインドでは砂マフィアが暗躍しており、環境NGO「ダム・川・人の南アジアネットワーク」によると、昨年一年だけで、違法な砂の採取に反対した政府職員、警察官、記者、市民ら11人が殺害され、18人が関連する活動で死亡したと伝えられています。

日本は2018年(1~12月)、130万トンの砂を輸入しており、2001年からの累計輸入量は5160万トンとなります。2007年にそれまで最大の輸入国だった中国が輸出を禁止し、コンクリート用砂を確保するため建築業界が対応に追われました。(現在の最大輸入国はオーストラリア/総輸入量の75パーセント)(※3)

日本国内での砂採取は、1968年に全面改定された「砂利採取法(1956年制定)」により、河砂の環境破壊を防ぐため河川での採取が厳しく制限されました。ところがその結果、(特に瀬戸内海で)大量の海砂が採取されるようになりました。1998年、環境保全のため広島県が海砂採取を全面禁止。その後各県も続き平成18年には瀬戸内海での海砂は採取禁止となりました。

現在、採取規制や資源枯渇の影響を受け年々減少の一途を辿っており、2016年度における砂の採取総量は約7万2300トン。2007年度10万5800トンの7割程度にまで減っています。(※4)

また建築物に関しても「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」が2000年に施行されるなど資材の再利用についても法制化されています。(※5)

UNEPの報告書(※2)には――

  • まずこの問題の規模を、今世紀における持続可能性の大きな課題の1つとして認識すること。
  • その上で、「不要な消費を避ける」、「建設に使用する天然砂をリサイクル材料および代替材料に置き換える」、「既存の基準(条約や協定など)やベストプラクティスを通して採取の影響を削減」すること。
  • そして、国家の枠組みを超えて、砂の生産や消費のトレーサビリティ(追跡可能性)強化を協力すること

――が必要だと記されています。

広島県が2017年に出した「広島県海砂利採取環境調査報告」によると、採取を全面禁止にして約20年が経ち、なんとか自然環境への影響拡大は止まっているようです。しかし浚渫により大きくえぐられた海底は今も回復しておらず、現在の技術を用いても、気の遠くなる時間をかけて作られた自然をわずか20年で元の姿に戻すのは不可能なようです。

もはや砂は「あって当たり前の存在」ではなく、人類にとって空気や水と同様貴重な天然資源です。

砂漠化や海面上昇・大気汚染は気候変動の最たるものとしてたびたび話題になりますが、そろそろ「砂」にも目を向けなければ、近い将来私たちの生活が足下から崩れてしまうでしょう。

  • (※1)セメントの世界総生産量は40億5千万トン。生産量1位は中国(23億2千万トン)、続いてインド(2億9千万トン)、アメリカ(8660万トン)。日本は5500万トンで8位。(アメリカ地質調査所/ Cement Statistics and Information 2017)
  • (※2)Sand and Sustainability: Finding new solutions for environmental governance of global sand resources 2019
  • (※3)ITC 統計番号2505/ 着色有無に関係なく、あらゆる種類の天然砂(金および白金含有砂、ジルコン、ルチルおよびイルメナイト砂、モナザイト砂、ならびにタールまたはアスファルト砂を除く)
  • (※4)経済産業省 平成28年度砂利採取 業務状況報告書集計表より(比重1.85で換算)
  • (※5)平成30年の砕石の生産量は、17,368万トンで前年比1.5%の増加。用途別では、道路用が5,733万トンで同0.3%の減少 、コンクリート用が9,906万トンで同2.7%の増加、その他用が1,730万トンで同1.2%の増加。再生骨材の生産量は、1,849万トンで1.2%の増加(経済産業省 平成30年砕石等統計年報)

(参考)

  • 世界一の砂輸入国は東南アジアの島国シンガポール。埋め立てにより国土面積を拡張しており、1960年の581.5平方キロメートルから、2018年には724.2平方キロメートルに。砂輸入量は、ITCにデータが存在する2001年から2018年の総計で2位のベルギーを1億3千万トン引き離し、4億3300万トン。(2001年時の国土面積は682.3平方キロメートル)

シンガポール政府ウェブサイト

(修正箇所 2019年6月22日)

【なぜ、砂が不足するのか?】

・世界一高いビル「ブルジュ・ドバイ」→世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」

【正確な砂が存在しない「砂」】

・2018年モザンビーク輸出量のパーセンテージ 全体の0.009パーセント→全体の0.9パーセント