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ドイツ育ちのコーチに聞いた。日本代表は『明確さ』と、『ハンドルの遊び』が必要

清水英斗サッカーライター
2020年10月 日本代表対カメルーン代表(写真:ロイター/アフロ)

日本代表は10月のカメルーン戦とコートジボワール戦に続き、11月も国際親善試合、パナマ戦とメキシコ戦が予定されている。試合の注目ポイントは何か? 森保ジャパンの現状をどう見るか? 一人の指導者に聞いた。

片山博義。17歳で高校在学中にドイツへ渡り、3部クラブと契約してプレー。怪我により24歳で引退すると、指導者の道へ進む。FSVフランクフルトU-19、U-17でヘッドコーチを務め、2012年からは日本でも指導。2014年から地域リーグの松江シティを率い、天皇杯1回戦ではJFLの鹿児島ユナイテッドに勝利。その後もドイツと日本を往復しつつ、両国で指導をしている。

JFA公認A級ライセンス、UEFA/ドイツB級ライセンスを保持。

半生をドイツで過ごし、指導者としてドイツで育った彼の眼から、今の森保ジャパンはどのように映るのか。第1回は先月のカメルーン戦、コートジボワール戦を振り返りつつ、日本の戦術修正力について語ってもらった。

はまらなかった守備と、森保戦略の是非

――先月のカメルーン戦を見て、どう思いましたか?

片山  (4-4-2の)日本は守備がはまらなかった。カメルーンの戦略として、ビルドアップのとき3バックに変えたが、それに対して日本のプレスが空回りした。3バックで1枚空いたカメルーンのバックに、左サイドで原口元気が突っ込むと、相手の左ワイドが空く。チーム戦術であれば、原口がプレスを行った際に日本の左サイドにマークがいるはずだが、居ない。個人の判断でプレスを行っているのではと疑問符が付いてしまう。

 どう修正するのかを見たが、後半に3バックにするまで、はまらないままだった。国際試合のレベルなら、監督が見たときにすぐ修正するはず。でも、出来ない時間が長かった。

――解法として原口が前に出て、3バックに噛み合わせるのはあり?

片山  あり。ただし、原口が出てスライディングでかわされたシーンなどで、左のワイドにつながれている。そこに誰が出て行くのか。ここにプレスがかからなければ、原口が前へ出るのがチーム戦略として成立しない。

――左のワイドを抑えるべきは、左サイドバックの安西幸輝(今回パナマ戦&メキシコ戦は招集外)だった?

片山  そう。キュッとスライドして全体が三日月型を作りながらサイドに寄せる。ドイツでは『ハルプムーン』と呼ぶが、そのポジションに入れなかった。その入れない状態はどういうことか。カメルーンの右シャドーに対し、日本はサイドバックがつくのか、ボランチなのか、センターバックなのか、はっきりしなかった。相手にぼかされた。そこが気になってしまうと、三日月でスライドできない。つまり、カメルーンの3バックと右シャドー、誰が行くのかわからない箇所が2つ出来ていた。それは相手が意図的に作ったもの。

――カメルーンの右シャドーは主に安西が見ており、相手が中寄りに立つときでも、彼がマークに付いた。安西が中を気にするから、左のワイドにアプローチできず、三日月でスライド出来なかった、と。

片山  そうだと思う。おそらく、Jリーグではあまり起きない現象。なぜなら4バックでビルドアップするとなれば、みんな4バックのままで行くから。その点、カメルーンは頭の柔軟性があり、相手がプレスに来るなら1人が上がる。そうすれば相手が嫌がり、もっとゴールに近い選手が良い状態になる。そういう攻撃のやり方が日本では少ないから、守るときも対応できず、戸惑う。

――それは、日本に3バックのビルドアップが無いという意味ではなく、状況に合わせて3枚→4枚、4枚→3枚といった柔軟性が乏しいという意味?

片山  そのとおり。日本人の良さとして、監督が言ったこと、事前に決まったことは忠実に守る。しかし、遊びがない。車のハンドルには遊びがあるが、その遊びがないと、F1のようにハンドルを切った瞬間に急激に曲がってしまう。でも、それだと事故が起きやすいし、うかつにハンドルを切れない。それと同じで、日本の選手たちは遊びや余白のない状態で攻守共にプレーをしている。だから、うまくいかないときに柔軟な対応ができない。これはドイツでの指導経験と、日本での指導経験を踏まえて、思うことでもある。

 一方、コートジボワール戦では相手の3バックを見ながら、ワイドにボールが出たら、サイドハーフがアタックに行くのが明確に見えた。しっかり守備を修正できたが、これをカメルーン戦でやれる監督と、やれない監督では、大きな差になる。トップレベルの監督なら、ものの10分で修正する。1試合おいてからの修正では遅い。

――それは今回のパナマ戦とメキシコ戦でも鍵を握るかもしれないが、その点について森保監督は、選手の成長のために、あえてベンチから早い修正をせず、選手主導の動きを待つというスタンスを一貫して採ってきた。このやり方をどう思うか?

片山  私なら紅白戦でそれをやる。公式戦ではやらない。代表チームで時間がないというなら、映像や戦術ボードで提示する。代表レベルの選手なら頭が良いので、絵面を示してあげれば、少なくとも守備の基準は作れるはず。迷子になったときに戻れる場所が明確であれば、選手は困らない。何となくこういう形に落ち着く、ではなく、明確なものを作る。迷う時間はあってもいいが、できるだけ短く。ワールドクラスのチームはそこを突くのがうまい。あるいは答えがわからないときは、自分たちは一度4-4-2でセットしようとか、決めたほうがいい。ハーフウェイラインからペナルティーアークまでの自陣に一度引き、ブロックを作ってから、対応策を見つけ直す。単純に、そういうことでいい。今はその辺りのベースも曖昧すぎると感じた。

――森保監督のやり方は、答えを与えない指導であり、メリットもあるが、時間がかかるのが最大のネックだと思う。W杯や最終予選に間に合うのか、という危機感は強い。

片山  選手に対応力を求めるなら、各々が所属するクラブを見ればいい。たとえばリヴァプールで(ユルゲン・)クロップが、南野(拓実)の役割を、前線でプレスをかけながら相手ボランチへのパスコースだけ消してくれと指示する。そこにパスが入ってしまうと当然、クロップは激怒する。たとえば、そういう場面があれば本人と連絡を取り、自身の考え方とチームの指示、実際のピッチ上の現象にどんなギャップがあったのかを確認する。

 対応力とは、試合が思い通りにならないとき、相手が違うことをやってきたとき、どんな対応ができるかだ。それは各々のクラブの試合を分析すればわかる。映像やボードでもイメージを共有できる。わざわざ、改めて公式戦を使って試す必要はない。ましてや、そのために対応せず見守る、なんてことをやれば試合を無駄にする。

――何となくだが、西野ジャパンからバトンを受け継いだ森保ジャパンの最終的なイメージは、昔の鹿島アントラーズと重なる。監督は戦術について細かい指示をせず、選手に任せてピッチで自在に調整させる。攻撃的や守備的といった戦術の偏りはなく、相手や状況に合わせ、選手が主体的にハンドルを握って柔軟に引き出しを使う。そういう昔の鹿島スタイルと、森保ジャパンの理想は近い気がする。

 でも、それは伝統も日常もすべて共有するクラブチームだからこそできる、以心伝心のスタイル。非日常の代表チームでは無謀だと思う。就任2年目になれば途中から方針をパッと切り替え、次のステージへ進むかと期待したが、意外と根本が変わらないのでもどかしい。

片山  昔、お世話になったドイツ人監督が中国で指導をしているが、彼は代表チームについて、「クラブチームとは違う」と明確に言っていた。リーグ戦ではないから、相手への対策が細かくて明確だし、自分たちの攻撃も明確。いろいろなものが、試合ごとに明確に落とし込まれる。そして、その明確の中にハンドルの遊びがあり、膝が伸び切らない状態で選手はプレーし続ける。そういうことが勝ちに結びつくんだと。

――その考え方のほうが、代表チームについてはすっきり理解できる。西野ジャパンから続いている『選手主導』の考え方に、実は根本的な間違いがあるのではと不安。日本のカルチャーに合っていても、サッカーや国際試合の現実に合わなければ、グローバルでは勝てない。

11月の国際親善試合、パナマ戦は13日(金)夜、メキシコ戦は18日(水)早朝に行われる。

日本代表の対応力、修正力、そのスピード感に注目したい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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