最も左利きに近い男。『中島劇場』には支配人がいる

左サイドでコンビを組む、中島翔哉と佐々木翔(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

アンサング・ヒーロー(unsung hero)。その栄誉を歌われることがない英雄、という意味だ。日本語に訳せば、縁の下の力持ち、となる。

キリンチャレンジカップのコロンビア戦、ボリビア戦は、中島翔哉の圧巻のパフォーマンスに沸いた。ボリビア戦では決勝ゴールもゲット。ロナウジーニョやネイマールを彷彿とさせるプレーの数々には、もはや感嘆するしかない。

ボリビア戦は後半16分、堂安律と共に、途中出場でピッチに入った。だが、中島がその真価を発揮し始めたのは、23分に南野拓実、柴崎岳が投入されてからだろう。

中島、南野、堂安、柴崎と、おなじみの4人がそろったことで、縦の速さが先鋭化。裏への抜け出し、コンビネーションが活発になった。その結果、1トップに入った鎌田大地のパッサーの質も合わせて際立っている。おそらく、これは誰が見ても同じことを感じたのではないか。

ただ、個人的にはもう1人、28分に安西幸輝との交代でピッチに入った、左サイドバックの佐々木翔にも注目している。

彼が面白いのは、右利きなのに、ほぼ左利きのようなプレーをすること。左足でボールを持ち、左足でドリブルし、左足でパスを出し、左足でクロスを蹴る。そこには反対の足を使うことのストレスが無い。森保一監督も広島時代、佐々木を見て、左利きと勘違いしたほどだ。右利きだが、『最も左利きに近い男』である。

利き足と同じサイド、つまり左利きが左サイドバックに入ることは、攻撃が広角になるメリットがある。外側に位置する左足にボールを置けば、幅を広く使い、縦パスを通しやすくなる。

しかも佐々木は、左足でボールを持ち、身体が縦を向いた状況から、不意を突いて斜めに、相手の陣形を横切るボールを、中央へ通す。これは本来、右利きには難しいプレーだ。逆足でボールを持つと、自分が向いていない方向まで視野を確保し、精度の高いパスを出すのは簡単ではない。

ボリビア戦の安西のプレーと比較すると、右足中心でプレーする安西は、右足にボールを置き、身体も中を向くため、いかにも「これから中央へパスしますよ」と相手にバレバレ。実際、鎌田や香川真司をねらったパスは、相手に引っかかる場面が目立った。

その点で言えば、左足中心の佐々木は、基本が縦で、不意をついて中だ。そのため、相手の肝となる中央へ隙を突いてパスを打ち込める。目立たないが、効果的であり、影のキーポイントだ。

また、このような斜めに切り裂くパスは、左足使いに随分慣れた長友佑都でさえ、あまり出せていない。相手に引っかけるミスは少なくても、通せるタイミングを逸したり、右足に持ち替えている間にコースを消され、バックパスしたり。長友はそんなシーンが多い。左サイドバックで縦パスを通すスキルは、たとえ長友を加えたとしても、佐々木が図抜けている。

そして、その佐々木のスキルは、前方に立つファンタジスタ、中島にとっては何よりのサポートだ。

縦に仕掛けたいアグレッシブなアタッカーにとって、相手が寄せてくる前に、素早く縦パスを預けてくれるDFやボランチは、何よりも有り難い存在。それは中島だけでなく、南野らにとっても同じだ。左サイドバックでは、佐々木がそれに当たる。

もちろん、安西の場合は、押し込んだ状況から仕掛ける能力に持ち味がある。サイドハーフとの組み合わせにより、たとえばコンビネーション重視の乾貴士との連係が深まれば、違う結果にもなるだろう。だが、中島との相性、組み合わせとして考えれば、やはり佐々木がすばらしいパフォーマンスを見せてきた。

『中島劇場』は1人では成り立たない。影の支配人がいる。アンサング・ヒーローである。

コパ・アメリカはどうなる?

もちろん、左サイドバックの仕事は、縦パスだけではない。守備を保証できなければDFとしては話にならない。その点で佐々木には不安があり、総合的に言えば、長友が今も左サイドバックとしてベストである事実は揺るがないだろう。

佐々木はJリーグでは空中戦に強く、対人能力も評価されたDFである。しかし、日本代表は、日本人とは戦わない。幹の太いアタッカーだらけの南米の代表チームと戦えば、パワーやスピードで、佐々木に物足りなさを感じるのは確かだ。

だからこそ、6月のコパ・アメリカを活用したいところ。そのような守備を改善できるのか? 佐々木にとって刺激になるのか? 重要なトライだ。

すでにアジアカップでも招集されただけに、コパ・アメリカも招集するのは、所属する広島から難色が示される可能性もあるが、できれば呼んでほしい。もし、中島を招集できるとしたら、尚更だ。