Yahoo!ニュース

トライと隠し立て。仮想セネガル戦から見える、W杯本番の戦い方

清水英斗サッカーライター
仮想セネガルと位置付けられた、日本代表対マリ(写真:ロイター/アフロ)

日本代表対マリの国際親善試合は、1-1で終わった。結果はちょっと不満足、内容は大いに不満足である。

マリのモハメド・マガスパ監督は、前日会見でセネガルを『ブラザー・カントリー』と表現したが、お兄ちゃんはもっともっと強い。いや、国の成り立ちで言えば、セネガルが弟か。まあ、それはいいとして、このマリ戦に満足した選手やファンは一人もいないだろう。

ただし、この試合はすべてではない。試合が行われたスタッド・モーリス・デュフランには、日本が対戦するコロンビア代表のスタッフも訪れていた。ハリルホジッチが試合直後に、フランス対コロンビアを視察に行ったくらいなので、逆も然りだ。もちろん、セネガルやポーランドも、このマリ戦で日本の出来をチェックしたはず。

ライバルの眼前で、仮想セネガルのすべてを尽くして戦ったら、それは本物の強者か、夢見がちな弱者のどちらかだ。だが、ハリルホジッチ率いる日本代表はどちらでもない。つまり、この試合で試したことと、試さずに隠したことは、両方ある。

最も興味深いトライは、大島僚太のボランチ起用だった。

セネガルと言えば、プレミアリーグで活躍するイドリッサ・ゲイエ、シェイフ・クヤテなど、世界最強クラスのデュエルを誇るMFを中盤にそろえている。そのボールハンターに対し、大島のクオリティーをぶつける。ハリルホジッチが「テクニックの面では日本のベストプレーヤーの1人」と称えるように、大島は相手の中盤に寄せられても、あわてず、縦にボールを運ぶことができる。

思い返せば、リオ五輪のナイジェリア戦でも、大島のテクニックと状況判断の早さは際立っており、得点を生み出した。デュエルの強いアフリカ勢に、ぶつかり合いを避けるクオリティーがある大島を中心に、ビルドアップを行う。これは期待できる。

さらに、大島は守備でも効果的だった。「相手のコントロールミスをなるべく突っつきに行こうと意識した」と語るように、デュエル自慢の相手と真正面からぶつからず、慎重に対応した。長谷部誠が高い位置で抜かれたシーンでも、すぐに食いつくのではなく、全体のコンパクト性を保って守備のスピードをコントロールしながら、カバーに入っていた。

自陣深くに押し込まれると、空中戦や最終ラインのカバーが増えるため、大島の守備力では辛いが、ラインを一定の高さに保てている中盤なら、大島の守備は計算できる。

負傷によって34分間しか試せなかったが、トライの収穫は充分だ。あとはW杯本番でけがをしないように、コンディショニングが鍵を握る。

W杯本番はチョイスが変わる?

大島という収穫の一方、マリ戦で試さなかったこと、つまりセネガル戦では違う方法を用いるのではないかと考えられるのは、両ウイングのチョイスだ。

セネガルの攻撃は、中央よりも両サイドに脅威がある。両ウイングは、リヴァプールのサディオ・マネと、モナコのケイタ・バルデ。そのスピードや突破力は、マリよりも遥かに次元が上だ。たとえ酒井宏樹が戻ったとしても、1対1で止めきれる相手ではない。

となると、日本の守備はサイドバックとウイングの連係が重要になる。挟み込んで2対1で封鎖したり、あるいは酒井宏や長友佑都がマンマーク気味に潰しに行ったとき、空けたスペースをカバーするなど、守備的なタスクを果たせるウイングが必要だ。

その答えが、マリ戦のように宇佐美貴史と久保裕也かといえば、それは違和感がある。2人共に守備は不得意だからだ。セネガル戦でこの起用をするとは思えない。たとえば、左に原口元気、右は浅野拓磨の調子が上がらなければ、酒井高徳などサイドバックを起用するのもありだ。守備的なプランで臨むチームが、サイドバックを縦に並べる配置は、それほど珍しいケースではない。本番のセネガル戦は、仮想のマリ戦から、この辺りが変わるのではないか。

逆に宇佐美や久保を、トップ下に回す可能性もある。

今回の合宿で、リエージュに着いて2日目のトレーニングは、メディアに全公開されたが、ひと通りのメニューが終わった後、森岡亮太、久保、柴崎岳の3人が居残りし、ハリルホジッチ自らボール出しを行って、シュート練習に取り組む一幕があった。

この3人は試合間隔が空いていたので、負荷を増やすコンディショニングの面もあるだろうが、興味深いのは、シュート練習の内容だ。

コーンを置き、そこから斜め前に出て、ハリルホジッチが出したボールをワンタッチで返す。すぐにバックステップしてコーンに戻り、今度は反対側に出て、またボールを返す。何度かくり返すと、最終的に足元ではなく、スルーパスが出て来るので、走り込んでシュート。一度ボールに触った後、裏へ飛び出し、シュートに持ち込む形が反復されている。

2つめのシュート練習は、ゴール側を向いた状態で、背中側からハリルホジッチがボールをぽーんと投げてくる。それに気付いた瞬間、走り込み、すぐにシュート。これも裏のスペースにこぼれ球、流れ球が来た状況から、点を取る形だ。

現代サッカーのトレーニングは、単純な技術練習やコンディショニングにも、戦術的な要素が盛り込まれる。仮にセネガル対策として、両ウイングを守備重視にしたら、2トップ気味のセカンドトップは、より裏を取って、点を奪える選手がいい。このような両ウイングを含めた前線の組み合わせは、仮想から本番に向けて変わるのではないか。

もちろん、セットプレーもその一つだ。ハリルホジッチは直接フリーキックを欲しがる割に、これまであまりセットプレーを工夫している様子がない。これも本番に向けて、びっくりぽんで出すと期待しよう。

ロングボールも改善点

もちろん、本番で変わる部分があるのは間違いないが、それでもマリに対して終了間際の1点のみ、というのは寂しいパフォーマンスだった。

前半の序盤は、マリの守備がまったく整っておらず、どこにパスを出しても崩せそうな状態だったが、時間の経過と共に、マリはコンパクトな守備をするようになり、起点となる大迫勇也へのボールも、前後で挟んでうまく潰すようになった。

逆に日本は大島が抜けると、整った守備を動かす縦パスが入らなくなり、ならばとDFからロングボールを入れても、その質は低く、空いた選手をタイミング良く発見することも出来ていない。「せーの」で蹴るか、追い詰められて蹴るようなロングボールばかりだった。これでは崩せない。

マリと比べると、セネガルは攻撃力だけでなく、デュエルも一層強い。仮にハイプレスに来た場合は、日本がロングボールに頼る展開も増えるだろう。だからこそ、ロングボールの精度の高さは、大島のクオリティーと共に担保されるべきものだが、その点が今ひとつなのは不安要素だった。

試合後にハリルホジッチが見せた苦悩の様子は、現状考えているセネガル戦のプランが、このままでは上手くいかないことを示すものか、あるいは数人のけがによって根底から崩れるリスクを痛感したものだろう。この状況を打破できるか。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

清水英斗の最近の記事