税金でリストラ支援!!~「リストラ助成金」による被害回復を~

リストラされた社員のイメージ(写真:アフロ)

1 「リストラ助成金」の正体

現在、安倍政権の下で拡充された「労働移動支援助成金」が、リストラを助長するために用いられている事が大きく報道され、連日のように国会でも追及されている。

この問題の概略は、この朝日新聞の記事がとても分かりやすい。

本来、この「労働移動支援助成金」とは以下のような制度と説明され、広く行政によって活用を促されてきた。

事業規模の縮小などに伴い離職を余儀なくされた従業員に対し、再就職の支援や、その受入れを行う事業主に助成金を支給します。

転職させる企業(送り出し企業)だけでなく、転職者を受け入れる企業(受入れ企業)にもメリットのある助成金です。離職を余儀なくされた労働者の雇用の安定のために、ぜひ、この助成金をご利用ください。

(厚生労働省作成「ご存じですか?労働移動支援助成金」より抜粋

要するに、建前は、労働者のための制度だ。

しかし、この政府のお金である「労働移動支援助成金」を利用して、人材会社が利益をむさぼりながら、リストラが助長されている(=クビキリ支援)実態が明らかになったのだ。

この「労働移動支援助成金」を拡大したのは、他ならぬ安倍政権だ。

そして、この政策を協力にプッシュしているのは、他ならぬ竹中平蔵氏。彼は、人材派遣会社大手の株式会社パソナグループ取締役会長という人材ビジネスに籍を置く業界人であり、安倍政権の政策を引っ張る日本経済再生本部・産業競争力会議のメンバーでもある。

竹中氏について、何故か多くのメディアで「慶応大学教授」の肩書きで紹介されているが、ここではこの記事に最も適している株式会社パソナグループ取締役会長の肩書きでご紹介しなければ、礼を失することになろう。

株式会社パソナグループ会長 竹中平蔵氏のメッセージ

2 安倍政権肝いりの政策

この「労働移動支援助成金」は、安倍政権の労働政策では「雇用維持型から労働移動支援型への政策のシフト」を実現するために、竹中氏の関わる民間人材ビジネスを支えるための「労働移動支援助成金の抜本拡充」が必要と提唱され、拡大されてきたのである。

1.成熟産業から成長産業への失業なき労働移動

Action1 雇用維持型から労働移動支援型への政策のシフト

平成25年3月15日田村厚生労働大臣名資料

アベノミクスの労働政策では、この「成熟産業から成長産業への失業なき労働移動」の重要性が強調されているが、労働移動を促し実現する役割を果たすとして拡大されたのが、「労働移動支援助成金」である。

そして、その助成金により、人材ビジネスが巨額の利益を得ているのだ。

この一連のカラクリは、人材ビジネスへの利益誘導のため、国費を用いてリストラにより国民の雇用を失わせているとの批判を、免れないだろう。

具体的には、2013年度から2014年度において「労働移動支援助成金」が150倍も増加(5.6億円⇒301億円へ)していることも国会審議などを通じて明らかにされている。

要するに、300億円を超える巨費が、リストラ支援に費やされたのだ。

このリストラ助成金が利用された具体的な手口は、今年2月22日、衆議院予算委員会での民主党大西健介議員の質疑が分かりやすいので、質疑を紹介する記事をそのまま引用しよう。

衆院予算委員会で22日、大西健介議員が一般的質疑に立ち、安倍政権が「1億総活躍社会」を標榜しながら「首切りビジネス」「解雇ビジネス」への支援を拡大している問題点を追及した。

「ある日突然上司に呼び出されて、この会社に貴方の活躍する場所はない」と言われることは、「1億総活躍社会」と真逆の状態ではないかと思うと切り出した大西議員は、製紙大手の王子ホールディングス(HD)と大手人材会社のテンプが厚生労働省の「労働移動支援助成金」を利用して退職勧奨、事実上の退職強要をしたという22日付の『朝日新聞』に掲載された事例を取り上げた。王子HDのリストラマニュアルを示しつつ大西議員は、経営側は「合意退職」の形にする必要があるため、リストラ対象社員にどういう話法で面談を行えば違法にならないかのすれすれの指南をしていると指摘。

このマニュアルの中で、人間が死を受容するプロセスと呼ばれている「キューブラー・ロスモデル」を紹介している点を大西議員は「許せない」と厳しく批判。「『貴方はもう死にますよ』と言われて、それを受容するというモデルを使って退職勧奨して合意退職を取る。これは実質的に退職強要だ」と強く批判。このようなリストラマニュアルが出回っていること、人材ビジネスが退職勧奨のマニュアルを作成し、企業にコンサルティングしていることの法的問題性を塩崎厚生労働大臣にただした。塩崎大臣は「マニュアルを見ていないのでコメントしようがない」と答弁回避に終始した。

(詳しくはhttps://www.dpj.or.jp/article/108441

3 法的問題は?

国会質疑や報道を通じて明らかになった人材ビジネスの手法は、法的にも多くの問題を含んでいる。

例えば、実際に日本労働弁護団によせられた相談でも見られるのは、「自分の再就職先を探す」「出向先を探す」ことを、企業が労働者に命じる手法だ。

そもそも、基本的には、企業と労働者との間の「労働契約」において「合意」された内容以外、労働者は応じる義務はない。労働者は、企業の「奴隷」では無い。企業が、労働者に対して「契約」(分かりやすくいえば、「約束」)の内容に含まれていない業務(再就職探しなど)を命じる権限がないのは、当たり前のことだ

仮に契約上はそのような権限が広く認められると解釈されるとしても、このような労働者の尊厳を踏みにじる非人道的な行為であり人事権の濫用として無効となるのは明らかで法的に許されない。

また、労働者が退職勧奨を拒否しているのに、人材会社へリストラ支援の面談に行くように会社が命令することも、人事権の濫用となり、法的に許されない。

しかし、この様な違法な業務命令が、多くのリストラ案件で広く行われてきた実態がある。

そして、多くの労働者が、この様な業務命令であっても、命令だから従わなければならないだろうと誤解をし、過酷な状況に置かれているはずだ。

このような違法な業務命令に対して、国会内外での厳しい追及にもかかわらず、厚生労働省は当初頑なに「不適切」とは言わなかった。

平成28年3月14日になって、ようやく厚生労働省は態度を改めた。同日の民主党・維新の党統一会派厚生労働合同部門会議への回答で、自分の再就職先を探すことを業務命令とすることは不適切であるとして新たな通達で明示されることが表明されたのである。

詳しくはこちらの朝日新聞記事

厚労省の最終的な判断自体は正しいものだ。

しかし、この通達の内容は、真っ当な法律家であれば異論がないだろう当たり前のことだ

この通達が出るまで時間がかかった過程をみると、安倍政権の政策が人材ビジネスと深い関わりがあることを実感させられる。

私には、厚生労働省が、多くの人材ビジネスが活用しているこの手法に対して指導を行うことに躊躇いがあったとしか考えられないのだ。

4 政府が今すぐやるべき対策は?

しかし、まだまだ政府のやるべき課題は残されている。

まずは、きちんとこの「労働移動支援助成金」の闇を明らかにすることだ。

この労働移動助成金を巡っては、人材大手テンプが退職の指南と再就職支援の両方に関与して、王子ホールディングスが「労働移動支援助成金」を受け取り、リストラを行っていた。

この王子HD、テンプHDの両社は、単なる業界の一企業ではない。

この王子HDの進藤清貴会長は日本経団連雇用政策委員会の委員長、テンプHDの水田正道社長は日本人材派遣協会の会長だ。

日本経団連、人材派遣業界の中核企業によって、これだけ卑劣な退職強要が、よりによって政府の助成金で行われていたのだ。その実態は、国会の審議で、国民の目にさらされなければならない。

現在、民主党はこの両名を衆院厚生労働委員会に参考人招致するよう求めている。与党は、この「労働移動支援助成金」を推進してきた責任を感じているのであれば、一刻も早くこの招致に応じるべきだ。

5 他にできることは?

この「労働移動助成金」によってリストラされた方は、数多くいるはずだ。

リストラ対象となった当事者の皆さんは、リストラ対象となることで人間としての尊厳を踏みにじられるばかりか、職場で孤立し、場合によっては大切な家族にも言えず、悩みを抱えている。

このような悩みを、ぜひ聴かせて欲しい。私のような労働者側の弁護士だからこそ、お伝えできる対処法もある。

日本労働弁護団では、このような皆さんの声を集めて、現在晒されている違法行為に対する法的な対処法をお伝えするため、以下のホットラインを緊急に開催することになった。

既に退職に応じてしまった方なども、ぜひ電話をよせて欲しい。今から出来ることをお伝えしたり、皆さんの憤り(国の金でリストラをアシストされた)を代弁し、国会に届けたいと思っている。

リストラ・退職勧奨・出向命令ホットライン(日本労働弁護団)

■2016年3月19日(土)10時~17時  03-3251-5363

(相談料は無料、通話料はご負担下さい)

*必ず日本労働弁護団の弁護士が対応します

さらに、政府のやるべきこと

なによりも、被害回復だ。

このような政府の関与が無ければ、人材ビジネスが企業へリストラなど持ち掛けることもなく、大切な雇用を失わずに済んだはずの方が多数いらっしゃるはずだ。

そのような方に対して、きちんと被害回復をさせるシステムを、政府は真剣に考えなければならない。

そうでなければ、政府が提唱する「一億総活躍社会」の実現などあり得ない。