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インディーゲーム展示イベント大盛況 大手メーカーが開催する理由と開発者が期待する支援とは

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「Indie Games Connect 2023」会場の様子(※筆者撮影)

コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)は、インディーゲーム(※)の展示・即売イベント「Indie Games Connect 2023」を4月30日に開催した。

※インディーゲーム:個人、あるいは小規模チームによって開発されたゲームの総称。主にダウンロード形式で販売されている。

本イベントの開催は昨年に続き2度目で、全68ブース(※協賛各社と団体による8ブースも含む)が出展。会場のコナミクリエイティブセンター銀座「esports 銀座 studio」には開場から多くの来場者が訪れ、終日ほぼ満員で大盛況となった。

会場には、ゲームメーカーから独立したプログラマー、本業を別に持つゲーム好きの社会人、学生サークルの仲間など、プロ・アマを問わずさまざまな動機で集まった開発者たちが作り上げた、個性あふれる作品が多数出展されていた。

終日大盛況となった会場(※筆者撮影。以下同)
終日大盛況となった会場(※筆者撮影。以下同)

講談社ブースに出展された、同社の支援を受けて開発されたインディーゲーム3種。同社ブースに限らず、会場内のゲームはすべて無料でプレイできる
講談社ブースに出展された、同社の支援を受けて開発されたインディーゲーム3種。同社ブースに限らず、会場内のゲームはすべて無料でプレイできる

イベントを通じた新たなビジネスモデルは模索段階

驚くことに、本イベントは東京・銀座という絶好の立地でありながら、出展料も一般来場者の入場料も無料。出展者によるパッケージソフトや関連グッズの物販もオーケーで、筆者が声を掛けた出展スタッフは「無料で多くの人に宣伝できる機会が得られて、とてもありがたい」と、誰もが異口同音に話していた。

出展者の選考は、応募が定数を超えたためコナミが抽選したうえで決定した。同社によると応募総数は非公開とのことだが、前回の約3倍もの応募があったとのこと。開催2回目にして、早くもインディーゲーム界隈で良い評判が広がっていることが窺える。

そもそも大手メーカーのコナミが、インディーゲームを支援するイベントをわざわざ開催しようと考えたのはなぜなのか?

コナミの事業推進本部上席主査の安慶名伸行氏によると「近年はゲームの作り方や遊び方、売り方が大きく変化している中で、我々もインディークリエイターに注目するようになりました。まずはいろいろなクリエイターさんとお会いして、どういう活動をされているのかをぜひ知りたい、仲良くさせていただきたいと思ったところから始まりました」とのこと。

今後は本イベントを土台にして、例えば出展タイトルの版権を買い取って発売するなど、どのような形でビジネスモデルを構築する予定なのかも伺ったところ「現時点では特に考えておりません」(安慶名氏)という。営利企業が実施する以上、将来的には黒字化を目指しているのかと思いきや、まったくもって意外な回答であった。

まだイベントは2回目ということもあり、現時点では情報収集のフェーズに留まっているようだ。とはいえ、昨年よりも多くの開発者と来場者が訪れたことで、今後の参考となる情報がいろいろと集まり、単なる実験以上の「先行投資」が十分にできたのではないかと思われる。

会場に備え付けられた、巨大なプロジェクターに出展タイトルの映像を繰り返し流し、各ブースの宣伝や案内をしていたのも非常に良いアイデアだった。これも普段からeスポーツの配信ができる施設を持つ、主催社ならではの大きなメリットだ。

また会場では、学生の作品を対象としたコンテスト「Indie Games Contest 学生選手権」受賞者の表彰式が行われ、受賞作teの展示コーナーも設置されていた。プロの開発者が審査するコンテストも並行して行うことで、学生に本イベントに合わせてゲームを完成させる大きな目標を提供したことも、開催意義のひとつになっていると言えるだろう。

(参考リンク)

・「Indie Games Connect 2023学生選手権」結果発表

会場内でひと際目立つ、巨大プロジェクターを利用してゲームの宣伝、案内を実施するアイデアも出展者にはありがたかったことだろう
会場内でひと際目立つ、巨大プロジェクターを利用してゲームの宣伝、案内を実施するアイデアも出展者にはありがたかったことだろう

「Indie Games Contest 学生選手権」受賞作品の展示コーナー
「Indie Games Contest 学生選手権」受賞作品の展示コーナー

大手メーカーがインディーゲームを支援する最善策とは

本イベントのほかにも、任天堂はNintendo Switchで遊べるインディーゲームを紹介する動画「Indie World」や「よゐこのインディーでお宝探し生活」を2018年から不定期に配信し、バンダイナムコエンターテインメントは展示イベント「TOKYO INDIE GAMES SUMMIT」のメインスポンサーになるなど、大手メーカーによるインディーゲーム支援の実施例がいくつか存在する。

では、当のインディーゲーム開発者は、大手メーカーの支援をどのように評価しているのだろうか? インディーゲーム開発者向けメディア「IndieGamesJp.dev」の運営、および日本初のインディーゲーム向けインキュベーションプログラム「iGi indie Game incubator」のアドバイザーを務める、株式会社ヘッドハイの一條貴彰氏に伺ったところ以下のようなコメントをいただいた。

「ゲーム開発者としての私からの視点では、ここ2、3年ほどの間に個人や小規模ゲーム開発者に対し、大手のメーカーさんも注目して下さるようになった実感があり、とても嬉しく思います。ただ、どのように開発者と接したり支援をしたりすればいいのか、どのメーカーさんもまだ手探りではないかと感じており、それぞれがいろいろな試みをしているのが現状ではないかと思います。

 パブリッシングや開発資金の前払いは、すでに実践している例がいくつかありますので、個人的にはマーケティング部分、特に海外市場とのつながりが提供される仕組みがあると良いのではと考えています。大手のメーカーさんは海外に支社を設けていたり、地域のマーケティング会社と契約したりしていますので、これらのネットワークを生かしてご支援をいただく形ですね。

 また、最近では90年代から活躍している日本のゲーム作曲家が、海外のインディータイトルへ楽曲提供を行うケースが増えてきました。例えばですが、大手メーカーさんの社員として働く作曲家さんへ特例的に副業を許可し、日本国内のインディータイトルの楽曲制作に関わることができる仕組みを作ってみてはいかがでしょうか。ほかにも、まだまだ期待していることはたくさんあります」(一條氏)

昨今は、無料で使えるゲーム開発エンジンの普及によりゲーム開発を趣味とする人が増え、家庭用ゲーム機やPC、スマホなどプラットフォームを問わず、インディーゲームを商品化しやすい環境が日々充実していく印象を受ける。

その一方「どのプラットフォームも販売手数料が高いので、リソースが限られるインディーゲームをビジネスとして成功させるのは現状では難しい」との声も以前からしばしば聞かれる。ゆえに、一條氏の意見は大いに傾聴すべきではないかと思われる。

コナミに限らず、今後は大手メーカーがインディーゲームをどのように支援し、自分たちのビジネスへと結び付けるのか。その動向には引き続き注目したい。

(参考リンク)

・「Indie Games Connect 2023」公式サイト

YouTubeのコメント機能を利用してVTuberといっしょに遊べる、一風変わったシミュレーションゲームを出店していた「ぴっくる」ブース
YouTubeのコメント機能を利用してVTuberといっしょに遊べる、一風変わったシミュレーションゲームを出店していた「ぴっくる」ブース

こちらは5次元ブースに出展されていた、Apple Watchを使用してプレイヤーの歩数とも連動する、驚愕のアイデアを導入したノベルゲーム
こちらは5次元ブースに出展されていた、Apple Watchを使用してプレイヤーの歩数とも連動する、驚愕のアイデアを導入したノベルゲーム

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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