3年ぶりにリアル開催となった「国体eスポーツ」 会場で見えた現状と課題
「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」の文化プログラム事業にあたるeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2022 TOCHIGI」が、栃木県宇都宮市の日環アリーナ栃木で10月15~16日にかけて開催された。
本大会は、2019年の第1回大会以来、3年ぶりに有観客でのリアル開催が実現した。筆者も第1回に続き、初日の15日に現地へと足を運んでみた。
以下、筆者が会場で気付いた、以前との違いや気になった点などをまとめてお伝えする。
晴れ舞台でプレイ、応援できる嬉しさを改めて実感
2020年の鹿児島県、2021年の三重県での大会は、いずれもオンライン開催を余儀なくされた。今回はリアル、しかも有観客での開催となったことで、選手たちは今ここでしか体験できない、特別な舞台でプレイできる喜びを存分に堪能していたように見えた。
試合終了後には、選手たちがお互いの健闘を称えて一礼や握手を交わす場面もたびたび見られた。おそらく控室では、新たな友情や交流が続々と生まれていたことだろう。
応援に駆け付けた、選手の保護者や家族の皆さんも「声出し応援NG」の制約があるなかでも非常に盛り上がっていた。勝敗にかかわらず、とても良い思い出ができたことだろう。リアル開催になって本当によかったと思う。
「国体eスポーツ」としての今後の課題
喜ばしさの一方で、気になる点も散見された。
選手の保護者や家族が数多く応援に駆け付けたこともあり、終日盛況だった「ぷよぷよeスポーツ」の観客席に比べると、ほかのタイトルはお世辞にも賑わっているとは言えない状況だった。
とりわけ寂しかったのは「Shadowverse(シャドウバース)」の観客席で、初日は客がほとんど入っていなかった。しかも、観客席からはプレイ中の選手の姿がまったく見えない構造になっていたので、これでは初めてeスポーツの観戦に訪れた人の興味を引くことは不可能だろう。
実況の音声や、観客からの助言が聞こえないようにするため、選手たちを密室の中でプレイさせる形にしたと思われるが、これではせっかく実現したリアル開催の意味がないように思える。例えば、仕切りには透明のアクリル板などを使用して、プレイ中の選手たちが観客席からも見えるよう配慮してほしかった。
「ぷよぷよeスポーツ」や「パズドラ」「グランツーリスモ7」の観客席にはモニターが設置され、ステージから離れた場所でも競技を観戦しやすくなっていたが、ほかのタイトルはモニターが観客席から遠い場所にあったので観戦しにくい印象も受けた。
「eFootball」や「プロ野球スピリッツA」は、観客席からでも(ゲーム画面内の)選手の動きは目で追えるものの、作戦や戦術などのメッセージ表示はモニターの位置が遠くてほとんど見えず、「Shadowverse」にいたっては画面に表示されるカードの判別すらできなかった。
開会式では、大型プロジェクターに地元、栃木県のプロモーション映像や主催者挨拶などを映していたが、このプロジェクターを競技中にまったく使用しなかったのも疑問に思えた。
プロジェクターの周辺には比較的広いスペースもあったので、ここを利用してeスポーツ初心者向けの観戦ガイドや、個々のタイトルの遊び方をレクチャーした映像を流してもよかったように思われる。
地元、宇都宮市の周辺から観戦に訪れた客が、第1回大会に比べてあまり見掛けなかったのも気になった。
本大会は、第1回から国体の正式競技ではなく、文化プログラムの一環として開催されているが、JSPO(日本スポーツ協会)が定める「国体諸規程」の「文化プログラム実施基準」には以下のような記述がある。
以前に拙稿「国体で初開催となったeスポーツ 奇跡の偉業を、なぜ茨城県は実現できたのか?」でも書いたが、茨城県の担当者が国体でeスポーツを開催しようと考えた動機は、国体そのものの認知度向上だった。
はたして今回は、上記の目的を達成し、ひいてはeスポーツの普及を進めるためのプロモーションが十分に実施できていたのだろうか? 「国体」で開催する意義という観点からも、次回以降の大きな課題が残ったように思う。
また、本大会が各メディアで報道される機会が、第1回大会からどんどん減っている感があることも併せて指摘しておきたい。
(参考リンク)