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女性のオーガズム障害とは?原因や対処法は?産婦人科医によるマジメな解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

女性のオーガズム障害ってなに?

オーガズム(Orgasm)とは、生理学的・医学的な定義として、性的刺激の蓄積によって至る生理的現象であり、男女ともに

・生殖器周辺の筋肉の素早くリズミカルで強い収縮

・心拍数、呼吸数、血圧の増加/上昇

が起こるものとされています。

これは、セックスの場合もセルフプレジャーの場合も同様です。

なお、女性は男性と異なり、オーガズムを比較的長時間維持することができ、オーガズムに至った直後であっても、さらなる性的刺激により再度オーガズムに達することができます(基本的に、男性は連続してオーガズムには至れません)。

十分な性的刺激があるにもかかわらず、十分なオーガズムに至れない、至るまでに長時間かかる、または全くオーガズムを感じられないものを「オーガズム障害(orgasmic disorder)」と呼び、広い意味での「性機能障害(sexual dysfunction)」の一つに含まれます。

米国産婦人科学会のFAQを参照のこと)

なお、オーガズム障害の診断には、性行為のすべてまたはほとんどすべての場面で認められ、それが女性自身にとって大きなストレス・苦痛をもたらすものである必要があります(このため、オーガズムに至れなくても悩んでいない場合は「オーガズム障害」と呼ばれません)。

どのくらいの女性がオーガズム障害なの?

海外における疫学調査(アメリカ、イギリス、オーストラリアなど)では、およそ20〜30%の女性が「オーガズムを得ることに悩んでいる/困っている」と報告されています。(文献1-4)

ただ実際に「オーガズムが得られないことに伴う大きな苦痛」を感じている女性はもっと少なく、全女性の10%以下と推定されています。

なお、日本における大規模なデータはあまりないのですが、2020年に実施されたインターネット調査(約5000名の男女を対象)の結果では、女性の中で「セックスに関する悩み・コンプレックス」として「オーガズムに達することができない」と回答した人は21.5%で、大きな苦痛とまではいかずとも、オーガズムを得られないことに悩みを持っている女性は少なくないのかもしれません。(文献5)

どんな人がオーガズム障害になりやすい?

一般人口における「オーガズムの悩み」に関するリスク要因として、以下のようなものがあると報告されています。(文献6,7)

・収入の低さ

・健康状態の悪化

・うつ病およびその他の精神疾患

収入の低さによる生活不安、健康状態の悪化や精神疾患に伴う心身の変化は、性生活にも大きな影響を与えることは容易に想像できます。

ただ、こうした要因とは別に、普段の生活で関わるような身近な要因はないのでしょうか?

セックスの際のテクニックとオーガズムに関する研究では、オーガズム障害やそれによる苦痛に年齢差はあまり認められませんでした。(文献7)

加えて、オーガズムを良好に得られることと関連する要因として、以下のものが関連していることが示されていました。(文献7)

・初めてのオーガズムを感じた年齢が比較的早い

・パートナーが使用するテクニックのレパートリーが比較的多い

・ペニスの腟内挿入によってオーガズムを得られる

・性的欲求を重視している

・比較的容易に性的な興奮を得られる

逆に、オーガズム障害を引き起こすような要因として以下のものが挙げられています。(文献8-10)

・性格特性(内向性、新しい経験に抵抗を持ちやすいなど)

・心理学的要因(性的な不安)

・セックスや性的行為への否定的な感情や考え

・対人/人間関係(パートナーとの関係性への不安、性的な会話をしないコミュニティにいることなど)

・婦人科疾患(性交痛・骨盤痛を伴うものや、加齢に伴う腟の乾燥など)

・服用中の薬物(抗うつ薬など)

・男性の射精の速さ

・不十分な前戯

上記の中には、「自分だけが関わる要因」「パートナーとともに関わる要因」があります。

自分の考えを変えることで解決できそうなもの、パートナーとの相談や工夫が必要そうなもの、医療機関への受診が必要なもの、などを把握することで、原因となっているものの解決・改善がしやすくなるかもしれませんね。

オーガズムが得られないことへの対処法は?

これまでに、オーガズム障害の定義や頻度、その要因などを解説してきました。

もともとオーガズムを普段から得られる女性は半数以下とも言われていますので、オーガズムが十分に得られないことに伴うストレスや苦痛がなければ、何らかの対処が必須なわけではありません。

しかし、前述の日本の調査報告でも、5人に1人は「オーガズムを得られないことに悩みを感じている」ため、対処法を知りたいと考えている女性も少なくないでしょう。

それでは、対処法の例をご紹介します。

1. パートナーとの関係性を改善する

もし一度もオーガズムを経験したことのない場合には、まずはセルフプレジャーによってオーガズムに到達してみることが大きな一歩になります。クリトリスへの刺激を含め、自身が安心して心地よくなれる状況を作り、試してみましょう。

一方で、セルフプレジャーではオーガズムに達することができるのに、パートナーとのセックスでは至れないという状況であれば、パートナーとの関係性を改善することが解決につながるかもしれません。

パートナーとの関係性への不安や悩みを相談し、それが払拭されれば、より安心することでオーガズムに達しやすくなる可能性があります。

2. セックスの際に工夫する

同様に、パートナーとのセックスではオーガズムに至れないという場合には、性行為における工夫で改善できる可能性があります。

例えば、十分な前戯の時間をとる、快感を得られる前戯をしてもらう、クリトリスへの刺激をしてもらう(適度な範囲で)、などによって解決するかもしれません。

また、ローションを使うことで挿入中の痛みや不快感が減り、より快感が得られるようになることもあります。

ちなみに、大半の女性は腟内の刺激だけではオーガズムに至ることはできず、クリトリスへの刺激が必要だとされていますので、試してみる価値が大きいと考えられるでしょう。

なお、パートナーに性機能障害がある場合にはその治療をすることが状況の改善につながる可能性があります。

性行為の際の痛み(性交痛)についてはこちらの記事で詳しく解説しているのでご参照ください。

実は女性の4人に3人が悩む性交痛、どんな原因があるの? 産婦人科医による解説

3. 自身の体や性行為に対するネガティブな気持ちをポジティブに変える

もともと自身の体や性行為に対してネガティブな考えや感情を持っていると、オーガズムには達成しにくいと考えられています。(文献11)

ネガティブな感情を抱いてしまう理由にはさまざまなものがあり、中には過去のトラウマが影響していることもあるでしょう。

自身のボディイメージを改善するため、例えば肥満体型にコンプレックスを抱いている場合には適度な範囲での体重減少が性的関心や満足度の改善につながる可能性があります。

自分自身で性行為に対するネガティブな感情を変えることは簡単ではないかもしれませんが、信頼できて性行為へポジティブな考えを持っている人と話すことで、違った見方や考えを得られるかもしれません。

また、カウンセリングやセックスセラピーなども有効な場合があります。

4. 精神疾患や身体疾患を治療する

前述したように、うつ病をはじめとした精神疾患や、子宮内膜症や腟炎など骨盤・腟の痛みを引き起こす疾患、骨盤機能の低下(排尿障害や骨盤臓器脱など)は、オーガズム障害の原因となります(オーガズム障害だけでなく、広い意味での性機能障害に関連します)。

これらは各疾患に対する適切な評価と治療が必要になるので、まず医療機関へ相談しましょう。

5. 生活環境を改善する

これはオーガズムだけに限りませんが、生活環境は性行為における反応や満足度に大きく影響します。

疲労やストレスは性欲減退をもたらしますので、根本的な睡眠の問題を改善または治療したり、働く時間を調整して心身のストレスを軽減させたりすることで、多くの場合に性機能が改善されます。

また、運動、ヨガ、その他のリラクゼーションによってストレスを軽減すると、性的関心や満足度が向上することがあると報告されています。この研究では、オーガズムに関しても改善が認められ、45歳以下の女性よりも45歳以上の女性でより大きな改善があったと報告しています。(文献12)

他に、性に関する書籍(教育的なものと性的興奮を得られるもののどちらも)を読む、性的快感を高めるようにデザインされた商品を試してみる、なども有効な場合があります(ただし、口から摂取するサプリメントや外陰部に塗るような製品は効果がないばかりか健康面に悪影響を及ぼす場合もありますのでご注意ください)。

ハーブやサプリメントには要注意

性欲や興奮、満足度を高めると宣伝されている市販のハーブやサプリメントを試してみたいと思っている、または試した経験のある女性は少なくないかもしれません。

ただし、こうした製品の多くは、安全性と有効性が科学的プロセスによってきちんと証明されておらず、省庁による監視や制限も十分でないことから、医学的に勧めることはできません

また値段が比較的高いものが多いため、購入する際には十分注意してください。

セックスでの痛みや困った心身の症状があればまず受診を

最後に、医療機関への受診の目安をお伝えしておきます。

上にも書きましたが、セックスの際に腟や骨盤の痛みを感じる、尿もれなどの排尿障害や更年期症状がある、といった場合には早めに産婦人科を受診してください。まずはそれら痛みなどの原因となっている病気がないか調べることが重要ですし、更年期症状の治療がオーガズムの改善につながる可能性もあります。

また、精神的に落ち込んでいたり、うつ病の徴候(物事に楽しさや興味を感じられない、気分が憂うつで泣いてしまう、など)があれば、早めに精神科や心療内科を受診しましょう。

本記事が、オーガズムや性的満足度に悩む女性の一助になれば幸いです。

(著者に利益相反はありません)

参考文献:

1. Laumann EO, et al. Int J Impot Res 2009; 21:171.

2. Laumann EO, et al. JAMA 1999; 281:537.

3. Read S, et al. J Public Health Med 1997; 19:387.

4. Richters J, et al. Aust N Z J Public Health 2003; 27:164.

5. 【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020 調査報告書.

6. Laumann EO, et al. Int J Impot Res 2005; 17:39.

7. Fugl-Meyer KS, et al. J Sex Med 2006; 3:56.

8. Moura CV, et al. J Sex Med 2020; 17:2220.

9. Harris JM, et al. J Sex Med 2008; 5:1177.

10. Kontula O, et al. Socioaffect Neurosci Psychol 2016; 6:31624.

11. Pace G, et al. Menopause 2009; 16:1188.

12. Dhikav V, et al. J Sex Med 2010; 7:964.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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