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女性不妊症の主な原因、多のう胞性卵巣症候群(PCOS)ってなに?将来の様々な病気のリスクにも

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

多のう胞性卵巣症候群 (PCOS)ってなに?

多のう胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome; PCOS)は、女性の卵巣やホルモンに関わる疾患の一つです。

不妊症の原因として、日本では特に「妊活(妊娠)時期の高年齢化」が注目されていますが、米国ではPCOSは最も主要な不妊症の原因とも言われており、生殖可能年齢の女性の8〜16人に1人が抱えているほど多い疾患です。(文献1)

なお、診断基準の違いなどから、東アジアの国々の有病率は約6%前後となっています。(文献2)

どんな症状やリスクがあるの?

PCOSは、ホルモンの分泌異常によって、月経不順・無月経・無排卵、そして不妊症などの原因となる疾患です。しかし、PCOSを持つ女性は、不妊症以外にも、子宮体がん、糖尿病、心血管系疾患、メタボリックシンドローム、不眠症、うつ病など、様々な病気のリスクが高いと言われています。

PCOSの症状は、月経不順・不妊・肥満・多毛症・黒色表皮腫(皮膚が黒く厚くなる疾患)などがありますが、日本など東アジア諸国では肥満や多毛症を伴わないタイプが多く、月経不順や不妊症の症状しかない女性が比較的多いとされています。(文献3,4)

また、超音波検査で多のう胞性卵胞(卵巣に卵胞が数珠状にたくさん連なって見える状態)や、血液検査でアンドロゲン(男性ホルモンの一種)、LH(黄体ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)などの性ホルモンの異常値がみられることも特徴的です。

PCOSの原因は?

PCOSのはっきりとした原因はわかっていませんが、アンドロゲンの分泌異常やインスリン抵抗性といったものが関連しているといわれています。

そのため、肥満・糖尿病やPCOSの家族歴などは重要なリスク因子となりますが、日本人は正常体重でもPCOSを持つ女性が多くいます。(文献1)

PCOSによる影響をさらに詳しく

(1) 不妊症

PCOSではホルモン分泌異常によって卵巣内の卵胞が育ちにくくなるため、排卵が起こりにくくなります。また、排卵しない複数の卵胞から分泌されるホルモンは、全体のホルモンバランスを乱す悪循環を生み出すため、月経不順、無月経、無排卵が起こるようになるのです。

通常、無排卵の場合には妊娠ができないため、妊娠するためにはホルモン治療が必要になります。

(2) 子宮体がん(子宮内膜がん)

PCOSによる月経不順や無排卵があると、子宮内膜が厚いまま維持されることにより、子宮内膜がんのリスクが増加してしまいます。

また、PCOSに肥満の合併が多いことも、子宮体がんのリスクと考えられています(脂肪細胞から分泌されるエストロゲンによって内膜の成長が助長されるため)。

PCOSによる乳がんや卵巣がんへの関連性は、現在のところまだはっきりしていません。(文献5)

(3) 糖尿病(2型糖尿病、妊娠糖尿病)

肥満は糖尿病のリスク因子であることは有名ですが、PCOSの女性が肥満を合併すると、BMI (body mass index) の増加に応じて、若年での2型糖尿病や妊娠糖尿病発症のリスクが増大することが示されています。(文献6)

また、PCOSはインスリン抵抗性との関連があり、肥満や食生活の状況などと相乗効果を起こします。

(4) メタボリックシンドロームや心血管系疾患

PCOSの女性は、脂質異常症(高LDL・高TG・低HDL血症)や動脈硬化の発症リスクが高くなることから、メタボリックシンドロームになりやすいことが知られています。(文献7)

肥満・糖尿病を合併しやすいことも心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症リスクを上げるため、注意が必要です。

(5) 不安症・うつ病

PCOSを持つ女性は、通常の3-4倍ほど、うつ病や不安症の発症リスクが高いと言われています。

肥満傾向・多毛・不妊の悩みなどによる自己肯定感の喪失が関係する可能性もありますが、それらとは関係なく、ホルモン異常(セロトニン分泌量低下)が関係しているという報告もあります。(文献8,9)

「月経不順」や「なかなか妊娠できない」、それはPCOSかも

PCOSは月経不順や不妊を疑って産婦人科を受診した時に初めて診断されることが多いでしょう(ご自身では判断がつきませんからね)。

しかし、PCOSの病態は、実は初経の頃から始まっていて、年齢を経るごとに悪化していくと考えられています。(文献1)

そして、PCOSによる影響は、月経・妊娠など生殖に関わることだけではなく、知らないうちに生活習慣病・がん・精神的疾患のリスクへと繋がります。

つまり、将来の妊娠・出産を希望していなくても、女性の健康や生活を脅かす可能性があるのです。

もしPCOSと早期に診断されれば、低用量ピルなどのホルモン療法を行うことで、上記のリスクを下げられる可能性があります

ご自身の将来のために、「もしかしたらPCOSかも?」と思うことがあれば、早めに産婦人科を受診してみましょうね。

政府が進める新たな「不妊予防支援対策」

なお、ちょうど2021年6月20日に、政府が近く取りまとめる不妊予防支援対策の中身が明らかになりました。

具体的な対策として、自治体や企業などが実施する健診項目に、月経痛や生理前の不調などに関する項目を盛り込む検討を行うようです。

健診項目を充実させることで、異常の早期発見につながる狙いがあるのでしょう。

PCOSを含め、気になる症状があれば早めに産婦人科で相談してみることをお勧めします。

参考文献:

1. Centers of Disease Control and Prevention. ”PCOS (Polycystic Ovary Syndrome) and Diabetes”.

2. Kim JJ, Choi YM. J Obstet Gynaecol Res. 2019 Dec;45(12):2330-2337.

3. 米国産婦人科学会(ACOG) FAQs. Polycystic Ovary Syndrome (PCOS).

4. Sendur SN, Yildiz BO. Reprod Biomed Online. 2021 Apr;42(4):799-818.

5. アメリカ国立衛生研究所(NIH). Can PCOS lead to cancer?

6. Rubin KH, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017 Oct 1;102(10):3848-3857.

7. Dokras A. Steroids. 2013 Aug;78(8):773-6.

8. Cooney LG, et al. Hum Reprod. 2017 May 1;32(5):1075-1091.

9. Shi X, Zhang L, Fu S, Li N. Arch Gynecol Obstet. 2011 Sep;284(3):773-8.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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