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「濃厚接触者は隔離なし」…オミクロン株拡散で変わる韓国の新型コロナ防疫

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
韓国ではオミクロン株の拡散を受け、大きく防疫体制を変える。(写真:ロイター/アフロ)

韓国でオミクロン株が猛威を振るいつつある。過去最高の感染者数の半数以上がオミクロン株によるものとなり、感染者は今後、現状の数倍にまで増えるとされる。この状況を前に韓国政府が始める「ウィズコロナ」を見越した新たな防疫政策を整理した。

●日本換算で3万人超え

26日午前9時半、恒例の新型コロナ新規感染者数を知らせるLINEが届いた。1万3012人、そして国内感染1万2743人、海外からの入国者269人と詳細な説明が続く。

韓国政府は約2年前の新型コロナ拡散開始時から一貫して、前日の0時から24時までの新規感染者(感染が判明した者、として確診者と呼ぶ)を翌日に発表するルーチンを続けてきた。そして、ついに一日の新規感染者が1万人を超えた。

韓国の人口は約5200万人であるため、日本の人口約1億2500万人に換算すると約3万1200人となる。6万人を超える日本の半分程度だが、昨年や一昨年の感覚からすると、とてつもない数である。

●4つの地域で始まるテスト

新規感染者の内、オミクロン株が半数を超えたのは先週末のことだ。そして25日の時点で、韓国の感染症防疫のコントロールタワーである疾病管理庁は「今月中にオミクロン株の占有率が90%を超える」という見立てを示している。

こんな拡散を受け、韓国政府は今日26日から新たな防疫政策を始める。まずはテストケースとして、既にオミクロン株が大きく広まっている南西部の光州(クァンジュ)広域市、全羅南道(チョルラナムド)、そして首都圏である京畿道(キョンギド)の平澤(ピョンテク)市と安城(アンソン)市の4地域が選ばれた。

まずはPCR検査制度の変化がある。韓国ではこれまで濃厚接触者であるかにかかわらず、希望すれば誰でも全国で無料のPCR検査を受けることができた。

しかし今後は、濃厚接触者もしくは60歳以上の「高危険群」の者だけがこれまでと同様のPCR検査を受けられる。それ以外の者はまず3〜20分ほどで結果が分かる迅速抗原検査キットを通じ簡易検査を行い、ここで陽性が出てはじめてPCR検査を受けられる形に変わる。

さらに病院の役割も変わる。これまでいわゆる「街の一般的な病院(開業医によるものを想像していただくとよい。韓国では医院級と呼ばれる)」はワクチン接種以外にPCR検査や新型コロナ治療を行ってこなかった。

だが今後は「呼吸器クリニック」という名を与えられ、迅速抗原検査キットでの検査、そして陽性時のPCR検査まで扱う。さらに陽性者の在宅治療の管理まで受け持つなど、政府の防疫体系に組み込まれる形となる。なお、迅速抗原検査キットは無料で配布される。

●濃厚接触者の隔離なし

上記の4つの地域とは別に、全国でも防疫制度が変わる。これまで感染者はの隔離期間は10日間となっていたが、ワクチン接種が完了した者はこれを7日に短縮する。

なお、ワクチン接種の完了とは、3度目の接種を終えた者(26日時点で、全人口の50.4%)もしくは、2度目の接種を終えて104日以内の者を指す。

さらに、濃厚接触者の隔離期間が従来の10日からゼロに変わる。これもやはりワクチン接種を完了した者が対象だ。そうでない場合には7日間の義務隔離と3日間の自主隔離となる。

なお、濃厚接触者は「マスクをせずに2メートルの距離で感染者と15分以上、対話する水準で接触した者」となっている。

新型コロナの拡散が続く韓国で、ドライブスルー検査の受付終了の札を持ち誘導する保健所の職員。昨年12月、筆者撮影。
新型コロナの拡散が続く韓国で、ドライブスルー検査の受付終了の札を持ち誘導する保健所の職員。昨年12月、筆者撮影。

●「一般病院」へのサポートが欠かせず

現在明らかになっている新たな防疫対策は以上の通りだ。検査や治療の方法が変わる4つの地域でのテストケースは早ければ今月末、遅くとも2月初頭には全国に適用される。

こうした変化の背景には、政府が25日に明かしたように「最大で一日3万人(日本換算約7万2000人)」という水準にまで新型コロナが拡散することを見越した上で、医療機関の負担を減らす目的がある。

韓国では現在、一日約25万人がPCR検査を行い、85万人まで検査ができる能力があるとされるが、オミクロン株が猛威を振るう場合にさばき切れない可能性があるためだ。また、政府の基調として「死者をなるべく減らす」という点をはっきりとさせているため、医療リソースを有効活用するための手段でもある。

一方で、新たな防疫体系への憂慮もある。全国で585か所が指定されている「呼吸器クリニック」では新型コロナ感染者と一般患者の動線がぶつかるスペースの問題や、人手不足の声が上がっている。

さらに「一日の感染者が10万人を超える可能性もある」と見立てる医療専門家もいる中で、文字通りの大流行になった際に充分に対応できるのかという懸念もある。

韓国では今週末から来週の水曜日(2月2日)にかけて、旧暦のお正月を迎え5連休となる。政府は帰省の自粛を呼びかけており、オミクロン株拡散の峠になると見られている。

●「ウィズコロナ」に向けて

韓国では昨年11月1日から、新型コロナ防疫と経済・社会生活の両立を目指す「ウィズコロナ」政策に舵を切ったが、感染者急増を受け45日間で中止した経験がある。

現在では全国の飲食店は夜9時までの営業となっており、映画館やネットカフェなどの施設も夜10時まで(映画は夜9時まで上映開始)と厳しい規制が続く。

幸い、今の時期から2月末まで小学校〜高校の冬休み期間であるため、時間的に余裕がある。とはいえ、韓国メディアでは「ワクチン接種の普及や営業規制などにより他の国よりも拡散速度は多少遅いだろう」とする見方もあり辛抱を強いられることに変わりはない。

過去2年間、政府の方針に左右されてきた自営業者の我慢も限界に達している。25日、国会前では自営業者299人が集まり、頭髪を丸刈りにするデモを行い「この先には破産しかない」と訴えた。

一方で、政府関係者からは「オミクロン後」の話も少しずつ漏れ聞こえてくる。飲み薬の普及やオミクロン株による免疫獲得により、今年下半期からは大幅な防疫措置の緩和が可能になるという見通しがそれだ。

しかし今は目の前のオミクロン株の席巻をどう乗り切るかが問題だろう。約40日後の3月9日に大統領選挙を控えていることもあり、韓国社会では落ち着かない日々が続く。

自営業者のデモを伝える韓国『SBS』のニュース。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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