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日韓を駆け抜けた米国外交、「韓国は弱腰・孤立」と読んではいけない訳

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
18日、青瓦台で面談を持った文大統領(中央)と米国の国務(左)・国防両長官(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ここ数日、“東アジアの今後”をめぐるニュースが溢れた。米国の外交・国防を司る両長官が日本と韓国を訪れ、活発な会談と意見の開陳を行ったからだ。その結果、日米韓の複雑な関係が明らかになったが、読み方には注意を要する。

●共同宣言に「抜けた」もの

18日午前、韓国ソウル市で、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官と、徐旭(ソ・ウク)国防長官、そして米国のトニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官の間で「2+2会談」が行われ、その結果はすぐに共同声明として発表された。

声明では米韓同盟の重要性を強調すると共に、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の問題に対応する原則を明かし、こうした問題意識を世界的な脅威が高まる中、インド太平洋地域でどう実現させていくのかについての内容が入った。

だが、2日前に行われた日米「2+2会談」の内容とは多少、異なる内容だった。

特に“日本にあって韓国に無かったもの”について注目が集まった。「中国による既存の国際秩序と合致しない行動」、「北朝鮮の完全な非核化へのコミットメント」といった内容がそれだ。

代わりに入ったのは「両国の長官たちは北韓(北朝鮮)の核・弾道ミサイル問題が同盟の優先関心事であることを強調」という表現で、「中国」という単語は一度も出てこなかった。

こうした“差”について、伝統的に米韓同盟を重要視してきた韓国の保守紙は、文政権に対する非難のトーンを高めている。

19日の社説で『朝鮮日報』は“北朝鮮非核化”が抜けた理由について、「声明文の分量に制限があったため」と答えた政府を嘆いた。さらに“北朝鮮非核化”という用語が共同声明から外れた背景に文大統領の指示があるとして非難した。

また、『中央日報』は「政府がこれまでの戦略的な曖昧さにだけこだわり、(米国の主張の)受け入れを忌避する場合、韓国は同盟の枠組みの外の独りぼっちになる公算が高い」と危機感をあらわにした。

さらに過去20年以上にわたって国際社会で提起され続けている北朝鮮人権問題をも韓国政府が「スルー」したことが、保守紙を中心に言及されている。つまりは、中国や北朝鮮を刺激するような危険を韓国政府が全て避けた、弱腰だ、という批判だ。

筆者は予言者ではないが、今後数日、日本のメディア(特にウェブコラム)ではこんな「韓国弱腰論」「韓国孤立論」が幅を利かせることは間違いないだろう。だが、ことはそう単純ではない点を指摘しておきたい。

【関連記事】

[全訳] 2021年 韓米外交・国防長官会議共同声明(2021年3月18日)

https://www.thenewstance.com/news/articleView.html?idxno=3036

18日、記念撮影に臨む米国のトニー・ブリンケン国務長官(左)と鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官。韓国外交部提供。
18日、記念撮影に臨む米国のトニー・ブリンケン国務長官(左)と鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官。韓国外交部提供。

●「日韓の差」を理解すべき

韓国の憲法4条には「大韓民国は統一を志向する」と明記されており、これは1994年に『韓民族共同体建設のための三段階統一方案」として具体化されている。

「自主・平和・民主」を原則とし、「和解協力」→「南北連合」→「統一国家」という三段階を経て「自由・福祉・人間尊厳性が実現された先進民主国家」を達成するというものだ。

これを実現するためには朝鮮半島での冷戦体制を終わらせることが先決となる。冷戦の産物である1945年8月の南北分断と、1948年の南北両政府の樹立、そして1950年から53年まで続いた朝鮮戦争を経て今なお停戦状態として固着化している「戦時体制」から「平和体制」への転換だ。

さらに、今はここに北朝鮮が2017年に「完成」させた核兵器と、「G2」である米中対立という新機軸が組み合わさり、方程式が複雑になっている。

しかし韓国は、この理想を捨てる訳にはいかない。

2017年に北朝鮮が核実験と多数の弾道ミサイル発射実験を行ったのにもかかわらず、2018年4月27日に11年ぶりの南北首脳会談が開かれ『板門店宣言』が採択されるや、国民の約9割がこれを賛成した点も大きい。

日頃は政治的に”進歩・保守”の真二つに分かれ争う韓国であるが、未来のビジョンの一端を南北融和が担っており、国民の多くが潜在的にこれを支持していることを疑う者はいないだろう。

このため、韓国の外交政策はどうしても中国や北朝鮮に対し「余地」を残すものになる他にない。対立構造に挑み、閉ざされた国境をこじ開けて北朝鮮を長期的に変化させていく途中に、非核化もまた位置している、というのが現政権の立場だからだ。

こう見ると、韓国の立場は日米から見る場合に「不安」ではあるものの、「理解不能」なものではないはずだ。韓国最大の同盟国が米国であるという点は言うまでもない。これを支える「米韓相互防衛条約」の調印からもうすぐ70年だ。

18日午後、青瓦台(大統領府)で米国の両長官の訪問を受けた文大統領が「日韓関係復元のために努力する」と明かした点は、韓国政府が次にやるべきことが何かを熟知していることを示している。

韓国には「朝鮮半島平和プロセス」を諦められない根拠があり、独自の外交目標を持っている。これを「孤立や弱腰」と色眼鏡で見ては、複雑な日米韓関係を理解することはできない。

実際に韓国は今後、バイデン政権の北朝鮮政策が確定する過程に最大限参加しながら、その「代価」として日韓関係の改善に取り組むことになるからだ。また、目を逸らし続けてきた北朝鮮人権問題にも向き合うことになるだろう。

一方で、いみじくも18日に終了した上半期の米韓合同軍事訓練のさなかに、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)氏の談話などで高まった南北間の緊張を管理していくことになる。日韓の「立場の差」をできるだけ理解しようとする姿勢を持っていきたいものだ。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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