韓国の趙廷訓議員「福島原発処理水の放流には近隣国の同意を」…日韓共同対応を提案

韓国の政党「時代転換」の趙廷訓(チョ・ジョンフン)議員。今年7月、筆者撮影。

菅義偉首相が27日の関係閣僚会議で決定を下すと見られている、福島第一原発処理水の海洋放出問題。韓国の現役国会議員が「放射性物質の放出は日本だけの問題ではない」と指摘し、日本政府と市民に再考を促している。

※TBSなど日本メディアは23日付けで、日本政府がトリチウム処理水の海洋放出について来月以降に決定を延期する旨を伝えている(23日17時追記)。

●寄稿文の要旨「環境と信頼に悪影響」

23日、韓国の趙廷訓(チョ・ジョンフン、48)議員は日本のウェブメディア『ニュースタンス』に、「福島原発の処理水の海洋投棄、日本だけの問題ではない」という一文を寄稿し、福島原発の処理水をめぐる日本政府の対応に反対する姿勢を示した。

世界銀行で15年間勤務した国際派の趙議員は、今年4月の総選挙で国会議員に初当選した気鋭の政治家だ。当初は与党「共に民主党」のミニ政党からの出馬だったが、5月に自身が結党していた「時代転換」に籍を戻し、今は代表を務める。

一人野党ながらも韓国初のベーシック・インカム法案を提出し、10月から行われている国政監査では鋭い質問を政府に浴びせるなど、その仕事ぶりは政界ウォッチャーから高い評価を受けている。

寄稿文の中で趙議員は二つの反対理由を挙げた。

まずは「海洋生態系の破壊や環境汚染に対する懸念」だ。日本政府が主張する「多核種除去設備(ALPS)を用いても放射性物質は完全に除去できない」とし、処理水を海洋に放出する場合には隣国の韓国をはじめ海でつながる至る所へと広がるだろうと警鐘を鳴らす。

なお、韓国の原子力安全委員会も最近、韓国国会に提出した資料の中で「海洋放流時に、放射性物質のトリチウム(三重水素)の海洋拡散は避けられない」と指摘している。日本の専門家も同様の見解を見せており、不安が広がる部分だ。

次に「日韓の信頼の問題」がある。趙議員は「隣人に影響を与えるような一大事がある場合には、事前に一緒に話し合い、決定を下す際に互いを排除してはならない」という関係を強調した。

また、その一例として北朝鮮の核問題に言及した。「(核問題が)韓国だけの問題ではないように、日本の放射性物質問題も日本だけの問題ではない」とし、「韓国が北朝鮮の核施設の情報を周辺国と共有し話し合ったように、日本もこの問題にについて一方的に決定を通知するのではなく、関連情報を透明に公開し、近隣諸国の合意を得て一緒に決めていく必要がある」という主張だ。

趙議員はまた、「日本政府は国際海洋法協約を守るべき」とも指摘した。それと同時に、今回の決定を日本政府が推し進める場合には「海洋大国である日本の国際的な影響力と信頼性に深刻な悪影響を与えるだろう」と見通した。

●趙議員インタビュー「日韓関係を悪くしようというのではない」

寄稿を受け、筆者は23日、趙廷訓議員に電話インタビューを行った。趙議員の冷静な声が印象的だった。以下は一問一答。

--あらためて、今回の寄稿の背景を。

日韓関係を悪くしようというものではなく、良くしたいと考えている。国家の主人は政府でなく国民であると考えている。日本は2011年に東日本大震災で大きな痛みを受けたが、韓国も隣国としてその痛みを分け合った。

日本政府は今回、私たちと私たちの子孫にとって大きな影響を与える決定を下そうとしている。その際に、日韓政府間の意思疎通も必要だが、韓国と日本の国民たちがこの問題をどう考えるのか意見を交換することも重要だ。

こうした考えから寄稿した。この度の寄稿とは別に、日本の市民団体や政党との接触を計っている。日韓関係と私たちが生きていく東北アジアの環境にとって、海洋への処理水放出が最善の道なのかを問いたい。寄稿文を読んで、日本の市民たちの反応を知りたいし、それをもって民間同士の対話につなげていきたい。

――韓国内では、日本政府が下すと見られる決定をどう受け止めているか。

国内の世論は、「心配」という言葉で表現できる。日本政府の主張通り環境に無害なのか。韓国と日本に共に役立つ道を探すにあたって、情報が足りないという点が残念だ。日本政府がどのように放流を企画し準備するのかも分からない。

※菅政権の海洋放出方針を伝える日本メディアの記事を受け、韓国内での反応は急速に高まっている。韓国一の観光地である済州特別自治道の元喜龍(ウォン・ヒリョン)知事は今月20日の声明文で、「汚染水は日本の海にだけ流れるのではない。日本政府の方針を認めることはできない」と強く反発した。

元知事はまた「汚染水は200日で済州島に、それから80日後に日本海に到着する」という研究を引用しながら、「済州島の海とそれにつながる全ての国民の生命と安全、生態系を守るため」に、日本政府に対し「放流に関連する準備を即時中断するよう」求めた。

同時に「あらゆる手段を動員し対応する」とし、日韓海峡沿岸市道県知事会議や環太平洋平和公園都市協議隊などを通じた国際行動を取ることに加え、日韓両国の法廷に日本政府を相手取った民事・刑事訴訟を提起し、国際裁判所にも提訴すると主張している。

――日本側にどんな認識の変化を求めるのか。

私が日本政府にお願いし求めるのは、こうした韓国の立場を運動競技における観衆のように考えるのではなく、共にプレイする選手として認めて欲しいということだ。

韓国も同様の立場を取ってきた。私たちは北朝鮮の核問題を、朝鮮半島の問題を超えて東北アジアの問題として捉えているため、6者協議に日本が参加することを積極的に支持してきた。日本を外そうとしたことはない。これと同じ論理だ。国家を超えて「地域」と水準で(福島原発の問題を)考えなければならない。

――韓国政府はどんなアクションを取れるか。

両国の原子力専門家が同意する最善の解決策は、汚染水の自然な腐食(decay)を待つというものだ。時間が経つほど危険性が減るが、問題は貯蔵タンクの容量が一杯になっている点だ。この点で、タンクの増設という次善策を考えることができる。まずこうした前提がある。

日本政府が「韓国の善意を信じる。韓国を利害関係者と認め、情報をより多く共有する」とするならば、私も韓国の国会議員として「韓国の税金を用い日本政府を支援すべき」と韓国に向けて発言する準備がある。

――まだ挽回できると考えるか。

韓国政府は日本政府が海洋への放出を行う場合の対応として、日本の海産物の輸入禁止や国際裁判所への提訴などを考えている。充分にあり得る対応だが、私が好む最善の策とは言えない。

日本政府が今月27日に海洋への放出を決定する場合に、日韓関係がコントロール不能なまで悪化する可能性がある。日韓互いの感情の溝がより深まるだろう。あくまで科学の領域の話とし、政治の領域に引っ張ってくるのは好ましくない。摩擦が増えるばかりだ。

今は日本に新たな首相も誕生し、与党の李洛淵(イ・ナギョン)代表も日韓関係改善に向けた努力をしている。私も国会議員として、日本の市民と意思の疎通をしながら、韓国政府を圧迫すると共に、日本政府にも(再考を)要請していきたい。

●趙廷訓寄稿文「福島原発処理水の海洋投棄、日本だけの問題ではない」

尊敬する日本国民の皆様へ

こんにちは。私は大韓民国の第21代国会議員、趙廷訓(チョ・ジョンフン)と申します。 

なぜ近隣国の議員が日本のメディアに寄稿するのかと不思議に思われるでしょう。まず自己紹介しますと、私は過去に国際機構である世界銀行で15年間勤め、米国・欧州・アジア諸国などで経済・社会開発に携わりながら、国際社会の一員として活動してきました。このような多様な経験のおかげで、私は自分自身を国際社会の一員と考え、ある国が他国に与える影響についてもよく理解できるようになりました。私はこの文章を通じ、やはり国際社会の一員である日本の国民の皆様に、どうしてもお伝えしたいメッセージがあります。

韓国と日本は水により分かれていますが、それと同時に水によってつながっています。最近、日本政府は、福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を固めました。日本は多核種除去設備(ALPS)と呼ばれる施設を用いて、大部分の放射性物質を取り除いたと主張しておりますが、放射性物質は完全に除去されるものではありません。

読売新聞の世論調査によると、日本国民の半分にあたる50%(41%賛成、9%コメント無し)の方々が、この方針に反対することを示しています。 私はこれが日本国民の民心であると思います。日本政府がこれを考慮せず、今回、重大な決定を押し通すことが非常に残念であります。 私と多くの韓国国民も、放射性物質の濃度を法定基準値以下に下げた後で海に流して処分するという日本政府の決定に対して、非常に大きな危機意識を持っています。

第一の理由は、海洋生態系の破壊や環境汚染に対する懸念です。気候危機やPM2.5といった粒子状物質の拡散など、ますます激しくなる地球の変化を肌で感じながら、環境問題には国境が存在しないことを改めて感じています。このため、環境問題は全世界が協力しないと解決し難い問題であります。特に日本は、1997年の気候変動の問題への具体的な方策として提示された、温室効果ガスの削減目標値を定めた京都議定書が採択された地である点でも意味深いです。

海洋環境問題も他の環境問題と同様です。海洋生態系はすべてつながっています。したがって、日本が福島第一原発の処理水を海洋に放出する場合、隣国である韓国はもちろん、潮流や風に沿って海でつながっている至る所へと広がっていくでしょう。そしてこれは単なる海洋破壊の問題だけではありません。この海水が蒸発し、雨となって地下水に浸透する場合、私たちの予想をはるかに上回る多くの地域に影響を与えるでしょう。

一例として 北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)核実験場の近くに住んでいた人々に原因不明の病気が広がり、健康が悪化しました。その原因として、核実験場から漏れた放射能物質が地下水と渓谷の水に浸透し、日常生活において蓄積される直・間接的な被爆が挙げられています。これははっきりとした健康権の侵害であり、次の世代にまで続く痛みです。生態系と人類の健康のためにも、完全に取り除かれていない処理水の海洋放出は止めなければなりません。

第二に、私は韓国と日本が仲の良い隣人になることを誰よりも願います。 両国には、いろんな過去の出来事がありますが、それにもかかわらず、一緒に共存しなければならない隣国同士であります。私は、隣国同士がお互いを批判ばかりするより、仲の良い隣人になることを目指しています。

ご承知のように、仲の良い隣人になるために最も必要なことは、お互いへの信頼です。良い隣人になるためには、同等の存在であることを認めて、お互いを尊重し、隠し事や疑うよりも共有・交流する関係になるべきと考えています。特に、隣人に影響を与えるような一大事がある場合は、事前に一緒に話し合い、決定を下す際には互いを排除してはいけません。

北朝鮮の核問題が韓国だけの問題ではないように、日本の放射性物質問題も、日本だけの問題ではありません。韓国が北朝鮮の核施設の情報を周辺国と共有し話し合ったように、日本もこの問題にについて一方的に通知するのではなく、関連情報を透明に公開し、近隣諸国の合意を得て一緒に決めていく必要があると考えています。

今回の方針を確定させることは、海洋法に関する国際連合条約に正面から反する措置であり、韓国はもちろん、国際社会の激しい抵抗に直面するでしょう。 日本は直接署名した海洋法に関する国際連合条約の基準に基づいて、核処理水と核廃棄物を処理する義務があります。

保存タンク容量が限界に近づいたからと、提示された基準を妥協しても良いという考えは受け入れ難いです。海洋大国である日本が、海洋環境の保護と保全上の基本的な原則と義務事項等を自らが守らない姿を世界に見せることは、日本の国際的な影響力と信頼性に深刻な悪影響を与えるでしょう。

私は東日本大震災の被害者の方々に対する慰労の気持ちを持っています。かつて世界銀行の業務の一環として、原発事故のあったチェルノブイリの地域経済活性化プロジェクトを担当した経験があり、福島に対しても格別な気持ちがあります。原発事故により福島の住民の方々は、多くのものを失い苦しんできました。地域の漁民たちを考えてみてください。放射能汚染水が再び福島県沖に放出される場合、人々は、福島産海産物の購入や輸入をためらうことになり、漁民たちは再び厳しい生活にさらされるでしょう。

これらの理由に基づき、そして韓国と日本の利益を考慮すると、私は日本政府の福島第一原発の処理水の海洋放出に反対するしかありません。そして10月19日、在韓日本大使館を通じ梶山弘志経済産業相にも同様のメッセージを伝達しました。今回の寄稿により、日本国民の皆様が自らの健康と幸福を守る選択をしてくださるよう、国家の良心になってくださるよう願います。また、国際社会の一員として、日本政府がより正しい判断をするよう支持されることをお願いいたします。

ありがとうございます。