「地方交流は絶やさない」韓国・慶州市が奈良、京都市にコロナ防疫物資を支援…韓国初

韓国・慶州市からの支援物資を受け取る奈良市の仲川げん市長。慶州市提供。

新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、韓国の地方自治体がはじめて日本の地方自治体に防疫物資を支援した。背景には日韓関係「最後の砦」としての自治体交流の存在があった。

●防護服と防護用ゴーグルを支援

慶州(キョンジュ)市は韓国南東部の慶尚北道に位置する人口約25万人の都市だ。新羅時代に都が置かれ、仏国寺・石窟庵などの世界遺産がある「1000年の古都」として名高い韓国の観光名所でもある。

21日、同市の国際協力課は「日本の奈良市と京都市にそれぞれ防護服1200着と、防護用ゴーグル1000個を支援した」と明かした。これらの物資は同市が備蓄用に保管していたものだという。

今回のように韓国の地方自治体が日本の地方自治体に直接支援を行うのは、新型コロナウイルスの拡散が始まって以降、はじめてのことだ。物資は15日に発送し、奈良市には18日、京都市には20日到着したという。

支援の理由について、同市の朱洛栄(チュ・ナギョン)市長は「困難な時に助けるのが真の友人であり隣人」とし、「誰が先に手を差し伸べるのかは重要ではない。今は日韓両国が新型コロナウイルス対応のために協力すべき」と述べた。

同市は今後、小浜市・宇佐市・日光市に対しそれぞれ防護服500着、防護用ゴーグル500個を支援する予定だという。現在、準備中とのことだ。

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ユネスコ世界遺産に指定されている慶州・仏国寺。いずれも昨年5月筆者撮影。
ユネスコ世界遺産に指定されている慶州・仏国寺。いずれも昨年5月筆者撮影。

●「慶州が先に支援を申し出た」

21日午後、さらに詳しい事情を知るために慶州市と連絡を取った。電話取材に答えてくれた同市の関係者によると、今回の支援は「先に慶州市から申し出た」ものだという。

背景には「同市と奈良市は1970年から姉妹都市を結び、今年が50周年になる」(同)関係があるという。また、いずれも世界屈指の古都である京都市とは、世界歴史都市連盟に加入する間柄でもある。京都市は同連盟の会長市であり慶州市は理事市を務めている。

同市の関係者はさらに「慶州市と奈良市は、独島問題や慰安婦問題など日韓の歴史問題がある中でも交流をずっと続けてきた。地方政府が国家レベルの政治的な流れに乗る場合、交流が続かず、その場合には日本と韓国は門戸を閉ざすしかない。草の根の交流を続けてきたから日韓の仲が悪化せずに続いてきた。地方政府の交流には意味がある」と支援の意義を明かした。

また今回、慶州市は防疫物資以外にも「ソフト」面でも支援も行った。奈良、京都両市に対し応援メッセージ映像と共に、慶州市の新型コロナウイルス対応をまとめた事例集も送った。

【京都市が市のYoutubeチャンネルに投稿した、慶州市から送られた応援メッセージ動画】

慶州市が属する慶尚北道は大邱(テグ)市と並び、韓国で最も新型コロナウイルスの感染が広まった都市でもある。21日現在の確診者(検査陽性者)は1326人で、58人の死者を出した。

同市関係者によると「事例集を受け取った京都市はその内容を評価し、同市のYouTubeチャンネルと世界歴史都市連盟HPに掲載すると伝えてきた」という。さっそく英語版を送付したとのことだ。

●韓国の反対世論にもめげず

筆者は慶州市が今回、日本の自治体からの要請を受けず、先に支援を申し出たと聞いて少なからず驚いた。なぜなら筆者も先月末「日本に支援すべき」というコラムを日韓両国語で発表したあと、韓国ネットユーザーから激しい非難を浴びたからだった。

[参考記事] 新型コロナ危機、なぜ韓国政府は日本を支援すべきか?

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20200426-00175393/

こうした反発の背景には、昨年7月の日本による半導体素材の輸出規制措置(韓国ではこう報じられた)による安倍政権への反発がある。今年3月、韓国に対しビザ免除の制限をかけるなどの措置により世論は今なお硬化したままだ。

筆者は当時のコラムに「日本が先に支援を要請した場合」と前提をつけて書いたが、今回の慶州市は完全に「先制支援」にあたる。韓国社会の反応を聞くと同市の関係者は「抗議の電話も少なからずあり、傷ついている」と静かに明かしてくれた。

しかし一方で「日本への支援を好かない世論に便乗するならば、日本との交流を閉ざす他にない。慶州市にも新型コロナが拡散する当時、中国からたくさんの支援物資が届いた。国際交流とはそういうものだ」とその意義を再度、噛みしめるように繰り返した。

今回の動きは、韓国政府が日本への新型コロナ支援について「日本政府の要請」を条件に消極的な態度を取る中、地方自治体が独自に支援に乗り出した点から大きな意味がある。

今後、他の自治体がこの動きに続くか注目される。それと共に、日韓の地方自治体同士の交流というこれまで比較的スポットライトが当たらなかった草の根交流の意味を問い直す、重要な試みといえる。

(21日22時追記)なお、民間の支援としては今月15日、日本で活動する韓国企業の集まりである「駐日韓国企業連合会」が東京保険医協会に防護服1000着を寄付している。以下に朝日新聞の関連記事を添付する。

韓国の企業グループ、防護服3千着を寄付 東京都などに

https://www.asahi.com/articles/ASN5J343ZN5HUHBI02L.html

[参考記事]

韓国・慶州市から届いた防疫物資を見る仲川げん奈良市長。写真は慶州市提供。
韓国・慶州市から届いた防疫物資を見る仲川げん奈良市長。写真は慶州市提供。