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「感染爆発は避けられない」...韓国・京畿道知事が「心の準備」を求める

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
京畿道の李在明(イ・ジェミョン)知事。京畿道HPより引用。

新型コロナウイルス感染症の確診者が1万人を超えるも、その対策が世界的な評価を得ている韓国。そんな中、韓国最大の地方自治体・京畿道(キョンギド)の知事が厳しい指摘を行った。

●次期大統領候補の一人

2018年7月から京畿道知事を務める李在明(イ・ジェミョン、55歳)氏は平素、歯に衣着せない発言で知られる人気の高い政治家だ。次期大統領候補を問う世論調査でも、常に10〜15%を集め上位につけている。

SNSを駆使し政策アイディアを求めるフットワークの軽さもある上に、「小卒」後に工場で働きながら大検を取って大学に通い、司法試験に合格し人権弁護士となった叩き上げのストーリーも魅力的だ。特にSNS上での支持者が多い。

その李知事が4月3日、フェイスブックを通じメッセージを公開した。タイトルは『避けられない感染爆発...心の準備をして実質的な備えをする時』。いわば警告である。今の韓国の雰囲気からは多少ずれたものと言える内容は衝撃的だった。

冒頭部分を引用してみる。

コロナ19(新型コロナウイルスの正式名、COVID-19から韓国ではこう呼ぶ)は防疫当局の前例のない対処にもかかわらず、感染速度があまりにも速い。迅速で強力な初期対応により『グラフの平坦化(Flatting Graph)』にはある程度成功しているが、全世界的に流行する感染病に対し、韓国だけ感染を源泉封鎖することは可能でなく、成功するはずもない。

李知事はさらにこう続ける。

私たちはすでに(拡散減少と被害最小化という)緩和戦略に重点を移している。ドイツ人口の40〜70%が感染する可能性があるというメルケル総理(ドイツ)の発言や人口の60%以上が感染してこそ勢いが弱まるという専門家の憂鬱な展望を無責任な悲観と見なしてはならない。米国とヨーロッパの感染拡散の状況から目を背けて「私たちは避けられる」と過信してはいけない。

李知事はこう前置きした上で、「グローバル時代に私たちを取り巻く国際的な環境は、決して独也青青(独り達者なこと)を許さない」とし、「もうすぐ防波堤では防げない津波が来る」と危機感を求めた。

国際的な感染拡大が収まらない限り、韓国もまた安全ではないという認識だ。

さらに「不時着を避けられないならばハードランディングではない、ソフトランディングで衝撃を抑え被害を最小化すべき」とし、「国民の生命と安全に責任を取る最後の砦である行政は常に最悪に備えるべき」と続け、京畿道のトップとしての責任感を強調した。

その上で京畿道道民に対し「この難関を共に勝ち抜けるよう、防疫守則を徹底して遵守し、物理的な距離を置きながらも社会的な連帯を高めるようお願いする」と協力を訴えた。

●あふれる「韓国賞賛」記事の中で

李知事はそのパワフルな姿勢から、一時は「韓国のドゥテルテ」、「韓国のトランプ」などと呼ばれもした。

だが、今回の新型コロナウイルス拡散でもいち早く1,364万人の京畿道民すべて(外国人を除く)に10万ウォン(約8,700円)の「災難基本所得」の導入を発表するなど、実際は「大きな国家」を志向する米民主党のバーニー・サンダースに近いというのが定評だ。

大衆受けを何よりも重視するようなその姿勢から「ポピュリスト政治家」と揶揄されることもある。

李知事のメッセージは「私たちはこれよりも厳しい対内外的な難関もすべて勝ち抜いてきた偉大な国民だ。先進的な防疫医療システムと皆の努力で、今の危機は克服され、新しい機会となって前途を拓くものになると確信する」と結ばれている。

見てきたように、この日の李知事のメッセージには具体性が無い。「煽り」という批判も充分に可能なものだ。

だが、「世界で100か国以上が韓国の新型コロナ対策に教えを求めている」と政府の対策を手放しで賞賛する記事があふれ、街に人出が戻りつつあるのが現実だ。

こんな韓国社会の不用意な現状を考えるに、今回のメッセージはそれなりに意味を持つものと筆者は見る。FBのコメントも肯定的なものがほとんだ。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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