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文政権の陰で伸び悩む保守政党…第一野党党首は断食7日目も、効果は「?」

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
25日、同僚の肩を借り姿を見せた自由韓国党の黄教安代表(中央)。写真は同党提供。

文在寅政権が一時の低迷を脱し、様々な悪材料にもかかわらず安定感を見せている。その陰に保守野党の低迷があるというのが一般的な見立てだ。第一野党党首の断食現場にもその様子が見て取れた。

●青瓦台前で断食

ソウル都心、観光客が多く訪れる朝鮮時代の王宮・景福宮を西側に沿って北上すると、大きな広場が現れる。青瓦台(大統領府)の玄関口といえるこの場所で、最大野党・自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表が断食闘争を続けている。

今年2月、代表に就任し17年3月から長く続いた非常対策委員会体制に終止符を打った黄代表は、弾劾により罷免された朴槿恵(パク・クネ)前大統領時代に、法務部長官や国務総理、そして大統領代行を務めるなど朴政権の顔ともいえる人物だ。教会でも役職を持つ敬虔なキリスト教徒としても知られる。

そんな黄代表は今月20日から青瓦台前で断食闘争を続けている。掲げた目標は3つ。▲日韓GSOMIAの破棄撤回、▲選挙法改正法案の破棄、▲高位公職者犯罪捜査処(公捜処)設置案の破棄だ。

青瓦台前に設置された黄代表がとどまるテント。「自由大韓民国守護、国民の皆さん助けてください。黄教安」と書かれている。26日、筆者撮影。
青瓦台前に設置された黄代表がとどまるテント。「自由大韓民国守護、国民の皆さん助けてください。黄教安」と書かれている。26日、筆者撮影。

この内、一つ目の目標は22日の韓国政府の決定によりひとまず実現された(実際は2019年8月23日の終了通報の効力を停止するというもので破棄撤回ではない)。このため、黄代表は残る二つの目標を貫徹するために断食を続けている。

選挙法改正法案は、比例代表を拡大し小選挙区を減らすというものだ。これに対し黄代表は20日に「連動型比例代表制は国民の票を盗んで文在寅時代、もしくは文在寅時代よりもひどい時代を作ろうという人々の離合集散法である」と非難している。保守派の自由韓国党と対立する、進歩系の少数野党の躍進があり得るという認識だ。

また、検事、判事、国会議員、高位公務員、青瓦台スタッフなど約8000人の高官を対象に、不正腐敗を捜査するための高位公職者犯罪捜査処については「文政権を反対する者を司法正義の名の下に処断しようとする『左派独裁法』だ」と非難する。時の政権によって、高位公職者の情報が収集され自由に使われることへの危惧だ。

●熱狂的な支持者「文在寅!死刑!」

「文在寅!死刑!」

「文在寅!退陣!」

「選挙法!反対!」

「公捜処!反対!」

「ハレルヤ!」

26日夕刻、筆者がこの広場を訪れた時には、支持者100人ほどが熱心に黄代表が断食を続けるテントの前で声を上げていた。だが、中には「死刑」という過激なコールまであった。

現場には自由韓国党の国会議員10人ほどが座り込みをしていた。国会の3分の1以上の議席を占め、過去長期にわたって政権を担当してきた旧与党が、こういったコールを野放しにしているのは意外だった。

実はこうした態度こそが自由韓国党の支持率低迷、そしてその逆効果として文在寅政権の安定化を招いていると筆者は見る。自由韓国党は今や、黄代表を中心とする教団のような雰囲気を醸し出している。

思い思いのプラカードを手に、テントの真横で熱烈に応援する市民たち。26日、筆者撮影。
思い思いのプラカードを手に、テントの真横で熱烈に応援する市民たち。26日、筆者撮影。
テントの側を守る自由韓国党議員たち。26日、筆者撮影。
テントの側を守る自由韓国党議員たち。26日、筆者撮影。

●「チョ・グク」辞任後に低迷した支持率

17年3月の朴槿恵前大統領の弾劾時には、10%前後という最悪の支持率にまで落ち込んだ。それが約2年半をかけて、30%台中盤まで回復した。

特に、今年8月から10月中旬まで続いたチョ・グク氏の法務部長官任命の強行と、辞任(10月14日)騒動の中で、同党の支持率は急激に高まった。10月14日の『リアルメーター』社の世論調査では、与党・共に民主党35.3%、自由韓国党34.4%にまで肉迫した。

特に10月3日には全国の党組織に総動員令をかけ、光化門広場に「200万人(主催者発表)」という大きな数の市民を集めることに成功した。実際に200万人はいなかったが、数十万人が集まるたいへんな規模であった。その後も週末ごとにデモを続け、気勢を上げた。

だがその支持率は11月25日発表の調査で、ふたたび30.3%にまで落ち込んでいる。政治的な好材料にもかかわらず、支持率を伸ばしきれていないことが分かる。その原因は、政府と与党の失点を前に「場外デモ」に明け暮れ、党の「現場」たる国会での存在感を発揮できなかったことにある。

「駄々をこねているようだ」という批判が代表するように、断食への風当たりも強い。25日にテレビ局『MBC』が発表した世論調査によると、黄代表の断食についての67.3%の市民が「共感しない」と答えている(共感する28.1%)。なお、この調査での自由韓国党の支持率は19.1%だ。

このように、自由韓国党は政党としてよりも市民団体のような動きを続けることで、その支持を伸ばすことに失敗している。保守層の有権者は、安心して任せられる保守政党を望んでいる。

「文在寅下野(退陣)、チョ・グク監獄(逮捕)」と書かれた垂れ幕を掲げて歩く市民たち。10月3日、筆者撮影。
「文在寅下野(退陣)、チョ・グク監獄(逮捕)」と書かれた垂れ幕を掲げて歩く市民たち。10月3日、筆者撮影。

●見つからない落とし所

26日、現場で聞いたところによると、この日、黄代表は報道陣の前に姿を見せていないという。昨日から夫人も傍らを守っているというが、7日目ともなると健康も気がかりだ。面会した人物は「気力もなく、うなづくのがやっと」と韓国メディアに明かしている。

落とし所はどうなるのか。折しも現場にいた、黄代表の秘書室長を務める同党の金度邑(キム・ドウプ)議員に「今後の日程はどうなっているのか」と聞くと、無言で右手をあげ「分からない」と答えるのみだった。

また、周囲にいた支持者に「どうすればよいのか」と聞くと「聖霊が守ってくれるからまだまだ大丈夫」、「40日までは大丈夫」、「神様のお導きによる」という答えが帰ってきた。黄代表と同様に敬虔なクリスチャンのようだった。

衆人環視の前で横たわる黄代表。今は前掲写真のように外からは見えないテントの中にいる。24日、黄氏のフェイスブックより引用。
衆人環視の前で横たわる黄代表。今は前掲写真のように外からは見えないテントの中にいる。24日、黄氏のフェイスブックより引用。

断食二日目の22日、黄代表は自身のフェイスブックに「死を覚悟している」と書き込んだ。また六日目の25日にはやはり「苦痛はありがたい同伴者だ。肉身の苦痛を通じ国の苦痛を思い浮かべる」とし、「中断しない」旨を明かした。

万一の事態を憂慮し、与党・共に民主党のイ・ヘチャン代表は25日にテントを訪れ対話をうながしたが、効果は不明だ。

黄代表が破棄を求める選挙法改正法案と公捜処設置法案は、早ければ今月29日にも国会本会議に上程される。自由韓国党としては、今年4月に国会を混乱に陥れ、交渉を拒否した「落とし前」をつけている格好だが、態勢は苦しい。残る数日間、どんな動きがあるのか。青瓦台前には静かな緊張が渦巻いている。

「文在寅の独裁政権と闘う」…最大野党が国会を占拠(今年4月の記事)

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190425-00123689/

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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