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冷え込む一方の南北関係、反転なるか

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
18年9月、平壌で南北首脳会談を行う文在寅大統領と金正恩委員長。合同取材団提供。

8月に入り、連日の「飛翔体」発射実験に加え、北朝鮮メディアによる執拗な批判にさらされ続けている韓国政府。この局面をどう読むべきかをまとめた。

●約一か月で7度の発射実験

北朝鮮政府は7月25日から8月24日にかけて、合計7度の「飛翔体」発射実験を行った。実験した兵器の内訳は4種類におよぶ。いずれも新型とされる。

(1)短距離弾道ミサイルKN-23:5月に発射したものと同様のロシア「イスカンデル」ミサイルの技術を転用したとされるもの。7月25日、8月6日

(2)新型大口径操縦放射砲:多連装ロケット。7月31日、8月2日

(3)新型戦術地対地ミサイル:米軍の「ATACMS」と類似したとされるもの。8月10日、8月16日。

(4)超大型放射砲:多連装ロケット。(2)とも似ているが、現時点では別のものと考えられている。8月24日。

北朝鮮の国営メディアは発射の翌日に必ず、金正恩委員長が参観している姿とその内容を公開している。中には同氏が満足げに満面の笑みをたたえた写真もある。

また、これらの「飛翔体」には飛距離が220〜600キロと短距離であるという共通項がある。日本に届くのは一部で、直接的な脅威にさらされているのは陸続きの韓国となる。

本来ならば北朝鮮による短距離弾道ミサイルの実験は、国連安保理決議違反であり、対応が検討されるべき問題だ。

だが、米国のトランプ大統領は一貫して米国の脅威となる「中・長距離弾道ミサイル」の発射実験でない限り、「どの国も行っていること」と実験を容認する態度を崩していない。

聯合ニュースはじめ各紙が伝えたところによると、23日(現地時間)にも「金正恩委員長は(発射で)約束を破ったか」という記者団の質問に対し、「そうとは考えない」と答えている。24日(同)には「金正恩氏はミサイルが好きだ」とまで語った。

8月25日の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は「敬愛する最高領導者金正恩同志の指導の下、新たに研究開発した超大型放射砲試験射撃が成功裏に行われた」と報じた。写真も同紙より。
8月25日の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は「敬愛する最高領導者金正恩同志の指導の下、新たに研究開発した超大型放射砲試験射撃が成功裏に行われた」と報じた。写真も同紙より。

●罵詈雑言で韓国を突き放す

北朝鮮政府はまた、韓国政府を容赦なく突き放している。8月だけでも飛翔体発射に負けない頻度で韓国政府への非難を浴びせた。特に、米韓軍事訓練が始まった8月11日から20日にかけて、強い論調が目立った。

8月11日には、外務省局長の談話として「バカは育つほどバカになるというが、まさに南朝鮮(韓国)の当局者のことだ」とし、「クソをぐるぐる巻きに包んで、花の入れ物に入れたら匂わないと思うのか」と、今年から米韓軍事訓練の名称を変えた点(後述)を強烈に皮肉った。

また、発射実験を受け韓国政府が「緊急関連長官会議」を開いたことを「ビビった犬がより騒がしく吠えるようにしか見えない」と称し、「我々の相手(韓国)がこんな最低レベルというのが惜しい」と散々にこき下ろした。

さらに「今後、対話に向けた良い気流が生まれ、私達が対話に臨むとしても、こうした対話は徹底して朝米の間で開かれるもので、北南対話ではない」と発表し「韓国外し」をちらつかせた。

また、8月16日の祖国平和統一委員会による報道官談話では、前日15日の光復節での文在寅大統領の演説内容に集中砲火を浴びせた。

日本からの解放を祝う8月15日の光復節に、天安市の「独立記念館」で演説する文在寅大統領。写真は青瓦台提供。
日本からの解放を祝う8月15日の光復節に、天安市の「独立記念館」で演説する文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

「任期中に非核化と平和体制を確固に」…光復節迎え文大統領が決意、日本には「控えめ」(演説全文訳)

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190815-00138475/

「南朝鮮の当局者」と文在寅大統領を指し、北朝鮮の飛翔体発射実験を「憂慮すべき行動」と評した文大統領に対し、「(米韓)軍事訓練をしながら、朝鮮半島の平和体制を構築しようという考えは、茹でた牛の頭も大いに笑う所業だ」と全否定した。

さらに、韓国の戦略や訓練はすべて「我々(北朝鮮)を壊滅させる目的がある」と断定し、「歴史的な南北対話の動力が失われたのは全て南朝鮮当局者が自ら招いたものであり自業自得だ」とした上で、「(米韓軍事訓練が終わっても)南朝鮮の当局者たちと話すことなく、二度と席につく気がない」とまで言い切った。

●韓国政府、韓国メディアの反応

このような北朝鮮政府による一連の行動・発言・態度に対し、韓国政府は強い対応を避けている。

統一部は北朝鮮外務省による11日の発言について「南北関係の発展にとって全く助けにならない」と不満を漏らしたものの、その後も続く飛翔体実験に対して「軍事的挑発」という表現を最大限避けている。

なおこの表現は、北朝鮮による核実験ならびに中・長距離弾道ミサイル発射実験で朝鮮半島の軍事的緊張が最大に達した2017年に多用されたものだ。現状を韓国政府をどう捉えているかのバロメーターになる。

国防部も北朝鮮に対し「9.19合意の精神に合わない」という程度の不満を述べるにとどめている。「9.19合意」とは18年9月19日に平壌で南北首脳、軍事当局がそれぞれ署名した「平壌南北合同宣言」と「南北軍事合意書」を指す。最新の南北間の合意だ。

[全訳] 9月平壌共同宣言(2018年9月19日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180919-00097442/

だがさすがに、青瓦台(韓国大統領府)も北朝鮮側のあまりの「ひどさ」のため、コメントせざるを得なかった。とはいえ、そこにもまた遠慮があった。

この時、政府関係者は内外メディアに対し「北側が出す談話文は、通常韓国政府が出す談話文と形式が異なり、使う言語(単語)が異なる」と広い心で受け止めることを訴えたのだった。

他方、韓国メディアの筆致は二つに分かれた。

平素、北朝鮮や文政権に批判的な立場を取る保守系の『朝鮮日報』は14日付けの社説で「耐えて乗り越えるべき時もある。しかし政府の今の姿はそんな戦略的な忍耐ではなく、(南北関係改善という)政治的な支援を受けようと金正恩の気持ちに逆らうまいとする卑屈な姿に見える」とした。

一方、進歩系メディアでは批判の矛先を北朝鮮政府に向ける論調が目立つ。

『ハンギョレ』は16日付けの社説で「(米韓軍事訓練)を理由に、北朝鮮がミサイルを続けざまに発射することは朝鮮半島に不必要な軍事的緊張を煽る憂慮が大きい。今すぐ中止するのが正しい」とし、「朝鮮半島の安全のために対話に乗り出すことを期待する」と主張した。

昨年9月20日、平壌での首脳会談を終えたあと、白頭山を訪れた南北首脳一行。写真は合同取材団。
昨年9月20日、平壌での首脳会談を終えたあと、白頭山を訪れた南北首脳一行。写真は合同取材団。

●北朝鮮の行動に3つの理由

北朝鮮の行動の背景に何があるのか。文政権の北朝鮮政策や朝鮮半島情勢に詳しい専門家たちの意見を紹介する。

(1)米韓軍事訓練

韓国の聯合ニュースによるとトランプ大統領は9日(現地時間)、金正恩委員長からの親書の一部を公開する中で、「ウォーゲーム(war game)が気に入らない」という内容があることを明かした。

今年3月米韓国防当局は、これまであった「キー・リゾルブ」、「フォール・イーグル」、「UFG」の3つの米韓合同軍事訓練を終了し、新たに「19−1同盟」「19−2同盟」という訓練をすることを明かした。

8月11日から20日まで行われた今回の訓練は「19−2同盟」にあたるが、北側に配慮し「同盟」の文字が消され、正式名称は「後半期米韓連合指揮所訓練」となった。

その内容について国防部は詳細を明かしていないが、韓国メディアは「兵力と装備を起動させずコンピューターシミュレーションで行われる指揮所演習(CPX)」とし、「初めて韓国軍の大将が司令官を、米軍の大将が副司令官を務め、戦時作戦統制権転換のための韓国軍基本運用能力(IOC)を集中的に検証するもの」と伝えている(聯合ニュース、8月10日)。

訓練に敏感な北朝鮮側の態度に、韓国の青瓦台も「この訓練が終われば実務協議をするという意志を表明したと見える」(12日)としていた。だが、訓練終了後の24日にも北朝鮮が飛翔体発射を継続した点から、この見解が揺れている。

(2)米朝会談が低調で韓国が信頼を失った

さらに、米朝会談が低調な点を求める声もある。韓国の国策シンクタンク統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)先任研究員は27日、筆者とのインタビューで「核心は韓国政府でなく米国」と主張した。

趙研究員は続いて「昨年6月12日のシンガポール米朝首脳会談以降、米朝双方で実務的な協議の成果が何もない上に、米国は相応措置についても明かしていない。それについての不満が(今年2月の)ハノイ米朝首脳会談以降、非常に大きい。しかし米国に向けて直接悪口を投げつけると対話の局面自体が揺れる可能性があるので、弱い韓国を突っついている」と説明した。

また、「韓国側に非常に腹を立てている。昨年9月の平壌南北首脳会談で、北朝鮮は寧辺核施設放棄で合意し、韓国はこれをもって米国との合意を導くとしたのだが、ハノイで結果を得られなかった。韓国を間に入れず米国を攻略すべき判断し、南北関係についての希望を当分のあいだ諦めた状態」と分析した。

今年2月、ベトナム・ハノイで2度目の米朝首脳会談を行った米朝首脳。写真は北朝鮮『わが民族同士』より引用。
今年2月、ベトナム・ハノイで2度目の米朝首脳会談を行った米朝首脳。写真は北朝鮮『わが民族同士』より引用。

(3)装備更新と国内向け

一方、こうした北朝鮮の動きを注意深く読み取る専門家もいる。

韓国海軍将校出身で、南北の軍事に詳しい金東葉(キム・ドンヨプ)慶南大極東問題研究所教授は自身のフェイスブックで、8月に入り数度にわたり北朝鮮の狙いを分析する書き込みを行った。

金教授は「経済発展を通じ強国を目指す状況の中で、過去のように大規模な兵力や武装に資源を投与するのではなく、小さくても効果的な自衛力を持ち、自ら安全保障を行うというもの」とし、一連の新兵器を「サソリの毒針」に例えた。

その上で装備の更新という見方も示した。「現在、北朝鮮が保有している大部分の地対地弾道ミサイルは、過去ソ連時代のミサイルを基盤としており、正確性と回避機能に劣るため韓国が構築したミサイル防衛システムに対応できない」というものだ。

さらに、上記ふたつの分析を合わせ「北朝鮮が非核化以降も最低限の抑止力を失わないように(装備の)現代化を断行するもので、逆説的に北朝鮮が非核化に向かうことを示している」と評価した。

一方で、米韓合同訓練終了後のミサイル発射実験に伴う北朝鮮メディアの報道について、「対米、対韓国に関する非難と言及がない代わりに、対北朝鮮国内的に関し、国防科学者や技術者たちに対する激励と内部の結束をうながすメッセージが主となっている。こうした点からその間の新型ミサイルと放射砲発射の意図が国内向けであったことが明確に分かる」と読み解いた。

●今後も厳しい情勢

それでは今の状況をどう受け止めればよいのか。南北関係は今後どうなるのか。米朝の膠着状態の中で韓国にできることはあるのか。

前出の趙先任研究員は「今は『先米後南』だ。北朝鮮は米国を先に落としてこそ、南北関係もうまくいくと考えている」とし、「今の朝鮮半島の環境は、金正恩委員長が米国と非核化交渉を行うことで始まった。しかし、その道が塞がっているので、何もできないと金正恩氏は判断しているのでは」と見立てた。

その上で「南北関係は米朝への不満で縛られている。南北間でできることは特にない」とした。

また、金東葉教授は28日付けの韓国紙『プレシアン』の記事で、「北朝鮮は韓国を『米国の代弁者』と見る一方、米国は韓国について『米国に黙って北朝鮮と手足を合わせ、米国をコーナーに追い込んでいる』と考えているようだ。つまり双方が韓国を均衡の取れた仲裁者ではなく一方的なメッセンジャーや仲裁者と見ているのでは」と明かしている。

そしてやはり「こうした状態でGSOMIAも終了し、米国としては韓国が米朝間の交渉に介入すること自体を嫌がるかもしれない。米国が参加する機会をくれるかが問題だ」と分析した。

今年6月30日、板門店で会合を持った南北米首脳。史上初の揃い踏みであった。写真は朝鮮中央通信より。
今年6月30日、板門店で会合を持った南北米首脳。史上初の揃い踏みであった。写真は朝鮮中央通信より。

北朝鮮は22日、外務省報道官の談話を通じ「すべての問題を対話と交渉を通じて平和的に解決しようという我々の立場に変わりはないが、軍事的な脅威を同伴する対話には興味がない」と明かした。

このように対話局面は維持されているが、見てきたように韓国の立場は非常に狭いものになっている。

そうした中、29日に北朝鮮では今年2度目となる最高人民会議(国会に相当)が開かれる。韓国の統一部は同日に「鋭意注視している」と局面の「反転」に期待を込めた。

明日になればどんな結果がでるか分かるだろうが、あくまでメインは米朝だ。文政権にとって当分の間は文字通り、注視するだけの厳しい状況が続きそうだ。(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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