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変わる板門店、南北関係の最前線(写真18枚)

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
非武装のまま、北朝鮮側に背を向けて立つ兵士。5月1日、板門店で筆者撮影。

5月1日より、韓国側からの板門店ツアーが再開された。この日、板門店には再開第一号の観光客が訪れると共に、韓国内外のメディアを対象としたプレスツアーも開かれ、筆者も同行取材した。写真をまとめた。

「一方的な再開」

韓国国防部は4月29日付けのプレスリリースの中で、「昨年4月27日に南北首脳が11年ぶりに合意した『板門店宣言』一周年を迎えるにあたり、板門店の見学を再開することにした」と明かした。

そして5月1日、昨年10月から中断されていた板門店が、約7か月ぶりにメディアと一般市民向けに公開された。

7か月におよぶ中断の理由は、南北合意にあった。

昨年9月19日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で行った南北首脳会談の席で、韓国の宋永武(ソン・ヨンム)国防部長官(当時)と北朝鮮の努光哲(ノ・グァンチョル)人民武力相は、『歴史的な板門店宣言の履行のための軍事分野合意書(南北軍事合意書)』に署名した。

昨年9月、『南北軍事合意書』にサインする韓国の宋永武国防部長官(左、当時)と北朝鮮の努光哲人民武力相。写真は合同取材団。
昨年9月、『南北軍事合意書』にサインする韓国の宋永武国防部長官(左、当時)と北朝鮮の努光哲人民武力相。写真は合同取材団。

この中の2条2項に「双方は板門店共同警備区域を非武装化することにした」という内容があり、これに沿って昨年から南北双方は地雷除去、火器撤収および人員調整、監視設備の調整などを続けてきた。

[全訳] 歴史的な「板門店宣言」履行のための軍事分野合意書(2018年9月19日平壌)

https://www.thekoreanpolitics.com/news/articleView.html?idxno=2683

実はこうした措置は、板門店を含む南北の合同警備区域(JSA)の自由往来を念頭に置いたものだった。1953年の休戦協定にあるように南北の限られた人員が非武装で往来し、そこに観光客までが加わるという、いわば「南北和解の最前線」としてお披露目されるはずだった。

だが、実情はそう明るくもないようだ。1日、プレスツアーに同行した国連軍司令部の関係者は記者団に対し、「昨年10月以降、(JSAの)非武装化と自由往来を進めてきたが、非武装化は達成した。しかし自由往来のための共同行動規則について、北側が協議を拒否している」と事情を明かした。

それでは写真を見ていきたい。

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板門店訪問は「安保観光」と呼ばれる。この日の再開第一陣は、統一部の政策諮問委員と大学生記者団の計81人だった。以下の写真は別途説明が無い限り、すべて1日、筆者が撮影したもの。
板門店訪問は「安保観光」と呼ばれる。この日の再開第一陣は、統一部の政策諮問委員と大学生記者団の計81人だった。以下の写真は別途説明が無い限り、すべて1日、筆者が撮影したもの。
水色の建物が板門店。奥に見えるのは北朝鮮の板門閣だ。
水色の建物が板門店。奥に見えるのは北朝鮮の板門閣だ。
写真下段手前の縁石が南北軍事境界線(MDL)だ。
写真下段手前の縁石が南北軍事境界線(MDL)だ。
こちらは昨年4月27日の南北首脳会談時に撮影されたもの。板門店の構造がよく分かる写真だ。写真は合同取材団。
こちらは昨年4月27日の南北首脳会談時に撮影されたもの。板門店の構造がよく分かる写真だ。写真は合同取材団。

この日、国連軍司令部の警備大隊長、シーン・モロー中佐は記者団に対し、新しい板門店についてこう語った。

国連軍司令部が新たな板門店を開くまで、忍耐心を持って待ってくれて感謝する。国連軍司令部は依然として『9.19軍事合意(南北軍事合意書)』を適用する意志を持っている。昨年9月からJSAでは地雷除去作業と非武装化事業が行われた。平和な板門店を造成する努力が行われた。この場所にどんな変化があったのか、韓国の国民と海外からの観光客が見られるようになって、とても気持ちが鼓舞される。

私たちは朝鮮半島に唯一存在する、(米韓連合の)大隊だ。カウンターパートの韓国軍大隊と共に、これからもここ、板門店が対話の場・信頼を築く場になり、朝鮮半島全域に平和が構築される場所に変えていきたい。板門店にふたたび来られたことを歓迎する。

記者団に説明するシーン・モロー中佐。
記者団に説明するシーン・モロー中佐。
途中、北朝鮮の兵士3人が記者団の姿をカメラに収めていった。腕章には「民事警察」の文字が。現在は南北35人ずつが非武装で警備にあたる。
途中、北朝鮮の兵士3人が記者団の姿をカメラに収めていった。腕章には「民事警察」の文字が。現在は南北35人ずつが非武装で警備にあたる。
北朝鮮側にも観光客が来ていた。板門店には穏やか空気が流れていた。
北朝鮮側にも観光客が来ていた。板門店には穏やか空気が流れていた。

新たに公開された「徒歩橋」

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昨年4月27日に、南北首脳が40分以上にわたり一対一で会話した「徒歩橋」も今回、一般に公開された。板門店に向かって東側にある。
昨年4月27日に、南北首脳が40分以上にわたり一対一で会話した「徒歩橋」も今回、一般に公開された。板門店に向かって東側にある。
参考写真。昨年4月27日に撮影されたもの。右端の錆びた板は南北軍事境界線(MDL)を表す標識だ。合同取材団撮影。
参考写真。昨年4月27日に撮影されたもの。右端の錆びた板は南北軍事境界線(MDL)を表す標識だ。合同取材団撮影。

国連軍関係者の説明によると、本来、この「徒歩橋」を一般に開放する予定であったが、今後約ひと月ほどは工事のため閉鎖するという。木製の橋の補強と、車椅子が通れるように進入路を整備するとのことだった。

「徒歩橋」に向かう途中に、やはり昨年4月、南北首脳が植樹した松の木を見ることができる。碑には「平和と繁栄を植える」と刻まれている。
「徒歩橋」に向かう途中に、やはり昨年4月、南北首脳が植樹した松の木を見ることができる。碑には「平和と繁栄を植える」と刻まれている。
北側の板門閣に100人近い観光客が来ていた。案内員が中国語で案内していた。こちらに手を振る人もいたが、制止されていた。
北側の板門閣に100人近い観光客が来ていた。案内員が中国語で案内していた。こちらに手を振る人もいたが、制止されていた。

実は、7か月にわたって観光客を受け入れてこなかった韓国側と異なり、板門店の北側には、その間ずっと観光客が訪れていたという。「これは南北の合意を破るものである」と、国連軍関係者は説明した。その理由については、板門店ツアー開催による外貨稼ぎなどが考えられるだろう。

南北軍事境界線を表す標識の後ろに見えるのが、北朝鮮側の兵士詰所だ。
南北軍事境界線を表す標識の後ろに見えるのが、北朝鮮側の兵士詰所だ。

JSAには北朝鮮側に5つ、韓国側に4つの兵士詰所が存在した。だが昨年10月以降、建物内の火器をすべて撤去した上に、窓には白い目張りで封印をし、やはりすべて閉鎖した。

7か月ぶりの公開された板門店、専門家はどう見たのか。この日、統一部政策諮問委員の立場で訪れた慶南大学極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授に話を聞いた。

慶南大学極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授(左)。北朝鮮全般、とくに経済に詳しい。
慶南大学極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授(左)。北朝鮮全般、とくに経済に詳しい。

――新しい板門店の印象は

これまでと違って緊張感が大きく減っていた。その間はまるで「互いに信じられない」というような雰囲気で、互いに監視し、脅威を与え圧倒するような姿勢が双方に見られた。兵士の姿も、ヘルメットや拳銃などを着用した物々しいものではなかった。

――緊張が無くなったということか

依然として緊張感があることは確かだ。だが例えば、これまでなら韓国側の観光客が何かミスを犯さないかと、鋭く監視するような雰囲気があったのが、今日は北側の兵士が写真だけ撮ってすぐに姿を隠すなど、穏やかなイメージをもたせようとする配慮、演出を感じた。

――本来は自由往来ができるはずだった。北側が国連軍司令部を抜いて、南北だけで協議しようと主張し、前に進まない。

時間の問題だと見る。北側にとっては、今はまだ米国との対話が進展していないからということだろう。板門店の非武装化と自由往来は北側が先に望んだものだ。決断さえすればいつでも実現できると見る。

2017年12月の板門店。ヘルメットと拳銃、そして北側に向けて、いつでも体を隠せるように半身で立っている。筆者撮影。
2017年12月の板門店。ヘルメットと拳銃、そして北側に向けて、いつでも体を隠せるように半身で立っている。筆者撮影。
19年5月1日の写真。北側に背を向けて立っているのが分かる。武器も携帯していない。
19年5月1日の写真。北側に背を向けて立っているのが分かる。武器も携帯していない。

記事を終える前に、観光を考えている方に向けて説明を付け加えておく。国連軍関係者によるものだ。

今後、約一か月の間は「試験見学期」として、午前2組、午後2組の観光客を受け入れるという。1組あたりの人員は82人ずつ。韓国人と外国人の割合は5:5だ。外国人は旅行社を通じ申し込みが可能だ。

また、観光は毎週日曜、月曜は行われず、隔週木曜日と米韓の公休日もすべて休みとなる。「徒歩橋」の工事が終わる6月からは、一日8組に人員を増やす予定だという。

(2日午前10時半追記)韓国紙によると、5月いっぱいは統一部や国家情報院、警察などの韓国人団体客のみ受け入れるという。旅行社を通じた外国人の申請は6月から可能になるとのことだ。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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