韓国政界の「世代交代」なるか…与党で前哨戦はじまる

与党・共に民主党の李海チャン(イ・ヘチャン、64)代表。写真は同党提供。

来たる5月8日、韓国の与党・共に民主党の院内代表選挙が行なわれる。この選挙は「世代交代」の可能性を測る重要な選挙となる。事情を整理した。

「学生運動の大物」が立候補

院内代表とは、国会で党を代表する党内ナンバー2のポジションだ。この選挙に21日、李仁栄(イ・イニョン)議員が立候補した。

三選の李議員はいわゆる「86世代(60年代生まれ、80年代に大学生だった民主化運動世代)」のリーダーの一人。日本で昨年公開され注目を集めた韓国映画『1987、ある闘いの真実』の舞台ともなった、1987年6月をピークとする一連の民主化運動(6月抗争)で名を上げた。

当時、高麗大学の学生会長だった同氏は、同年8月に全国区の「全国大学生代表者協議会(全大協)」を結成、初代代表となり大学生の政治参加を推し進めた。なお、この団体の三代目代表が、文在寅政権の初代大統領秘書室長を務めた任鐘ソク(イム・ジョンソク)氏だ。

21日、出馬記者会見を行う李仁栄(イ・イニョン)議員。写真は同議員のフェイスブックより引用。
21日、出馬記者会見を行う李仁栄(イ・イニョン)議員。写真は同議員のフェイスブックより引用。

李議員は21日に以下の7つの公約を提示した。

(1)来年の総選挙(4月15日)に勝利する。

(2)民生経済の回復に力を注ぐ。

(3)社会的な大妥協を推進する。

(4)世代の革新(Generation Innovation)を促進する。

(5)党内を統合し、来年の総選挙における党推薦過程を透明にする。

(6)党・政(政府)・青(青瓦台)の関係をスキ無く調節する。

(7)変化と(左右)統合のために自分自身を革新する。

与党の目的は、文在寅政権を支え、次の選挙で勝利することである。これに沿ったありきたりな内容の中、4番目の「世代革新を促進する」という部分は目を引く。少し長いが、公約の該当部分を詳しく引用してみる。

未来政党として生まれまわります。世代革新(Generation Innovation)を促進します。進歩は「コンデ(古臭いオヤジの意)」、保守は「コルトン(不通、がんこオヤジ)」という古いイメージから先に抜け出します。

父が韓国人のフランスの新デジタル経済長官、セドリク・オは38歳です。グリーン・ニューディール(Green New Deal)を唱える米連邦の女性下院議員、アレクサンドリア・オカシオ・コルテスは30歳です。

平和政治、福祉政治を超え、デジタル政治、緑の政治で未来の世代と連帯しなければなりません。産業化と民主化世代を超え、間に合わなくなる前に、未来の世代により多くの戦略的な拠点を譲り、わが党と韓国の未来を植えなければなりません。

未来の代案についての競争として、(来年4月の)総選挙で勝利します。10代の議題を選びます。世界市民とデジタル経済という大転換のために、10年後を準備しなければなりません。全権を与えます。議題から始まり、立法と実行まで全てに責任を負う未来行動グループを作り、国の新たな未来を設計します。未来と連帯し総選挙で勝利します。

「586世代」への突き上げ

韓国で「コンデ」というのは、良いニュアンスで使われる言葉ではない。古臭いオヤジ、がんこオヤジなどに置き換えられる。

ネットで下された定義には「自分の年代もしくは自身の行動や価値観に基づき、権威意識を押し出し、自分よりも年下の人間に指導したり訓戒したり強要する人」(namuwikiより)とされている。

現実では、50代に多く使われる。特に政治的な脈絡では、50代の「86世代」、つまり「586」の代名詞的な単語だ。

あえて解くならば、80年代には民主化の理想に燃えていたものの、民主化以降は簡単に体制と同化。社会経済的な不平等を正すことなく今に至り、ついには既得権層となった層とも言えようか。

そんな「586」は、「3放(恋愛、結婚、出産を放棄した)世代」や「5放(3放プラス就職とマイホームの放棄)世代」と称され、さらには生まれた環境により将来が左右される「スプーン階級論(土の匙~金の匙)」が支配する「ヘル朝鮮(地獄のような韓国社会を指す言葉)」に生きる韓国の若者たちにとって「偉大な先輩」ではなく、批判の対象でしかない。

2016年10月から翌17年3月にかけて行われた「キャンドルデモ」に参加した市民たちの中には、「ヘル朝鮮を変える」という動機を持っていた若者たちが少なくなかった。16年12月、筆者撮影。
2016年10月から翌17年3月にかけて行われた「キャンドルデモ」に参加した市民たちの中には、「ヘル朝鮮を変える」という動機を持っていた若者たちが少なくなかった。16年12月、筆者撮影。

実際、「86世代」は少なくない政治力を持っており、その責任と無縁ではない。2004年の総選挙で12人が国会議員となったのを皮切りに、現在の文在寅政権下で今なお青瓦台(大統領府)の要職の半数近くを占めるなど、社会を動かす中心層の一角を占めている。

その代表の一人である李仁栄議員が、「コンデ」という否定的な単語を挙げてまで「世代改革」を持ち出す姿からは、こうした若者世代の批判を十分に意識し、「時代遅れではない」と印象づけたい危機感が透けて見える。

とはいえ、「世代『交代』」ではなく「世代『革新』」を主張し、「次世代に未来を植える」といった、やや上から目線の表現からは、これからも主役を譲るつもりはないという思いも読み取れ、複雑だ。

「上からの圧力」

だが実は、そんな李議員をはじめとする「586世代」の一部には、悠長に構えていられない理由がある。下の世代だけでなく、「上から」も世代交代を半ば強要されているのだ。

その中心には、共に民主党の李海チャン(イ・ヘチャン、64)代表がいる。過去、盧武鉉政権時代に(03~08年)に国務総理も務めた、7選のベテラン政治家だ。その李代表が、来年の総選挙に備えて率先して世代交代を推し進めようとしている。

李代表はまず、「自身の立候補はない」と退路を絶った上で、3選や4選などのベテラン議員に「肩叩き」を行うと見られている。理由は、李代表の代名詞ともなった「20年集権論」、つまり「福祉などの政策を根付かせ国を変えるためには、20年以上の長期にわたり政権を維持する必要がある」というものだ。

このためにベテラン議員たちを引退させ、次の総選挙でフレッシュな議員を大挙として擁立しようという算段がある。そして、そのための適任者も既にアップを初めている。文在寅大統領の最側近であり、「86世代」のリーダーでもある楊正哲(ヤン・ジョンチョル, 54)氏だ。

盧武鉉大統領時代から青瓦台で勤務し、盧大統領の死後、文政権の発足を支えた功労者でありながら、17年5月の文政権発足以降は「大統領の負担になるから」と一切の公職につかなかった同氏は今月26日、党のシンクタンク『民主研究院』の代表に就任する。

事情に詳しい民主党関係者は、「『肩叩き』ができるのは楊正哲だけだ」と事情を明かす。文大統領の厚い信頼を土台に、三選・四選といった議員を円満に「追い出す」大仕事をすることになる。

楊正哲(ヤン・ジョンチョル)氏。この写真は約7年前のもの。同氏HPより引用。
楊正哲(ヤン・ジョンチョル)氏。この写真は約7年前のもの。同氏HPより引用。

「危機感」が支える李仁栄

現在、共に民主党の院内代表選挙には李仁栄議員のほか、2人が立候補し3人で争われる見通しだ。そして本来はこの内の一人、金太年(キム・テニョン、55)議員が順当に院内代表になると見られていた。

実はこの金議員も、文在寅大統領や李海チャン代表と近い。このため院内代表になったあかつきには、党の世代交代と「親文在寅化」が進む見通しだった。

だがこうした党執行部の動きに危機感を覚えた三選、四選のベテランたちが、「86世代」の中で、金議員より文在寅大統領と遠く、同様に不安な位置にある李仁栄議員の下に「結集」しつつあるのが現状だ。

院内選挙は現時点で、金太年議員が優勢とされる。だが、先の民主党関係者は「(金議員が当選しても)世代交代はそう簡単ではない」と見通す。

とはいえ、「586世代」の分化および一部引退という新たな局面と、そこに新世代の政治家が入れ替わりで入る構図は、閉塞する韓国政治にとって十分に新たな息吹となるものだ。残り2週間、選挙の趨勢が注目される。