ハノイ米朝会談を前に韓国に漂う「危機感」…日本も積極参加を

18年6月のシンガポール米朝首脳会談で散歩する両首脳。写真は合同取材団。

4日後に迫った米朝会談。目先の合意内容ではなく、今回の会談が持つ本質的な意味をまとめた。朝鮮半島は「核強国の誕生」か「平和と非核化の交換」の瀬戸際にある。

●専門家に漂う危機感

「今回の会談は例え失敗しても、成功だと言って先に進めていかなければならない」

21日夜、ソウル市内で開かれたとある討論会で、金峻亨(キム・ジュニョン)韓東大教授は深刻な面持ちと共にこう語った。

統一部の諮問委員を務め、北朝鮮の現役官僚と米韓の元高官や民間人による「トラック1.5会談」にも参加するなど幅広いネットワークを持つ、第一線で活躍する朝鮮半島問題の専門家だ。

奇しくも同じ日の午後、南北関係の核心的なポジションにいる韓国政府の高官は韓国の記者団に対し、「トランプ大統領と金正恩委員長は今回の機会がどれだけ重要なものなのか認識している。今回の機会をうまく活用できない場合、その後の状況はとても困難になり、再びこうした機会を持つのは難しいと見ている」と明かした。

いずれも今回の米朝会談の「重み」を端的に表した発言だ。その背景には、ここまでの道のりがいかに困難で、現状がいかに危険性に満ちているかという認識がある。

●世紀の会談から膠着状態へ

北朝鮮は核・ミサイル開発に全力を傾けていた2016、17年に20回以上の弾道ミサイル発射実験と、3度の核実験を行った。17年1月に就任したトランプ大統領は同年8月、北朝鮮政府に対し「火炎と怒り」を表明し、北朝鮮政府は「(米軍基地がある)グアムに対する包囲射撃」を語った。

一方8月15日、文在寅大統領は演説で「朝鮮半島での軍事行動は韓国だけが決められ、誰であろうと韓国の同意なく軍事行動を決めることはできない。政府は全てを賭けて戦争だけは防ぐ」と表明した。そうした中、2017年11月末、北朝鮮は「核武力の完成」を公言した。

2018年は交渉が始まった年だった。11年ぶりに行われた4月の南北首脳会談では南北関係が復元された。5月にはトランプ大統領による米朝会談の延期発表を受け電光石火で南北首脳会談が行われるなど、新時代を暗示した。そして6月には米朝首脳がシンガポールで史上初めて握手した。

シンガポールでは、「朝鮮半島の完全な非核化」と「新しい米朝関係(国交正常化)、朝鮮半島での平和構築」を交換し、なおかつこれを米朝間の信頼を高めつつ段階的に行うという破格の合意だった。東アジア25年来の懸案である北朝鮮・朝鮮半島の非核化に解決の目処をつける重要な前進だった。

しかし、この合意に「CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)」という一文が入らなかったことが後の禍根となる。

核/ミサイル実験の停止を続ける一方、豊渓里(プンゲリ)核実験場の廃棄(5月)や、朝鮮戦争当時の米軍遺骸の送還(7月末)などを行い、6月の米朝会談合意文にのっとり「相応の措置」を求める北朝鮮と、CVIDの貫徹を捨てきれず米韓合同軍事訓練中断以外の措置をとらない米国の間に溝ができた。6月の時点で米朝間が合意していたという終戦宣言も、北朝鮮側の措置を不十分とする警戒心から行われなかった。

膠着状態の中、18年9月の平壌南北首脳会談でICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発した東倉里(トンチャンリ)ミサイル試験場の永久廃棄の表明を北側が提示する。しかし10月には訪朝したポンペオ国務長官が「先に核リストを」という禁断の提案を行う。ふたたび「先に核放棄すれば相応する補償を」という過去に逆戻りしかけた。

●新しい方法論の登場

危機を救ったのは「同時性」というキーワードだった。

18年8月末に任命されたビーガン北朝鮮政策特別代表が、過去30年以上にわたり米国政府機関で北朝鮮を分析してきた世界屈指の北朝鮮専門家であるロバート・カーリン氏や、北朝鮮核問題の専門家ジークフリート・ヘッカー博士などとチームを組み辿り着いた結論だった。

そのエッセンスは19年1月31日に米スタンフォード大学でビーガン特別代表が行った演説のうち、「我々はやはり、北朝鮮が最終的で完全に検証された非核化の約束を守る場合、双方の首脳が昨夏、シンガポールの共同声明で行った全ての約束を同時に、そして並行的に推進する準備ができている」という部分と、「私が何かをし、相手が何をし、どちらが先に行動するのか?この点こそが私たちが解決し抜け出そうとする点だ」という発言に凝縮されている。

これは「非核化措置」と「平和体制の構築ならびに米朝関係改善」を同時に進めていく一方、「相手が全てのことを果たすまでは何もしないと言っていない」(同代表)というように、完全な核廃棄を一息に要求するのではなく、小さな一歩を積み重ね、完全な核廃棄を可能にする信頼を育てていくというものだ。

同代表はこの立場の重要性について、「北朝鮮がとても異なる(非核化の)方向に進むことを望む。しかしそうした方向に進むためには北朝鮮が安らかさを感じなければならない。これは我々が行う外交的努力の一部だ」とまで言い切ったのだった。

●会談における二つのポイント

それでは会談で何が話し合われるのか。多くの専門家がこれについて言及しているため詳細は避けるが、二つのポイントを挙げることができる。

一つ目は非核化の定義がなされることだ。ビーガン特別代表は1月31日、米国の目標について、「最終的かつ完全に検証された非核化(FFVD)」や核を運搬するミサイルや大量殺傷兵器(WMD)の全廃を目指すとしつつも、「今は非核化の定義で合意していない」と明かしている。

北朝鮮の核プログラムの核心はウラン濃縮施設にある。豊富なウラン鉱山を背景に、明らかになっている寧辺以外、全国にどの程度の施設で高濃縮ウラン(HEU)を生産しているのか未だその全貌は明らかになっていない。米国の国防情報局(DIA)や科学国際安保研究所(ISIS)などの見解を総合すると、年間20個以上の核弾頭を生産できるレベルとされる。そしてこれは現在も稼働している。

ビーガン特別代表が言うように、北朝鮮がこうしたプログラムの公開・廃棄を含んだ上で、さらに弾道ミサイルの全廃などを将来的な非核化の内容として合意するのかに注目したい。

二つ目は双方が満足する措置が行われるのかにある。

北朝鮮はこれまでの主張通り、東倉里の査察と廃棄を基本に、現在行っている核プログラムの停止さらにはICBM開発の停止などを提示する一方、米側は米韓合同軍事訓練中断の継続、終戦宣言、連絡事務所の設置などを交換する。これは昨年6月に米朝が合意していた枠と大きく変わらない。

その上で、「金剛山観光再開(最優先)、開城工団再開、南北鉄道連結工事の開始」など韓国主導によるプロジェクトについて経済制裁の緩和措置を提示し、これを受けた北朝鮮側が寧辺核施設の凍結や廃棄、検証に応じるというものだ。

●「危機感」の正体と「次」の重要性

一方、冒頭に紹介したフォーラムの席で、やはり統一部の諮問委員を務める韓国屈指の北朝鮮専門家キム・ヨンヒョン東国大教授は今回の米朝会談の議題について、「ウラン濃縮プログラムやICBM開発の停止などを明文化するのは無理で、口頭で言及がある程度」と見通した。

その上で、「今回の会談で『ビッグ・ディール』があると見るのは、現実を直視できていない見方」と指摘し、「シンガポールでの米朝合意が『米朝の決断』であったならば、ハノイからは『システムとして作動するのか』が焦点となる」とポイントを挙げた。

同教授はさらに、こうした分析の背景として「北朝鮮の対話に対する意志が議題を圧倒している」と主張する。

これこそが冒頭の「危機感」の正体だ。

危機感は何も金正恩委員長の核廃棄についての意志が本気なのか、という部分にのみある訳ではない。トランプ大統領にできることがそう多くない、という点にこそある。

トランプ大統領の優位の根源は、経済制裁を左右できる力から来ている。なお、武力使用については2017年の時点で北朝鮮核問題の解決に役立たないことがすでに明らかになっている点を付言しておく。

だが、国連安保理の制裁は非核化の進展により一部解除が可能だが、米国が北朝鮮に対し独自に課している強力な制裁の解除には、議会の決定が欠かせない。

そして今、トランプ大統領は米国の下院と正面衝突状態にある。米国の主流派にとって、北朝鮮は過去20年以上にわたって国際社会を乱してきた信用ならない警戒対象である。昨年6月に「CVID」が含まれないため、ついに終戦宣言を出せなかったことがその一例だ。トランプ大統領は北朝鮮と交渉しつつ、米国内を説得する必要がある。

だからこそ何よりも大切なのは、次回の首脳会談が約束されることだ。上記の取引の一部が不発に終わっても、今後も平和と非核化の交換を進めていくという意志を米朝首脳が共有し、国際社会に表明する必要がある。

●「最大で最後のチャンス」

前出の北朝鮮専門家であるロバート・カーリン氏は1月31日、ビーガン特別代表に対し「進展の可能性に対する機会が、私がこれまで見てきた中で最高だ。未来に対して嫉妬を感じる」と心境を明かした。

これは同じ朝鮮半島の未来を考える者として共感できる。

今は、北朝鮮の核廃棄を実現するための、最善ではないが唯一の解決策として長年にわたり主張されてきたにも関わらず、現実性のない武力使用の発想や根拠のない北朝鮮崩壊論に取って代わられてきた方法論が実現する千載一遇の好機だ。

まだ納得がいかない方は、2017年11月29日以降、北朝鮮は一切のミサイル発射・核実験を行っていない点を想起してほしい。このことは、北朝鮮に対しこれ以上「制裁と圧迫」を強める名分がないことを意味している。

さらに2017年から行われている制裁にも北朝鮮は適応しつつある。

冒頭で言及した21日の討論会で、中朝関係に詳しい慶尚大のパク・ジョンチョル教授は「2018年に北朝鮮を訪問した中国人観光客は17年から倍増した120万人」と明かし「一人300ドル使うとしても3億6000万ドル。こうした収入が制裁下でも北朝鮮経済が耐えることを可能にしている」と指摘した。

パク教授はさらに、中朝間では制裁により、様々な抜け穴を利用した密輸が活性化し、取り締まりきれない中国政府が「国連決議案違反」として一定額の罰金(17万~35万円)を課すことにしたが、この措置が逆に密輸に活気を与えている様子を語っている。

このことは、今の米朝交渉が失敗する際、完全に北朝鮮が核強国の地位を確立する可能性があることを示している。

現在、北朝鮮は数十の核弾頭を保有するばかりか、弾道ミサイルに搭載し発射する技術を持つ核保有国だ。そして前述した通り、非核化と平和の交換はまだスタートすらしていない。

最近になってビーガン特別代表に近い米シンクタンクから「2020年まで達成可能な、包括的で検証可能な封印(Comprehensive Verifiable Capping、CVC)」という新しい概念が提案されている。

これは「最終的かつ完全に検証された非核化(FFVD)」という最終目的に至るための中間地点として設定されているが、実現する場合、ひとまず北朝鮮の核弾頭は温存されることになる。

つまり核保有国・北朝鮮の非核化プロセスは、「凍結」なり「封印」なり、その下で今後数年続く可能性が高い。繰り返すように制裁と圧迫では解決できない事が明らかになった今、代案はない。「一度や二度の交渉で失敗しても先に進むべき」という意味がここにある。

●日本政府もプロセス推進に参加を

だからこそ、日本の市民の理解と、日本政府の参加が欠かせない。

ビーガン特別代表は1月31日の演説の中で「(非核化への外交的なアプローチが)失敗しないためには、平和で変化した朝鮮半島のために、米国・北朝鮮、そしてその他の諸外国による肯定的な選択が必要だ。米国はすでにその選択をした」と語っている。

韓国政府は周知のように、非核化の実現のため動いている。米国(トランプ大統領)も今や全く同じ立場と見てもよい。では日本はどうか。前述したように、今は隣国・朝鮮民主主義人民共和国が核大国になるか非核化するかの瀬戸際にある。

朝鮮半島の平和に貢献し、非核化交渉を牽引し続けるもう一つの推進力として、日本の存在が重要になる。交渉を対岸から眺め、評論している場合ではない。国交正常化交渉を始めることで、一連の長く険しい非核化プロセスへの、積極的かつ迅速な参加が待たれる次第だ。