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「民族」が引っ張る朝鮮半島情勢は「新しい始まり」なのか?

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
26日午後、南北首脳会談を終え、固く握手する南北両首脳。写真は朝鮮中央通信より。

27日午前、韓国の文在寅大統領は記者会見を開き、生中継で26日の南北首脳会談の内容を発表すると共に、質疑応答に答えた。文大統領の発言から、韓国政府の朝鮮半島認識を詳細に伝える。

「おととい金正恩委員長側から提案」

文大統領はまず、今回の南北首脳会談が行われた経緯や、会談内容について10分ほどの発表文を読み上げた。

その中で「金委員長はおととい午後、一切の形式を排除したまま会いたいという意志を伝えてきて、私は快くこれを承諾した」と、会談実現の背景を明かした。

おととい(25日)午後というのは、前日24日午前、米ワシントンでトランプ大統領が公開書簡を通じ「米朝首脳会談の中止」を発表した翌日のこととなる。

米国との時差のため、ソウルや平壌、東京では同書簡を24日深夜に受け取っていた。ここから一晩明けた25日朝、朝鮮中央通信に金桂冠(キム・ゲグァン)第一外務次官の談話を発表したが、それから間もなく文在寅大統領に連絡を取ったことになる。

文大統領はまた、「首脳間の定例的な出会いと意志の疎通を強調してきた」と従来の主張を述べると共に、「友達の間での平凡な日常のように実現した今回の会談」を「去る4月の板門店会談に劣らず大きな意味を与えたい」と評価した。

一方、会談の内容については同日朝、すでに北朝鮮の朝鮮中央通信が伝えた通り、「南北関係の発展」と「朝鮮半島の非核化・米朝首脳会談」という線に沿って説明した。

「米朝首脳会談の成功に向け協力」を再確認

まず言及したのは喫緊の課題といえる米朝関係だ。

文大統領は金正恩委員長に対し「トランプ大統領は金委員長が完全な非核化を決断し実践する場合には、北朝鮮との敵対関係の終息と経済協力に対する確固とした意志がある」という、22日(現地時間)にワシントンで行った米韓首脳会談の内容を伝えたとした。

さらに「双方が直接的な疎通を通じ誤解を解き」、そして「首脳会談で合意しなければならない議題に対し、実務協議を通じ十分な事前対話が必要」と強調したと述べた。仲裁する形だ。

次いで、「金正恩委員長は板門店宣言に続きもう一度、朝鮮半島の完全な非核化意志を明確にし、米朝首脳会談の成功を通じ戦争と対立の歴史を清算し平和と繁栄のために協力するという意志を披瀝した」と金正恩氏を代弁し、その姿勢を支持した。

その上で「両首脳は6.12米朝首脳会談が成功裏に開催されなければならない」点と、「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和体制のための旅程は中断されることはない」という点を再確認し、これに向け相互協力すると結んだ。

26日午後、今年2度目となる南北会談終了後に抱き合う南北両首脳。写真は青瓦台提供。
26日午後、今年2度目となる南北会談終了後に抱き合う南北両首脳。写真は青瓦台提供。

南北関係も修復

一方、南北関係については「板門店宣言の履行を急ぐ」という点で一致し、6月1日に南北高位級(閣僚級)会談を持つとし、さらに「軍事的な緊張緩和のための軍事当局者会談と、離散家族再会のための赤十字会談を続けて持つ」ことで合意したと伝えた。

この点は、5月16日に予定されていた南北高位級会談が、米韓連合空中戦闘訓練「マックスサンダー」を理由に北朝鮮側によって一方的に「無期限延期」された問題を解決したものと受け取れる。

なおこの日、文大統領は何度も「格式張らずに会う」、「格式を排し会う」という趣旨の発言をした。2008年から2017年までの約9年間、深い信頼関係を築けなかった南北関係が新しいステージに入ったという「宣言」とも受け取れる。

国民への語りかけ

文大統領はまた、韓国国民への語りかけも行った。

「昨年まで長いあいだ私達は常に不安で、安全保障の不安と恐怖が経済と外交はもちろん国民の日常的な生活にまで染み込んでいた。私達の政治を立ち遅れたものにしてきたとても大きな理由でもあった」と、韓国に住む者なら誰もが持ちうる認識をまず提示した上で、「私達は歴史の流れを変えている」と現状を説明したのだった。

さらに「緊張と対立の象徴であった板門店に平和と平和の新しい道を切り開いている」と評価し、北朝鮮の核実験・ミサイル発射実験の中止や24日の豊渓里(プンゲリ)核実験場廃棄を取り上げ、「まだ始まりだが、その始まりは過去にあったような同じような始まりではなく、完全に新たな始まりになる」と力説した。

その上で、「朝鮮半島の完全な非核化と完全な平和に至る道を進み、必ず成功する」と意気込みを示した。

質疑応答で金正恩氏の非核化意志を強調も

続く質疑応答では合計6つのやり取りがあった。順に整理する。

問1:今回の首脳会談が実現した具体的な背景は。非核化交渉において、今回の首脳会談がどんな意味を持つのか。

文大統領:周知のように、4.27板門店宣言の履行と、6.12米朝首脳会談を控えた準備過程で困難な事情があった。このような事情を抑えることが現時点で重要だと見た。そんな中、金正恩委員長が要請をしてきて、南北の実務者が通話よりも実際に会う方がよいと判断し、電撃的に会談が行われた。このため、メディアに前もって知らせられなかった点について理解を願いたい。

問2:今回の南北首脳会談が米朝首脳会談の実現にどんな影響をもたらすか。残る「変数」は何だと見るか。

文大統領:金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化への意志が確固としたものであるという点をもう一度明らかにした。金委員長にとって不明瞭な点は、非核化した場合に米国が敵対関係を終息させ、体制の安全を保障する点を完全に信頼できるのかという点だと見る。

反面、米韓首脳会談(22日)にトランプ大統領は北朝鮮が非核化する場合、敵対関係を確実に終息させるばかりか、経済的な繁栄も助ける意志があると明らかにした。私は(米朝)双方が持つ意志をお互いに伝え、直接の疎通を行い双方の意志を確認することを促している。

米朝首脳会談については、もうじき米朝の実務協議が始まる。その協議の中には議題に関するものも含まれる。これをどれだけ順調に終わらせることができるかが、6月12日に米朝首脳会談が支障なく開かれるか、成功するかを分けると思う。しかし私は米朝両国間で、相手が何を望んでいるのかを明確に意識する中で会談準備が進んでいるため、実務協議も、6月12日の本会談もうまくいくと期待している。

問3:金正恩委員長の非核化意志が確固としているという根拠は何か。直接の発言があれば紹介してほしい。北朝鮮はその間、「段階的・同時的」な非核化を主張してきたが、この点に関し昨日の会談でより踏み込んだ内容や別の内容への言及があったか

文大統領:その点(非核化意志)については、これまで何度も私が説明したし、ポンペオ国務長官も訪朝時に金正恩委員長にあって直接確認したと明かしたことがある。それ以上追加の説明がいるとは思わない。

実際に非核化への思いは同じだとしても、それをどう実現していくかというロードマップは両国間の協議が必要で、その過程が難しいものになる可能性がある。しかしそのロードマップは米朝間で協議する問題であるため、私が先走って私の考えを述べるのは適切ではない。

記者会見を終え、記者団と握手する文在寅大統領。写真は青瓦台提供。
記者会見を終え、記者団と握手する文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

問4:金正恩委員長がCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)について明確に言及したか。

文大統領:米朝間で会談を行うのならば、北朝鮮の非核化意志について相手の意志を確認した後で会談が可能になると考える。米朝間で会談に合意し、実務協議を行うことは、米国でも北朝鮮のそのような意志を確認したのではないかという点を述べたいし、万一その過程に足りない部分がある場合には、実務協議の過程でもう一度、明らかに確認するようになると考える。

問5:トランプ大統領が米朝首脳会談の破棄(中止)宣言をしたが、その後、今回の首脳会談を行うまで、トランプ大統領との間に疎通(コミュニケーション)があったか。

文大統領:今、私が行っているすべての努力は、南北関係を改善するためのものでもあるが、もう一方では米朝首脳会談の成功のために米国、北朝鮮と緊密に疎通している側面もある。ご存知の通り、最近米国を訪問しトランプ大統領と会談をしたし、昨日は金正恩委員長と会談した。昨日の会談の内容はすでに米国に伝えた。

問6:南北米3者間のホットライン(直通電話)をしてはどうか。

文大統領:(笑う)そのためには専用の通信線が構築される必要がある。南北では最近、開設されたが、今後米朝間にも構築される必要があると考える。しかし南北米3者のホットラインが開設される程度まで行くのならば、その前に南北米3者間での首脳会談から先にできるのではないかと考える。私は米朝首脳会談が成功する場合に、南北米3者首脳会談を通じ、終戦宣言が推進されて欲しいという期待を持っている。

総評:南北関係がエンジンか

文大統領は会見の最後に、南北首脳会談の結果発表が翌日になった点について「北側の事情によりすぐ報道できないことから、今日(翌日)にしてほしいという金正恩委員長の要請によるもの」と説明した。

見てきたように、今回の南北首脳会談は中止の危機に陥った米朝首脳会談の火を再度ともそうと、「民族の名の下で」南北が協力した形と見ることができる。

今後、米朝交渉がスムーズに進む場合には「米朝関係を南北関係がフォローする」という、韓国が望み、今年になって積極的に行ってきた形がさらに力を得て定着することになる。

これは米朝関係の危うさを減少させ、朝鮮半島での安全保障リスクを極限にまで下げる役割を果たす安全弁となり得る。

26日午後、板門店の北側施設「統一閣」で約1ヶ月ぶりに出会った南北両首脳。写真は青瓦台提供。
26日午後、板門店の北側施設「統一閣」で約1ヶ月ぶりに出会った南北両首脳。写真は青瓦台提供。

筆者は先日の記事に書いた通り、トランプ大統領の「中止書簡」により、韓国政府は動ける幅が狭まり、今後は厳しい立場に置かれるものと見ていた。韓国の多くの専門家もそう捉えていた。

だが、韓国政府は正面突破を図ろうとしている。

もちろん、文大統領が質疑応答で述べたように、米朝協議がこれから始まるという点には驚きを隠せず、金正恩委員長がCVIDを受け入れるのかなど明らかになっていない部分は多い。まだまだ楽観には程遠い状況が続く。

とはいえ、朝鮮半島情勢でかつて南北関係がこれほど密接であったことも、情勢を動かすテコになったことも無かった。文大統領の言うように、朝鮮半島はこれまでの常識を覆す「完全な新しい始まりを迎えた」と見直す方が良いと、率直に認めざるを得ない。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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