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金正恩氏「対決の歴史に終止符を打ちに来た」首脳会談での南北首脳の挨拶(全文紹介)

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
南北首脳会談に望む北朝鮮の金正恩国務委員長。写真は板門店合同取材団。

今日午前から行われている「2018南北首脳会談」。首脳会談本番に先立つ挨拶で、金正恩氏は「対決の歴史に終止符を打ちに来た」と明かした。「脱北者」との言及も行うなど、積極的な姿勢を示した。

首脳会談冒頭の対話を全文紹介

午前9時半、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の国務委員長は、板門店の軍事境界線を挟んで握手した。11年ぶりとなる南北首脳の出会いだった。その後、両首脳は儀仗隊を査閲した後、会談場に移動した。午前の会談は10時15分から12時まで約100分間行われた。

この内容は午後2時半現在、まだ明らかになっていない。現在明らかになっているのは、首脳会談冒頭の対話部分だけだ。この両首脳の対話を全文訳でお伝えする。

文大統領:ここまでどうやって来られましたか。

金委員長:早朝に車で開城(ケソン)を通ってきました。大統領も朝早く出発されたのでしょうね。

文大統領:私の方はわずか52キロしか離れていないので、約1時間で来ました。

金委員長:大統領が我々のことで開催されるNSC(國家安全保障会議)に参加するため、早朝に寝そびれることが多かったそうですが、早朝に起きるのが習慣になっているのでないでしょうか(笑う。

文大統領:金委員長が韓国特使団が訪朝した際に、先にそのお話されたので、これから足を伸ばしてぐっすり寝られます。

金委員長:大統領が朝までぐっすり眠れるように私が確認します。わずか200メートルを来るのに、どうじてこんなにも遠く感じたのか、またなぜこんなに難しかったのか思いました。最初は平壌(ピョンヤン)で文大統領に会うことになると思っていましたが、ここで会えたのはより良かったと思います。対決の象徴となっている場所で多くの方が期待を寄せて見守っています。ここに来ながら、失郷民(北朝鮮に故郷を持ち、朝鮮戦争で故郷に戻れなくなった人々)たちや脱北者、延坪島の住民など、いつ我々の砲撃が飛んでくるかと不安に駆られていた方々も、本日の私たちの対面に期待を寄せている姿を見てきました。この機会を大切にし、南北間の傷が癒されるきっかけになってほしいです。分断線(軍事境界線)はそんなに高くないので、多くの人が踏み跨いでいたら無くなるのではないでしょうか。

文大統領:青瓦台から来る途中、道路沿いで多くの住民たちが見送ってくれました。それだけ今日の私たちの対面への期待が大きいと思います。大成洞(テソンドン、南北境界にある「自由の村」)の住民たちも全員来て、皆で写真を撮りました。私たちの肩の荷は重いです。今日の板門店を皮切りに、平壌とソウル、済州島、白頭山へとこの出会いが続いてほしいです(文大統領は歓談用の部屋の手前にある長白瀑布と城山日出峰の絵を指差しながら、絵を紹介する)。

金委員長:文大統領の方が白頭山について私よりもお詳しいようですね。

文大統領:私は白頭山に行ったことがありません。どうやら、中国を経由して白頭山に行かれる方が多いそうですね。私は北側を通って必ず白頭山に行ってみたいと思います。

金委員長:文大統領が来られたら、正直、心配になる部分が、私達の交通(道路事情)が整っておらず、不便に思われるかもしれないというところです。平昌五輪に行ってきた方たちによると、平昌に向かう高速鉄道(KTX)がとても良いとのことでした。そんな南側の環境にいて、北側に来られるとなると、とても恥ずかしいかもしれません。私達も準備をし、大統領が来る際に不便に思われないようにしたいです。

文大統領:今後、北側と鉄道が連結されれば、南北双方が高速鉄道を利用できます。こういった内容が、6.15(6.15南北合同宣言、00年)や10.4(10.4南北首脳宣言、07年)の合意に込められていたのですが、10年のあいだ、それほど実践できませんでした。南北関係が完全に別れ、その脈が途絶えてしまったのが、やるせないです。金委員長の大きな勇断のおかげで、10年間途絶えていた血脈を今日再び、つなぎました。

首脳会談テーブルに付く南北首脳と高官たち。左から、徐薫(ソ・フン)国家情報院長、文大統領、任鐘ソク(イム・ジョンソク)大統領秘書室長。写真は板門店合同取材団。
首脳会談テーブルに付く南北首脳と高官たち。左から、徐薫(ソ・フン)国家情報院長、文大統領、任鐘ソク(イム・ジョンソク)大統領秘書室長。写真は板門店合同取材団。

金委員長:期待の分だけ、懐疑的な見方もあります。大きな合意をしておいて、10年以上実践することができませんでした。今日の会談も良い結果がでるのかと懐疑的な見方があります。短い時間歩いて来るあいだ、本当に11年もかかったのかと考えました。そんな私達が11年間できなかったことを100日あまりの間に、せっせと行ってきました。固い意志で共に手を取り合っていけば、今よりも悪くなることはないでしょう。大統領にここで会うのは、不便があるのではないかと考えていましたが、それでも親書と特使を通じて事前にやり取りをしたので、心が軽いです。お互いに対する信頼と確信が重要です。

文大統領:(陪席した金与正第一副部長を指し)金副部長は南側でとてもスターになりました。(大きく笑う)(金与正副部長の顔が赤くなる)。今日の主人公は金委員長と私です。過去の失敗を鏡とし、うまくやっていけると思います。過去には政権の中期や末期の遅い次期に合意が行われ、政権が変わると実践されなかった。私が大統領になって1年目です。私の任期内に金委員長の新年辞(18年1月1日)から今日に至るまで走り抜けてきた速度をずっと維持していきたいです。

金委員長:金与正副部長の部署で、万里馬速度戦という言葉を作りましたが、南北統一の速度としましょう。(笑い)(任鐘ソク大統領秘書室長が「薄い氷の上を歩く際に、氷を割らないためには、速度を遅らせてはならないという格言がある」と口を添えた)

文大統領:過去を振り返る場合、一番大事なのは速度です。

金委員長:今後は頻繁に会いましょう。これからは固く決心し、また原点に戻ることがあってはなりません。期待に応え、良い世の中を作っていきましょう。これからは私達もしっかりとやります。

文大統領:北側で大きな事故があったと聞きました。事故を収拾するのに大変だったでしょう。金委員長が直接乗り出し、病院を訪れ慰労も行い、特別列車まで配慮したという話を聞きました。

金委員長:対決の歴史に終止符を打とうとやって来ましたし、私達のあいだにひっかかる問題を、大統領と膝を突き合わせて解決しようとここまで来ました。必ず、良い未来が来るという確信を持つに至りました。

文大統領:朝鮮半島の問題は私達が主人です。そうでありながらも、世界と共に進むわが民族にならなければなりません。私達の力で導き、周辺国が付いて来られるようにしなければなりません。

今日の南北首脳会談の結果は、午後6時ころ、南北両首脳による合同記者会見により発表される予定だ。

なお、会談の見どころは筆者の下記記事に詳しい。

明日開催…「2018南北首脳会談」における7つの注目ポイント

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180426-00084467/

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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