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逃げる兵士に容赦ない発砲…北朝鮮兵士「JSA帰順」の一部始終(写真17枚)

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
軍事境界線を越える際、北側から銃撃を受け、倒れている北朝鮮兵士オ氏。(提供:United Nations Command/ロイター/アフロ)

22日、韓国の国連軍司令部は13日に軍事境界線のJSA(南北共同警備区域)で起きた、北朝鮮兵士による韓国入りの瞬間をとらえた動画を公開した。動画を詳細に分析する。

韓国に向け疾走…銃撃の瞬間をとらえた動画

この兵士の名前をオ氏。年齢は24歳。まず、国連軍が公開した7分弱の動画を元に当時の状況を詳細に振り返ってみたい。写真はすべて動画を筆者がキャプチャしたものだ。

オ氏が運転する軍の幹部用と見られるジープはかなりのスピードで北側から南に向けて走ってくる。オ氏は運転を担当する運転兵とのことだ。
オ氏が運転する軍の幹部用と見られるジープはかなりのスピードで北側から南に向けて走ってくる。オ氏は運転を担当する運転兵とのことだ。
軍事境界線、板門店へ続く一本道をひた走る。
軍事境界線、板門店へ続く一本道をひた走る。
白い建物は検問所だ。北側から板門店を訪れる観光客などが通る。ジープは一旦スピードを落とすも突破する。別の北朝鮮兵士が慌てている。この時から「異変」を察知したものとみられる。
白い建物は検問所だ。北側から板門店を訪れる観光客などが通る。ジープは一旦スピードを落とすも突破する。別の北朝鮮兵士が慌てている。この時から「異変」を察知したものとみられる。
軍事境界線近くにある「金日成」と刻まれた碑を過ぎ去るジープ。迷う様子はないため、オ氏に土地勘があることがよく分かる。
軍事境界線近くにある「金日成」と刻まれた碑を過ぎ去るジープ。迷う様子はないため、オ氏に土地勘があることがよく分かる。
碑を通り過ぎるとそこはもう軍事境界線から10数メートルの地点だ。右下が韓国になるが、この後、木の下にある溝にジープがはまる。
碑を通り過ぎるとそこはもう軍事境界線から10数メートルの地点だ。右下が韓国になるが、この後、木の下にある溝にジープがはまる。
ジープがはまった様子。
ジープがはまった様子。
同時に板門閣(北朝鮮側の建物)から慌てて飛び出してくる兵士たち。緊迫した様子が伝わる。
同時に板門閣(北朝鮮側の建物)から慌てて飛び出してくる兵士たち。緊迫した様子が伝わる。
ジープの下へと急ぐ北朝鮮兵士。防弾チョッキとAK自動小銃で完全武装しているのが分かる。
ジープの下へと急ぐ北朝鮮兵士。防弾チョッキとAK自動小銃で完全武装しているのが分かる。
ジープを動かしてみるもかなわないと見るや、意を決したように車から出て南側に走るオ氏。丸腰だ。
ジープを動かしてみるもかなわないと見るや、意を決したように車から出て南側に走るオ氏。丸腰だ。
すぐに北朝鮮兵士が追いつく。手前がオ氏で後ろの二人が北朝鮮兵士だ。わずか数メートルしか離れていない。
すぐに北朝鮮兵士が追いつく。手前がオ氏で後ろの二人が北朝鮮兵士だ。わずか数メートルしか離れていない。
オ氏を狙う北朝鮮兵士。4人だ。照準を正確に合わせようと伏せている者も。数十発を一斉に発射している。白い柱を越えたところは韓国だ。
オ氏を狙う北朝鮮兵士。4人だ。照準を正確に合わせようと伏せている者も。数十発を一斉に発射している。白い柱を越えたところは韓国だ。
同じ場面を別の角度からとらえたもの。下段写真の中央に小さく見えるのがオ氏だ。韓国側に入ったが遮蔽物が無いため銃撃にさらされている。
同じ場面を別の角度からとらえたもの。下段写真の中央に小さく見えるのがオ氏だ。韓国側に入ったが遮蔽物が無いため銃撃にさらされている。
北朝鮮兵士が軍事境界線を越えた動かぬ証拠。停戦協定違反である。
北朝鮮兵士が軍事境界線を越えた動かぬ証拠。停戦協定違反である。
事件後に金日成碑の近くに集まる北朝鮮兵士たち。
事件後に金日成碑の近くに集まる北朝鮮兵士たち。
やはり完全武装なのが分かる。
やはり完全武装なのが分かる。
銃撃により意識を失ったオ氏。遮蔽物のあるところまでたどり着き力尽きたとみられる。「4発(主治医談)」の銃弾を受け「半分以上の血液を失った状態(同)」であった。
銃撃により意識を失ったオ氏。遮蔽物のあるところまでたどり着き力尽きたとみられる。「4発(主治医談)」の銃弾を受け「半分以上の血液を失った状態(同)」であった。
これはTOD(熱相監視装備)を利用して撮影された映像。中央左に倒れているのがオ氏。ほふく前進で近づくのは韓国軍の将校2人。そこから離れた右側に薄く見えるのがJSA警備大隊所属の韓国軍大隊長クォン中佐だ。
これはTOD(熱相監視装備)を利用して撮影された映像。中央左に倒れているのがオ氏。ほふく前進で近づくのは韓国軍の将校2人。そこから離れた右側に薄く見えるのがJSA警備大隊所属の韓国軍大隊長クォン中佐だ。

オ氏はこうして韓国軍に救助された後、米軍航空医務後送部隊「ダストオフ(DUSTOFF)」のヘリで応急処置を受けつつ、京畿道の圏域外傷センターに指定されている亜洲大学病院に運ばれた。そこで「銃傷治療では韓国一」とされる名医イ・グクチョン教授の下で治療を受けることになる。

北朝鮮の休戦協定違反は2件

この日、記者会見を行った国連軍のチャド・キャロル公報部長(大佐)は、映像を見せた後で、状況を追加で説明した。

今回の事件は国連軍司令部のオーストラリア、ニュージーランド、韓国、米国で構成された特別チームにより調査され、スウェーデンおよびスイスの中立国監視委員会が調査の過程を観察したという。

そして、この調査により北朝鮮が「停戦協定を2つの点で違反した」ことが明らかになったとした。

停戦協定とは1953年7月27日に国連軍と中朝間で結ばれたものだ。1950年から続いた朝鮮戦争の戦闘行為を止めるものであり、休戦協定とも呼ばれる。現在も有効だ。

停戦協定(休戦協定)。国連軍総司令官、国連軍代表、中国・朝鮮軍代表、両軍最高司令官の計5名の署名がある。韓国外交部で筆者撮影。
停戦協定(休戦協定)。国連軍総司令官、国連軍代表、中国・朝鮮軍代表、両軍最高司令官の計5名の署名がある。韓国外交部で筆者撮影。

違反したのは「一つ目は北朝鮮側が軍事境界線を越えて射撃を行った点で、二つ目は北朝鮮兵士が軍事境界線を越えた点」がそれだ。

停戦協定の第1条6項では「双方はあらゆる非武装地帯(南北それぞれ2キロ)内で、もしくは非武装地帯から非武装地帯に向けてどのような敵対行為も敢行できない」としている。

また、続く7項では「軍事停戦委員会の特定の許可無く、いかなる軍人や民間人も軍事境界線を通過することを許可しない」とある。

今回、北朝鮮側はこの2点を明確に違反したことになる。

これを受け国連軍司令部は22日、「板門店にある北朝鮮とのチャネルを通じ、北朝鮮の停戦協定違反を通報するとともに、国連軍の調査結果を伝え、今後このような違反事項を防止するための会談を要求した」という。

また、今回の「不確かで曖昧な事件を、葛藤をエスカレートさせずに収拾したJSA警備大隊所属の韓国軍大隊長の戦略的な判断を支持する」とした。

一方、この兵士オ氏は順調に回復して、K-POPを好む素朴な一面も見せている。オ氏の病状と、この事件が喚起した様々な議論については明日の記事でまとめる。(続)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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