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「セックスってなに?」に答えられない保護者が、学校と教育委員会に望むこと

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

「ママ、セックスってなぁに?」

ふいに11歳の娘に聞かれた。本棚にある「まじめな」学術書のタイトルにあった文字だ。

「なんだと思う?」と聞くと答えは、「…知らん!」

「なんだか秘密っぽい」単語だと思っているようだが、よくわからないらしい。

自分はスーパーマーケットの5階で買ってきたというのは本当なのか、とこのあいだ聞かれた。

「なんで?」

「だって今、売ってないし!」

「赤ちゃん売り場、なくなったからね」

子どもを産む前は、きちんと性教育を小さなうちからできたらなと思っていた。

でも家庭内であらたまって性教育をするのは、とても難しくてこの体たらく。

親子で性について語るべきだと思うのだが、理想に反してなかなかできてない。

小学校では「生理」について習ったようだ。

学校で習ったから、とても真面目なこと(=勉強と同じ場所で習ったから)だと思っていて、「早く来ないかな」「まだナプキンは必要ないかな?」と気にしている。

親としてはきちんと学校で正確な知識を学んで欲しい。

たまにセックス以上の、ここには書けないような単語を聞いてきて、「どこで知ったの?」と聞くと、「○○って漫画に書いてあった」という。

「そういう漫画は読んじゃだめって約束でしょ!」といっても勝手に読む。

そのうちインターネットを駆使するだろう。

とても焦っている。

なぜなら110年ぶりの性犯罪に関する刑法改正があったばかりであるが、性交同意年齢は引き上げられなかった。

つまりあと2年後の13歳になれば、もう年齢を理由に「性交に同意していなかった」とはいえなくなるのである。

本来であったら、性交とは何か、性暴力から身を守るには、性感染症や望まぬ妊娠はどう防ぐのか、を知っていない段階で、性交にだけは「同意」したとみなされる。諸外国並みにせめて合意年齢を、15歳とか、18歳とかにすべきだと思う(小川たまか「日本の性的同意年齢は13歳 「淫行条例があるからいい」ではない理由」)。施行3年後の見直しで年齢を引き上げて欲しいが、とりあえずいま、13歳という現実がある。

高校生が、友達を連れて30歳近く年上の芸能人の自宅に行っただけで、「男の部屋に行くなんて、性交の合意があったに違いない」という意見がネットには溢れている。恐ろしいことに、裁判においてもそう解釈されることはあるらしい。

性交経験率は女子で、中学校4.8パーセント、高校では23.6パーセントである(日本性教育協会 第7回「青少年の性行動全国調査」)。第6回目の調査の2005年には、女子高校生の経験率は30パーセントだった(第7回「青少年の性行動全国調査」(2011 年)の概要)。いずれも男子を上回っている。女子の経験相手は、年上男性なのか。

3月16日の都議会で、性教育について「不適切」だと質問した古賀俊昭議員は、毎日新聞に

性は子供を作り、家庭を築くことにつながる。中絶を教えると胎児の命を絶つことにつながり、不適当だ。学習指導要領で発達段階に応じた教育レベルを定めている。そこにない内容を教えるのは問題だ。

出典:中学の性教育授業 都と足立区が火花 避妊の方法はだめ?

と話したという。

同じ記事では、

容易に性交渉しない自己抑制教育、性道徳が必要だ。性交渉は家庭を持つまで避けるべきだ。中学生は性交を学ぶ発達段階になく、学習指導要領から逸脱している。

という古賀都議の主張がまとめられている。

もう子どもは性交渉を行っている。

ネットでは情報が溢れている。

家庭を持つまで性交渉を避けるべきだという価値観は個人のレベルでは尊重されるべきかもしれないが、他の人に強要できるものではない。中絶をさせないために、まず避妊を教えて欲しい。

そして学習指導要領は、記載されていることは教えてはならないというものではなかったはずではないかと思う。

発達段階というのであったら、例えば16歳の女子高生の突出したクラミジアの感染率をもとに、国立保健医療科学院統括研究官の今井博久氏は、

高校生における性感染症の予防介入教育を高校2年生や3年生で実施しても時間的に遅く予防の効果が期待できず、その前の段階の高校1年生あるいは中学3年生で実施することがより一層効果的であることを示唆している。

出典:若年者の性感染症の現状と予防

と述べている。

ともすれば忘れがちであるが、義務教育は中学生までである。中学生で「正しい性知識」を教えてもらわなかった若者は、教育を受けないまま、社会に放り出されることになるのだ。知識を得るのが、AVからばかりで大丈夫だろうか。

現実を踏まえた性教育をお願いしたい。

そして、教育の現場を委縮させないような対応を、教育委員会には望みたい。

「セックスってなぁに?」と聞かれて、きちんと答えられる保護者はどれくらいいるのだろうか。

学校も親も適切に教えてくれなければ、次はどこに聞きに行くのだろうか。それを考えて、思案している。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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