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ナイキ、スニーカーNFTを販売する二次流通業者を提訴~商品と紐付いたNFTの商標法上の位置付けは?~

関真也弁護士・ニューヨーク州弁護士/日本VR学会認定上級VR技術者
(写真:イメージマート)

はじめに

国際的に有名なスポーツウェアメーカーであるNike社が、スニーカー、ストリートウェア等のオンライン二次流通プラットフォームを運営する米国ミシガン州のLLCであるStockX LLCを相手取り、2022年2月3日、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に訴状を提出したことが報じられています

訴状によれば、StockX社は、同社の登録商標である「NIKE」、「AIR JORDAN」等の文字商標や、「Swoosh」と呼ばれる図形商標をNike社に無断で使用し、Nike社のスニーカー商品のデジタル画像をNFT化したもの(「Vault NFT」と呼ばれるコレクション)を販売しているとのことです。

Vault NFTsが販売されているStockX社のウェブページの例(訴状より)
Vault NFTsが販売されているStockX社のウェブページの例(訴状より)

Nike社は、「NFTはブランドにとって『メタバース』の内外で消費者と交流するエキサイティングな方法」であり、「NFTは一過性のトレンドではなく、商取引の未来の一端を担っている」と述べています(訴状より)。NFTの可能性に対する期待が、この訴訟には込められているようです。

近時、先日紹介したMetaBirkins事件のように、ファッションにまつわるNFTに関して米国で訴訟が立て続けに起こされています。しかし、MetaBirkins事件は著名なハンドバッグのデザイン等を模したとされる画像のNFTが単独で取引の対象になっていたのに対し、このVault NFT事件では、実際の物理的なスニーカー商品に紐付けられたNFTが問題となっている点で、特殊な問題点が生じてくるように思われます。

以下、訴状に記載された事実関係を前提として、上記の問題点に焦点を当て、日本法的な観点で分析していきたいと思います。

Vault NFTの特徴

訴状によれば、StockX社が提供するVault NFT及びこれに関連するサービスは、次の特徴を有しています。

  1. Vault NFTは、StockX社の倉庫に保管されている特定の物理的なスニーカー商品に関連付けられている(これにより、その商品の所有権が誰に帰属するかを追跡する手段としての役割を果たしているということだと思われます)。
  2. Vault NFTの保有者は、いつでもそのトークンと交換することにより、それに関連付けられたスニーカー商品を配送してもらうことができる(ようにする予定である)。
  3. 保有者がスニーカー商品の配送を受けた場合、StockX社は、そのVault NFTを保有者のポートフォリオから削除 ("burn") する。
  4. Vault NFTを購入した者は、そのVault NFTと、それに対応する物理的なスニーカー商品の両方について権利を取得し、また、StockXの施設においてその商品を保管してもらうサービスを利用することができる。
  5. 保有者は、利用規約上、StockX社のプラットフォームを通じてVault NFTを売却する以外の方法で、スニーカー商品を転売しようとしてはならない。
  6. StockX社は、保有者のVault NFTを、"Experiential Component"(限定セールへの参加等、一定の商品、特典を得たり体験に参加したりする権利)と一方的に交換することができる(したがって、保有者が物理的なスニーカー商品を受け取ることができない場合もある)。

法的なポイント

中古品の販売は商標法上適法に行うことができる

訴状によれば、StockX社がそのプラットフォームを通じて販売する商品は、Nike社その他のブランド等が一次的に製造し流通させたもの、つまり真正なブランド商品であるようです。

そして、Vault NFTに紐付けられたスニーカー商品も真正品なのであれば、これをそのままの状態で二次流通させる行為自体は商標権侵害にならず、適法であると解されます。なぜなら、その商品について使用されている商標は、そのブランドが製造し流通させた商品であることを正しく表示しており、その商品の出所について消費者に誤認混同を生じさせるおそれはないからです。

ただし、中古品であることを適切に表示せず、あたかも新品であるかのように誤解させる方法で販売する場合や、品質に重大な変更を生じさせるような改変を加えて転売する場合などには、商標権侵害が成立する可能性があるため注意が必要です。

独立して取引の対象となるNFTか、他の商品に付随するNFTかによって評価は異なる

Vault NFTに紐づけられたスニーカーは真正商品であり、これを二次流通させる行為そのものは商標権侵害にならないとしましょう。それでは、このスニーカーに紐付けられたNFTを販売する行為は、スニーカー自体の販売とは別に、商標権侵害が成立するのでしょうか?

この問題は、そのNFTに与えられた役割や価値、ひいてはそのNFTがスニーカーから独立して単独で取引の対象となり得るものであるかどうかが大きな指標となると考えられます。

MetaBirkins NFTsのように、特定のデジタル画像又はこれに対応するNFT自体が単独で取引の対象となっている場合、これらに関連して使用された商標は、まさしく、そのデジタル画像又はNFTが誰によって作成・提供されているのかという出所を表示していることになります。したがって、これらについて著名ブランドの商標が無断で使用されている場合、そのデジタル画像又はNFTがその著名ブランドによって作成・提供されているのではないかという誤解を生じるおそれがあるため、商標権侵害を成立させるべきだという考えに向かっていきます。

これに対し、あるNFTが、それに対応する商品の所有権者が誰であるかをブロックチェーン上の取引履歴によって証明することを中核的な機能としている場合(前述したVault NFTの特徴1を参照)、売り手が販売したのはあくまで物理的な商品そのものであるということになると考えることができます。つまり、この場合のNFTは独立して取引の対象となっているのではなく、商品の取引に付随して役割を果たしているにすぎないわけです。このとき、そのNFTについて使用された商標は、取引の主たる対象である物理的な商品の出所を表示しているのであり、商品に付随するにすぎないNFTそのものの出所を示すものとは認識されないと評価できる可能性があると考えられるのです。

Vault NFTにこの評価が妥当する場合、その商標は、中古のスニーカーについて使用しているものであり、これは前述のとおり商標権侵害とはならず適法であると解する余地があります。

しかし、デジタル画像又はNFTが、物理的な商品からは独立して取引の対象となるような価値を有すると評価できる場合は、そのデジタル画像又はNFTに使用された商標は、物理的な商品とは別に、そのデジタル画像又はNFT自体の出所を表示していると認識され、商標権侵害が肯定される可能性が出てくると考えられます。

この点、Nike社は本件において、①現時点ではスニーカーの配送を受けることができるサービスは提供されていない点、②Vault NFTをスニーカーと交換する際、保有者は手数料、配送料等の追加的な費用を支払う必要がある点、③StockX社の判断によってVault NFTが前述の "Experiential Component" と交換され、NFT保有者がスニーカーの配送を受けることができない可能性がある点、④Vault NFTがスニーカー単体よりも非常に高額で取引されている点、⑤SNS上での消費者の反応等に基づき、実際に混同のおそれが生じている点などを主張しています。これは、スニーカーそのものとVault NFTはそれぞれ独立の価値を有した別個の取引対象であることを強調し、商標権侵害が成立するとの結論を導くための主張であると理解できます。

おわりに

一口に「NFT」といっても、それぞれに与えられた役割や価値、取引上の位置付けは様々です。法的な検討においても、これらに応じて柔軟に考える姿勢を忘れてはなりません。

本件は訴状が提出されたばかりの段階ですので、上記の注意点を含めて、StockX社の反論など今後の動向に注視する必要があります。

弁護士・ニューヨーク州弁護士/日本VR学会認定上級VR技術者

漫画・アニメ・映画・ゲーム等のエンタテインメント、ファッション、XR、メタバース、VTuber、AI、NFT、バーチャルファッション等を中心に取り扱う。経産省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」委員、経産省・ファッション未来研究会「ファッションローWG」委員。XRコンソーシアム 監事/社会的課題WG・メタバースWG・3DスキャンWG各座長、日本知財学会コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会長。東海大学総合社会科学研究所客員講師の他、東京工業大学等で講師を歴任。主著「XR・メタバースの知財法務」、「ファッションロー」。

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