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畜産JKはニュージーランドへ何をしに?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

6月は国連食糧農業機関(FAO)が定めた“世界牛乳月間”。

将来、日本の畜産・酪農を担うであろう女子高校生(畜産女子)が、全国から20人選抜されて、ニュージーランドに研修旅行に出かけることになった。

“オープンマインドの国”といわれているニュージーランドで、彼女たちは何を学んでくるのだろうか?

■農業の世界でも「女性の活躍」が不可欠

筆者も、アチコチでたびたびレポートしてあるように、牛乳は「食べ物としての価値」がきわめて高い食材だ。

栄養価・利用しやすさ・コストパフォーマンス・おいしさなど、他の食材と比べて群を抜いている(と筆者は感ずる)。

にもかかわらず、日本の「牛乳の需給状況」はとても不安定だ。

少しでも余ると価格が暴落し、不足すると学校給食用さえ不自由するようになる。

日本の酪農には、経営(生産・供給・安全性・運営等々)の安定が切望される。

日本の酪農における、昨今の大きな問題点の1つは(これはどの業界でも指摘されているが)人手不足である。

酪農業の人手不足解決策の1つが「女性の活用」だ。

日本では、ほとんどの業種で女性労働者、とりわけ経営的立場の女性の数が少ない。

日本の農業の場合、女性就業者は全体の4割ほどいるのだが、そのうち「経営的立場」にあるのは1割にも満たない。

しかし、女性が経営に参加している農業組織では、そうでない農業組織よりも経常利益率がはるかに高いことも明確になっている【※1】。

にもかかわらず、農林水産省によると、日本の「農業女子=『私の仕事は農業です』といえて『自分の農業をもっと発展させたい』という意欲のある女性」は全国で677人しかいない。

その中で「酪農女子」は22人しかいない!

日本の酪農の将来は“酪農女子”の育成いかんにかかっている、といっても過言ではないだろう。

■女子高校生がニュージーランドに研修旅行

日本の畜産業の将来を担う女性を育成するプロジェクトとして、公益社団法人国際農業者交流協会は意欲と能力のある女子高校生をニュージーランドに派遣して、畜産を学ぶ研修会を実施することになった【※2】。

全国の農業系の高校から73人の女子高校生の応募があり、厳正な審査の結果、20人が第1回の研修生として派遣されることになった。

今年の夏休みを利用して、12日間、ニュージーランドで現地の高校生たちとともに学び、畜産関係者との交流を図り、市場調査等を経験する予定。

ニュージーランドは“オープンマインドの国”として国際的な評価が高い。歴史が浅いこともあり、排他性が小さく「他者」を受け入れる素地が整っている。

国民の約7割はヨーロッパ系の白人だが、多民族国家でもある。

公用語が英語とマオリ語と手話の3つ(手話を公用語として採用した国はニュージーランドが初めて)。

また、男女差別が小さい国でもあり、世界経済フォーラム(WEF)による「ジェンダーギャップランキング」で第9位という高さに位置する(ちなみに日本は144カ国中114位という低さ)。

ニュージーランドの首相はジャシンダ・アーダーン氏37歳(!)の女性。

現在妊娠中であり、近く6週間の産休に入る予定だという(一国のトップが産休をとるのは世界でも初めてのケース)。

■日本の畜産の未来は「畜産JK」の肩にかかっている!?

このようにニュージーランドは“オープンマインド”で、畜産・酪農が盛んな国なので、学ぶことが山ほどあるはず。

6月15日にニュージーランド大使館で行なわれた、研修旅行のためのオリエンテーションで、参加者の女子高校生に話を聞いた。

「動物、特に羊が大好きです。見るのも食べるのも(笑)。日本とは違って、ニュージーランドの畜産は放牧方式が主だと聞いているので、自分の目でしっかりと見てきたいです。将来、畜産や酪農の道に進むかどうかはまだ決めてないんですが、今回、経験することを帰ってから多くの人に伝えたいと思います」(京都府立農芸高等学校2年・石塚優花さん)

「酪農のことも学ぶことがたくさんあると思いますが、ニュージーランドは女性が活躍できる国だと聞いてます。男女差別がまだまだ多い日本からみるとその違いが大きいかなと思います。実際に行ってその辺も体験することができるのが楽しみです」(島根県立出雲農林高等学校3年・三上日和さん)

国際農業者交流協会の吉川隆志事務局長は、

「今回が初めての研修会で第2回目以降はまだ決まっていません。この子たちがいろいろな体験をし、畜産・酪農を担ってくれることになればそれはそれで望外の喜びです。そこまでいかなくても、帰国後にさまざまな機会を通じて友人や全国の高校生たちに体験談を伝えてくれれば、とても嬉しく思います。さらには、この研修会が成功して、第2回第3回と継続することを切望しています。でも、あまり責任を感じすぎずにたっぷりと楽しんできてほしいと思っています」

と抱負を語った。

そう、せっかくのチャンスだ。

柔らかな頭と澄んだ目で、畜産・酪農に限らず、多くのことを体験し、吸収してきてほしい。

そして何より「楽しんで!

【※1】株式会社日本政策金融公庫「平成28年上半期農業景況調査」 資料提供:農林水産省

【※2】助成:日本中央競馬会 協力:ニュージーランド大使館、エデュケーション・ニュージーランド

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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