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赤ちゃんや幼児の食物アレルギー予防はまず「スキンケア」から。

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■皮膚は免疫機能の最前線。

前回は、子どもの食物アレルギー対策として「都市伝説的」にいわれてきた「アレルギーの原因となりそうな食材を予防のためあらかじめ除去する」方法がけっして効果的ではなくなってきた、ことをお伝えした【※1】

今回は「子どもの食物アレルギー予防としてのスキンケア」の重要性をご紹介したい。

そもそも、アレルギー反応とはどういうものなのかを見てみよう。

アレルギー反応は免疫機能の一部である。

免疫機能というのは、体内に「敵」が侵入することを防ぎ、もし「敵」の侵入を許してしまった場合にはそれを退治するという、私たちの生存にとって欠くことのできない、きわめて重要な機能だ。

ちなみに、免疫機能は、「敵」を見分けるのに「自分以外のたんぱく質」に反応する仕組みとなっている。

その最前線は皮膚。

皮膚は体外から体内への敵の侵入を防いでいる臓器であり、単なる袋ではない。

ここで少しカタイ話になるが、解剖学的に(あるいは発生学的に)見ると、私たちの皮膚は、口と肛門から体の中に入り込んでいることがわかるだろうか。

これがわかると、「胃の中」や「腸の中」は、じつは「体内」ではなく「体外」であることが理解できよう。

ということは、胃の壁や腸の壁は(皮膚と同様に)免疫機能の最前線として、体外(胃や腸の中)から体内(胃壁や腸壁の中)への敵の侵入を防ぐという、きわめて重要な働きをしているのだ。

■腸管と皮膚は“似たもの同士”

皮膚と胃壁・腸壁は“似たもの同士”であり、きわめて近い働きを受け持っている。

両者とも「免疫機能の最前線」であることは同じなのだが、皮膚と胃壁・腸壁とでは、決定的な違いもある。

皮膚は、外部からの(敵の)侵入を徹底的に拒否すればいいのだが、胃壁や腸壁は、そうはいかない。

胃壁や腸壁は、「敵の侵入」は拒まなければならないが、「食物」は栄養としてとり入れなければならないからだ。

そのために、胃壁や腸壁は(皮膚とは違い)「粘膜」という構造になっている。

粘膜上にある「腸管」がその機能を担っている。

腸管では、「いま目の前にあるモノが拒否すべき敵なのか、あるいはとり入れるべき食物なのか」の判断をつねに強いられる。

これはきわめて高度な判断である。

食物を拒否してしまうと栄養不足で生存が危ぶまれるし、本物の敵を受け入れてしまうとやはり生存が危ぶまれる。

成長につれて経験も判断力も発達し(?)栄養をとり入れ、本物の敵は拒否することが上手にできるようになる。

しかし、離乳食を始めたばかりの赤ちゃんは、この機能が未発達のために、「自分ではないたんぱく質」の中から、「本物の敵」と「敵ではない食物」とをうまく見分けられないことがある。

本来は敵ではない食物を、敵と勘違いして攻撃すると、アレルギーの症状が引き起こされる。

この腸管での免疫の間違った働きは“似たもの同士”である皮膚にも伝わり、アトピー性皮膚炎等を引き起こすことがある。

あるいは、呼吸器等、他の臓器にも甚大な影響を与え、アナフィラキシーショックに至ることさえある。

■スキンケアはお母さんよりも赤ちゃん優先に!

最近、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係に新しい知見が加わった。

これまでは食物アレルギーによってアトピー性皮膚炎が発症すると考えられてきたのだが(それももちろんあるが)、逆のケースつまりアトピー性皮膚炎が食物アレルギーを誘発することがわかってきたのだ。

アトピー性皮膚炎は、様々なことが原因で発症するアレルギー疾患だ。

食物を原因とはしないアトピー性皮膚炎であっても「皮膚の免疫機能疾患」であることには変わりがない。

先ほども書いたように、皮膚と腸管はきわめて近い関係にあるので、皮膚の免疫機能異常は腸管にも直接的に影響を与えて、食物アレルギーを起こしやすくする。

そして、食物アレルギーが起こるとそれが皮膚に悪影響を与え、アトピー性皮膚炎がさらに悪化する・・・・という悪循環が繰り返されることになる。

食物アレルギーが発症したときには、原因物質であるアレルゲンを除去するなどの適切な対応が必要だ。

と同時に、皮膚に炎症が見られる場合には、そちらも治療することがきわめて大切となる。

専門家の指導の下で、ステロイド外用薬を適切に使うなどの対応が求められる。

また、そもそも、食物アレルギーが出ないうちから、赤ちゃんが皮膚の炎症を起こさないようなスキンケアをすべきである。

皮膚を健康に保っておくことは、赤ちゃんの食物アレルギーの予防に有効といえる。

スキンケアといっても特別なことをするわけではない。

1:清潔にすること、2:保湿することの2つが基本である。

お母さんの(寝る前の)スキンケアの基本と同じ。

ただし、赤ちゃんの肌はお母さんの肌よりも敏感でまだまだ弱い。

赤ちゃんに対するスキンケアは、夜だけではなく、朝も昼も気を配ろう!

【※1】  https://news.yahoo.co.jp/byline/satotatsuo/20180126-00080858/

★この原稿は、神奈川県立こども医療センターアレルギー科医長・高増哲也氏への取材を元に執筆した。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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