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「ダイエット」というのはやせることばかりではない。「太るダイエット」というのもある。

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■間違って使われている「ダイエット」という言葉

ダイエット(diet)というのは、本来、「(何かの目的を達成するために)コントロールされた食事」という意味。

医療の世界では、たとえば、糖尿病の患者に血糖値を上げないようにコントロールした食事や、慢性腎不全の患者にたんぱく質やカリウムを制限して高カロリーを確保するようにコントロールした食事などがあり、これらの食事を「ダイエット(日本語でいえばダイエット食?)」という。

コントロールした食事は、もちろん、病院だけではなく一般社会でも広く行なわれている。たとえば塩分をとりすぎないようにコントロールした食事や、動物性脂肪をとりすぎないようにコントロールした食事があり、これらも「ダイエット」である。

なので、医師や栄養士の指導の下に、栄養不足や消化器障害等でやせてしまった患者に対して体重を増やすためにコントロールした食事が提供されることもある。もちろんこれもダイエットだ。つまり「太るダイエット」というものも存在する。話が本題からそれるかもしれないが、これからの日本では、介護施設などを中心に、この「太るダイエット」がとても重要な食事になるであろうと推測する。

話を元に戻して、現実として、一般的には(とりわけ病院の外では)「コントロールした食事」の多く(ほとんどといっても過言ではない)が「やせるためにコントロールした食事」である。そのため「ダイエット」という言葉は「やせるための食事」の代名詞ともなった。

さらに進んで「食事」という概念も取り除かれて、ダイエットは「やせること」を表す言葉として、「活動」にも用いられている。ダイエットエクササイズなどという体操もあるようだが、本来の意味からいえば、これはかなり的外れな表現である。

■野菜料理や低カロリー料理がヘルシーなわけではない!

世の中に「誤って」通用している言葉(で、私が気になっている言葉)がもう一つある。それは「ヘルシー」。とりわけ料理業界(っていう業界があるのかどうか知らないが)で使われる「ヘルシー」という言葉。

ヘルシーな料理というのは、栄養素のバランスがよく、かつ、カロリー(エネルギー)的にも多すぎず・少なすぎず「適量」な料理のこと。さらにいえば、本来は「ヘルシーな食生活」があるのであって、「ヘルシーな料理」というのは、かなり誤解を招く概念である。この点に関しては、昨年、厚生労働省が検討している(なぜか突然に頓挫したが・・)ので、下記を読んでいただきたい。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150409-00044673/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150412-00044674/

つまり、この概念から考えて「ヘルシー」は1品(1皿)では成就できない。最低「1食分の献立」でなければならないだろう。つまり「ヘルシーなお浸し」などありえない。

しかし、テレビの料理番組、料理雑誌や書籍、ネットの料理情報には「ヘルシー」を謳った料理が氾濫している。その中身を分析してみると、「野菜を使った料理」「カロリー量を低く抑えた料理」「動物性食材や脂肪を制限した(使わない)料理」、まれに「食塩を抑えた料理」などがある。

この中で「ヘルシー」といえるのは食塩を抑えた料理くらいだろう(食塩は「生涯摂取量」が少ないほど高血圧系疾患になりにくいといわれている)。他の料理は、これ1品で「ヘルシー」と謳ってはならない物ばかりである。「1品」で評価するなら、どんな料理でも「栄養バランスの悪い料理」ということになろう。

■やせすぎ料理研究家が提案する「ヘルシー料理」って?

この話題で「どうしても触れておかなければならない」ことがある。それはマスコミで料理を提供する「人(料理研究家やシェフや調理人)の体形」、とりわけ私が気になるのは「ヘルシー料理」を提供(紹介・製作)する人の「体形」である。

「おいしい料理」「伝統料理」「簡単料理」「郷土料理」「珍しい料理」「アイディア料理」等を紹介する人は、それなりの技術と知識と経験を持っていればよい。作り手の「体形」をどうこういうつもりはない。ただし「ヘルシー」を標榜するからには、その人の体形は「最低限の健康体」を保っていなければならないだろう。

タバコをすっている医師から進められる禁煙習慣、ものすご~く太っている栄養士から提案される減量などと同様に、ガリガリにやせた人が作るヘルシー料理菜など、ナンの説得力も持たないと思うのだが、なぜか料理業界ではこれが通用している。

肥満の程度を示す指標として広く用いられている体格指数(BMI=Body Mass Index)に関連する多くの研究から、やせすぎも太りすぎと同じく、将来何らかの疾病に罹患するリスクが高いことが判明している。最も新しい(2015年版)『日本人の食事摂取基準』(下記URL)では「目標とするBMIの範囲」を次のように定めてある(男女共通)。

・18歳~49歳:18.5~24.9

・50歳~69歳:20.0~24.9

・70歳以上:21.5~24.9

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000041733.html

また、多くの研究で、中高年以降では、BMIが19未満の「やせすぎ」の人はBMIが30以上の「肥満」の人と同じくらいのリスクになることも指摘されている。

ヨーロッパでは、やせすぎの人をファッションモデルとして雇ってはならないという制限を設ける国が増えている。健康とは直接的には関係のないファッション業界でさえ、このような制限を始めている。健康と深く結びついている料理業界がこのことに無頓着であっていいはずがない。やせすぎの人を料理研究家として使ってはならないようにしろとはいわないが、少なくとも「ヘルシー料理」を紹介させないような制限は必要なのではあるまいか。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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