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「健康な食事とは状態である」という画期的な定義--「健康な食事」が再検討になったのはなぜ?(上)--

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■「健康で長生きできる」食事の決定版はあるのか?

日本人(に限らず先進諸国の人すべてに当てはまるのだが)の健康と寿命が、生活習慣(とりわけ食習慣)によって大きく左右されることが明らかになって半世紀ほどが経過する。そのため「どのような食事をすれば健康で長生きできるのか」が私たちの大きな関心事となっている。

それに応えるために、厚生労働省は、これまでにさまざまな食事法を提案してきた。例えば、食材を6つの食品群に分けてバランスよく摂取するように提言したり、一日に30食品を食べることによって栄養バランスの偏りをなくそうとしたり、コマ型の食事バランスガイドを作成して食事の質や量を適正に摂取しようとしたり・・・等々。しかし「帯に短し襷に長し」で、なかなか一般の人たちには浸透しないのが、厚生労働省の悩みである。

そろそろ「決定版」を出したいと思ったかどうか、厚生労働省は2013年(平成25年)に「日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方検討会」という検討会を立ち上げた。私には、この長ったらしい名称が厚生労働省の本気度を表していると(最初は)思えた。

検討会は2013年6月に第1回が開催された。検討会の委員には医学・栄養学の研究者はもちろんのこと、食品・流通業界の人、外食関係者、消費者代表など、様々な分野から19人もが選ばれた。検討会は約1年半にもわたって11回開催され、私もたびたび傍聴した。いろいろな検討会や委員会がある中で、毎回、参加者も傍聴者もかなり多く、活発な議論が行われた、というのが私の印象だ。

■日本人の食生活に大きな影響を与える「健康な食事」が示された

会議が始まって半年くらいは、各界を代表する委員たちが、それぞれの立場から意見を述べ合い、資料を提出して、現状の報告や健康な食事の必要性等を、それはそれはていねいに紹介していった。

私の記録に間違いがなければ、検討会が始まって約半年後、2014年3月に行われた第7回の会議で、「健康な食事」定義(案)が提案された(下記)。これを見たとき、私は「この会議は有意義だ。日本人の食生活に大きな影響を与えるであろう」と確信した

●「健康な食事」定義(案)

「健康な食事」とは、各自の健康な心身の維持・増進に必要とされる栄養バランスを基本とする食生活が無理なく持続している状態を意味する。「健康な食事」の持続性には、おいしさを構成する食材や調理法や食べ方・食の場面が大切であり、「健康な食事」が広く社会に定着するためには、健康・栄養から食料生産・食文化に至る食をめぐる基本情報が共有されるとともに、嗜好に合ったメニューにアクセスできる社会的・経済的な条件が整っていなければならない。

この中で私がもっとも期待し・信頼したのは、最初の一文だ。つまり「健康な食事とは状態である」という、画期的な定義がなされたのだ。しかし、残念ながら、いつの間にかこの「画期的定義」が揺らいでいくことになるのだ(以下「下」に続く。4月13日公開)。

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食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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