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ホロコースト時代の「ソビブル絶滅収容所の大脱走」から80年:進む記憶のデジタル化

佐藤仁学術研究員・著述家
ソビブル絶滅収容所(アウシュビッツ博物館提供)

映画・ドキュメンタリーも多く制作されているソビブル絶滅収容所からの脱走

第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。1943年10月14日にポーランドにあったソビボル絶滅収容所でユダヤ人ら囚人らの大脱走があった。2023年10月で80年を迎える。日本ではアウシュビッツ絶滅収容所は有名だが、ソビブル絶滅収容所はあまり馴染みがない人が多いかもしれない。

ユダヤ人絶滅を目的として1942年4月に完成したソビブル絶滅収容所だが、1943年10月にはユダヤ人やソ連兵の捕虜ら600人が反乱を起こして、半数の約300人が脱出に成功している。そして脱出に成功した多くの生存者らが戦後になってソビブル絶滅収容所での体験や脱出について多く語っている。

またソビブル絶滅収容所での脱出をテーマにした映画やドキュメンタリー、ドラマなどが多く制作されている。1987年に制作された英国映画「Escape from Sobibor」、2001年に制作されたフランス映画「SOBIBOR, 14 OCTOBRE 1943, 16 HEURES」(邦題「ソビブル、1943年10月14日午後4時」)、2018年に制作されたロシア映画「Sobibor」(邦題「ヒトラーと戦った22日間」)などが有名である。

▼「Sobibor」オフィシャルトレーラー

▼「ヒトラーと戦った22日間」

ソビブル絶滅収容所から脱出した生存者らの証言もデジタル化され後世へ

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

ソビブル絶滅収容所での脱出をテーマにした映画やドキュメンタリー、ドラマなどは、ソビブルでの脱走を経験した囚人らの証言を元に制作されているのでフィクションである。

戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。

80年前にソビブル絶滅収容所から自力で脱走できた人の多くはもう他界しているが、生前に当時の経験を語っている証言もデジタル化されて後世に伝えられている。またソビブル絶滅収容所で脱走して生き延びた人のテレビでのインタビューなども多くがデジタル化されて今でもネットで配信されている。80年後の2023年10月14日にはソビブル絶滅収容所から脱出して生き延びることができた生存者の家族や孫らが、生存者らのホロコースト時代の経験を伝えていた。ホロコーストの記憶が次世代に継承されている。

デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく観るという大人も多い。ソビブル絶滅収容所での脱走をテーマにした映画やドキュメンタリーは残虐なシーンも多いことから、小学生など子供向けのホロコースト教育ではあまり使用されない。

世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

▼デジタル化されたソビブル絶滅収容所からの生存者の証言

▼ソビブル絶滅収容所の脱走から80年を記念して生存者の孫らがスピーチ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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