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高市早苗氏 経済安全保障と中国の脅威を語る「やられたら報復がある。それが抑止力」山田宏氏との対談にて

佐藤仁学術研究員・著述家
高市早苗氏の出陣式(写真:アフロ)

2021年9月17日に、自由民主党(自民党)の総裁選挙が告示された。河野太郎規制改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4名が立候補を届け出た。

高市早苗氏が自民党参議院議員の山田宏氏のYouTubeチャンネルに登場し、2人で様々なテーマについて対談していた。高市氏は中国の脅威と経済安全保障、国防におけるサイバー防衛の重要性を出馬会見、所見発表演説会など以前から強調していた。総裁選に出馬する前から、自身のコラムでも、安全保障の観点からサイバーセキュリティの重要性を訴えていた。

今回の山田宏氏との対談でも中国の脅威への対抗、経済安全保障、国防におけるサイバーセキュリティの重要性を力説していた。

「日本の科研費を使って、日本で研究をした中国人が中国に帰って、極超音速兵器を開発しています。極超音速兵器は日本では残念ながら迎撃できません」

山田:台頭する中国にどう対抗、対峙していきますか?日本がもっと国家としての自立を高めていくこと、また防衛力の整備については?

高市:一番怖いと思っているのは、国防動員法です。中国の会社法、中国の共産党規約、国家情報法。この3つの法律については相当な危機感を持っています。学校であれ、企業であれ、研究所であれ、中国共産党員が3人いれば、党組織を作らなければいけないということになっています。日本にある企業で中国人を雇うといった時に、たまたまその中に3人共産党員がいたら、必ず会社の中に中国共産党組織ができてしまいます。

国家情報法というのは国家の情報工作について、全ての人民および組織企業が協力しなければいけない義務を持っています。そうすると機微技術、先端技術が中国に流出する恐れがあります。実際に日本企業が自社内に作られた共産党組織に完全に経営を掌握されてしまって上場廃止になりかけたことがありました。

このようなことがすでに起きていますので、経済安全保障ということを考えると新しい法律が必要だと思っています。経済安全保障包括法という法律を作って、まずは日本に入ってくる研究者、大学院生なども含めてスクリーニングをかけさせていただきます。つまり身辺調査になりますが、すでに諸外国では法律に基づいてビザを発給する前に中国共産党員じゃないか、人民解放軍の関係者じゃないかといったことを調べて、情報機関にも照会をかけて、その後ビザを発行しています。アメリカはもっときついですよね。中国共産党員およびその家族の商用ビザおよび観光ビザを有効期限10年だったのを1か月に短縮しました。でも日本は全く無防備です。経済安全保障包括法を作ってスクリーニングをかけます。

これから大切になるのは秘密特許です。今、特許を公開したら全部わかっちゃうので、これが中国人民解放軍や北朝鮮の軍隊に悪用される可能性もあります。秘密特許制度も可能にします。それからどこの研究機関、どの企業や大学がどういう研究をしているか、特に機微技術は一括的に国の方で申請していただいて国もしっかり目を光らせます。

そうしないと日本の耐熱素材技術、スクラムジェットエンジン技術などが、もろに極超音速兵器という中国が今、必死に開発している兵器に必要な要素です。日本の科研費を使って、日本で研究をした人たちが中国に帰って、そういう兵器を開発している機関で働いています。この事例がたくさん報告されています。これは私たちの身を危険にさらす技術を日本の国費で提供していることになってしまっています。やはり法制度が絶対に必要だと思います。

「いかに早く相手の基地を無力化するかで、これからは勝負が決まります」

高市:特に極超音速兵器については、もう日本は防御のしようがありません。マッハ5以上で飛んできて、しかも低空飛行ですから、レーダー探知が凄く難しくて、もうそこまで来てようやくわかります。しかも放物線軌道じゃなくて、非常に変動的な軌道で飛んできますので、今の日本では残念ながら極超音速兵器を迎撃する力がありません。

ではどうすればいいかということです。もしも早めに発射の兆候がわかれば、敵基地先制無力化をします。これは安倍内閣の積み残し案件で、敵基地先制攻撃と安倍首相はおっしゃっていました。私はむしろ敵基地先制無力化と言ってます。いかに早く相手の基地を無力化するかで、これからは勝負が決まると思っています。

「やられたら場合は報復があることを示します。それが抑止力になります」

高市:ポイントとなるのは、衛星、電磁波、サイバー、それから無人機です。中国軍はたくさん無人機を持っています。最悪の事態を考えると中国はすでに衛星を破壊する技術を身につけています。ある時突然に、日本やアメリカの衛星が破壊され、しかも海底ケーブルが切断され、サイバー攻撃で変電所をやられたら、もうブラックアウトです。通信も完全に途切れてしまいます。そうすると自衛隊も反撃できません。

だから、反対にこちらが仕掛けます。敵基地の無力化をします。このための備えもしなればいけませんが、法的にできないこともあります。

サイバー攻撃で相手の基地やシステムを無力化します。これはアクティブディフェンスですが、日本では法律がありません。憲法で通信の秘密にひっかかるというのがあって、安倍内閣でもなかなか議論が進みませんでした。

極超音速兵器を撃たれたらもう防御のしようがないのですが、敵基地の無力化をいかに早くするかが重要です。また「やったらやっぱり報復があるんだ」ということで注目しているのは、一昨年にエスパー長官がアジア地域に中距離のミサイルを配備したいと仰っていました。あれは日本が手をあげるべきだと思います。日本国内の米軍基地もあります。特に首都圏を守るという意味では、必要なものです。やられた場合にはそれで一定の報復があることを示さなければいけません。それが抑止力になると思います。

サイバースペースにおける安全保障の重要性

国家のリアルな安全保障と同様にサイバーセキュリティも国家の安全保障において重要である。サイバー攻撃による情報窃取は経済の安全保障において危機であり、重要インフラへの攻撃によるブラックアウトや原発事故などが発生した場合は国家の安全保障においても非常に危険である。

そしてサイバー攻撃では、攻撃側が圧倒的に優位で強い。サイバー攻撃は相手のシステムの脆弱性を見つけて、そこから攻撃を仕掛ける。相手を攻撃をしている時に、自分のシステムにも同様の脆弱性を見つけて、修正することもできる。サイバー防衛にとってもサイバー攻撃は効果があり、サイバースペースでは「攻撃は最大の防御」である。

さらにサイバー攻撃を受けた際に、リアルな経済や金融制裁などで反撃を行うことは、抑止になる。「対話」と「抑止」は国際政治と安全保障の基本であり、特に大国間同士では重要である。抑止の前に対話が必要だ。サイバーセキュリティがイシューとして国家間でテーブルに上がって対話が行われているうちはまだよい。お互いが相手側からのサイバー攻撃を意識していることであり、牽制を目的として対話している。そこには抑止効果もある。だが、例えば米中間では、もはやサイバーセキュリティをめぐる対話や、中国人容疑者の起訴などによる抑止では止まることなく、2020年7月には中国政府はヒューストンの中国総領事館を閉鎖してしまった。そして米国政府は対抗措置として四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖してしまい一触即発の危機になったこともある。またサイバー攻撃に対してミサイルなどリアルな兵器での報復を行うことは欧米の首脳は過去にも明言している。

またサイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけではできない。サイバー攻撃はどこから侵入してくるかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。

今回、高市氏はアメリカとの協力についても言及していたが、同じ価値観を共有し、同等の能力を保有している国同士でのサイバー同盟は非常に重要である。サイバーセキュリティの能力の高い国家間でのサイバー同盟は潜在的な敵対国や集団からのサイバー攻撃に対する防衛と抑止能力を強化することにつながる。防衛同盟において重要なのは、リアルでもサイバーでも対外的脅威に対する安全保障だ。

そのため多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、サイバー攻撃対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを行っていく必要がある。マルウェア情報やサイバー攻撃対策の情報交換だけでなく、平時においてもパブリックでの議論を行うことも信頼醸成に繋がるので重要である。

▼【高市早苗さんと緊急対談!】総裁選に出馬の高市氏に迫る!

高市早苗氏の出陣式
高市早苗氏の出陣式写真:アフロ

高市早苗氏の出陣式
高市早苗氏の出陣式写真:アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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