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司祭服&囚人服を着た「アウシュヴィッツの聖者 コルベ神父」グッズ販売で炎上・謝罪

佐藤仁学術研究員・著述家
コルベ神父のキャラクターの枕(ETSYより)

ユダヤ人の身代わりで殺された「アウシュビッツの聖者」

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。

カトリックでユダヤ人ではないコルベ神父はナチスの思想に反するということでアウシュビッツ絶滅収容所で強制労働に従事させられていた。1941年7月29日に、脱走した囚人の見せしめのために選ばれた囚人が処刑されそうになったところ、自分が身代わりになるといって死刑を志願。選ばれた囚人の代わりに独房で餓死刑にされ、最後はフェノールを注射して殺害された。

コルベ神父はカトリックでユダヤ人ではないことからも、コルベ神父の偉業は日本だけでなく世界中でも語り継がれている。「アウシュビッツの聖者」とも呼ばれており、いくつかの映画やドラマにもなっている。日本の長崎にもカトリックの宣教に来ていたことから日本でもコルベ神父は有名である。

このようにコルベ神父は「アウシュヴィッツの聖者」とも呼ばれており、ユダヤ人にとってもキリスト教徒にとってもヒーローのような存在として語り継がれ、愛されている。

「過去の歴史とコルベ神父を矮小化する意図はありませんでした」

そのコルベ神父を愛らしいキャラクターにしたシャツ、まくらがオンラインで販売されていた。シャツでは半分が神父の着る司祭服で半分がアウシュビッツ絶滅収容所での囚人服になっていた。まくらに描かれたコルベ神父のキャラも同様に半分が司祭服で半分が囚人服になっている。このコルベ神父を模したキャラのシャツ、ソックス、まくらを販売していたことからネットでも「アウシュビッツで殺害されたユダヤ人やコルベ神父に失礼だ」「ホロコーストを矮小化している」「趣味が悪い」と大炎上していた。そしてオンラインでの販売を中止した。

販売していた店では「決して過去の悲劇的な歴史の犠牲者やコルベ神父の業績を矮小化したりする意図はありませんでした。このような事態になり謝罪申し上げます」と謝罪声明を発表していた。

ホロコーストやナチスドイツに関するファッションや商品は販売されると必ず炎上する。今回のようにユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似ていたり、ユダヤ人が差別されるために着用を義務付けられた黄色のダビデの星をつけた服など露骨なファッションが多い。そのような商品は「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」と毎回炎上する。また囚人服やダビデの星など露骨な反ユダヤ的なファッションについては世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館、著名人らも反対や商品の撤収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。今回もそのパターン通りである。

だが、それでも懲りずにこのようなホロコーストを想起させるような商品が登場してくる。毎回「ホロコースト関連のファッションを販売する」→「ネットで炎上し、拡散される」→「商品を撤収したり、謝罪する」の繰り返しで、もう欧米では過去に何回もあった。一方で、ホロコーストをテーマにした商品やファッションは、必ず炎上するので、それによって拡散し、話題になるので知名度を高めたり、サイト内の他の商品を見てもらおうとマーケティング目的で行われるケースもある。

▼コルベ神父キャラクターの枕

(ETSYより)
(ETSYより)

▼シャツ

(インスタグラムより)
(インスタグラムより)

▼過去にはソックスも販売されていた

コルベ神父(アウシュビッツ博物館提供)
コルベ神父(アウシュビッツ博物館提供)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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