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戦後80年を経てイスラエルのホロコースト博物館がポーランドでナチス時代のユダヤ人大量殺害跡地を発見

佐藤仁学術研究員・著述家
ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)

全て壊滅されたユダヤ人の町、デジタル化された証言や史料のアーカイブを元に発見

イスラエルのシェム・オラム・ホロコースト教育博物館はホロコースト時代の歴史的な証言や手紙、殺害された人々の遺産、絵画などをアーカイブやドキュメンテーションとして保管したり、ホロコーストの歴史研究を行っている。

そのシェム・オラム・ホロコースト教育博物館では、ナチスドイツに占領されたポーランド南西部のボイスワビツェで虐殺されたユダヤ人らの殺害跡地を2021年8月に発掘した。ボイスワビツェでは19世紀からイディッシュ語を話すユダヤ人らが多く住んでいたが、ナチスドイツがポーランドを占領してから、多くのユダヤ人らが殺害された。この殺害跡地では、子供20人を含む60人のユダヤ人が殺害された。

シェム・オラム・ホロコースト教育博物館のラビのアヴラハム・クリーガー氏は「虐殺から約80年の時を経て、最近になってようやく殺害跡地が見つかりました。このような発見はめったにありません。最近まで、私たちもこのような殺害跡地があることに気が付きませんでした。この地域での過去のユダヤ人の歴史を辿ってみて、ようやく発見することができました」と語っている。

子供20人を含む60人のユダヤ人の殺害跡地を高度スキャン技術で発見

今回、60人の死体が見つかったボイスワビツェはナチスドイツに占領されてから、ユダヤ人が強制的に収容されたゲットーが設置された。ゲットーでは衛生環境も悪く多くのユダヤ人がチフスで死亡したり、餓死した。そして1942年に多くのユダヤ人がアウシュビッツなどの絶滅収容所に移送されて殺害された。この60人のようにゲットーでも殺害が行われた。終戦間近にはゲットーに残っていたユダヤ人はベウジェツ強制収容所に移送されて殺害されたか、ブーク川の岸辺に立たされて銃殺され、死体はそのまま川に流されてしまった。このようにしてユダヤ人がこの街に住んでいた痕跡は跡形もなく消されてしまっていた。

当時、ナチスドイツによって大量のユダヤ人が、あらゆる場所で殺害され、このようにユダヤ人の集落ごと殲滅されたところもある。戦後になってもユダヤ人が収容所から戻って来なかったり、戻ってくることができても、もうポーランド人に占領されていて、かつてそこに住んでいたユダヤ人が住む場所はなかったことも多かった。

また戦後、ポーランドは共産圏でソ連の支配下にあって、第二次世界大線時の情報が開示されることはほとんどなかった。そのため、忘れられていた殺害場所と地域になっていたようだ。だが、同博物館では、様々なホロコーストの歴史の史料や証言のデジタル化、アーカイブ化を行っていくうちに、殺害された場所をつきとめて、発掘することができた。

同博物館ではそのようなデジタル化、アーカイブ化された史料や証言から、この場所を推定していた。現地でも、当時の記憶のある人たちから聞き取り調査などを丁寧に実施していた。だが一昨年からの新型コロナウィルス感染拡大で、ポーランドに行って発掘を行うまでには時間を要していた。そして現地に行ってから、高度なスキャニング技術を活用して、殺害された跡地を発見した。発掘したところ20人の子供を含む60人のユダヤ人が殺害されていたことが確認された。

ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)
ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)

ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)
ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)

ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)
ポーランドで発掘された殺害跡(シェム・オラム・ホロコースト教育博物館提供)

▼シェム・オラム・ホロコースト教育博物館紹介動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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