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シンガポールの政治家がワクチン政策をナチスのホロコーストと比較:イスラエル大使館が非難

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ホロコーストとナチスによく例えられる新型コロナウィルス政策

新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われたり、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられていた人が多かった。そのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている状況、政府からの強制は第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。

欧米や中東諸国では今だに反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人は差別されやすい。またワクチン接種を希望している人もいるが、誰もがワクチン接種を希望しているわけではない。そのため、政府からワクチン接種を強制されることに反対している人も多い。

そして新型コロナウィルスのワクチン接種に反対するデモが行われている。海外ではワクチン接種を強制されることに反対してのデモは頻繁に行われている。そのデモでも、ワクチン接種に反対する人が、ナチスドイツが支配していたホロコースト時代にユダヤ人が強制的に着用させられた黄色い星に「NON VACCINE」(ワクチン未接種)と表示されたバッジをつけてよく参加している。このようなユダヤ人の黄色い星の着用に対して「現在のロックダウンの状況をホロコーストに例えるのはおかしい」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」といった声が多く上がり、ネットが炎上している。

このように欧米では新型コロナウィルスでのパンデミックによる不自由な状況をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットが炎上する。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限され、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」「政府からの強制=ナチスドイツの政策」というイメージを持つ人が多い。

シンガポールの政治家もSNSに比較投稿・イスラエル大使館が非難

2021年8月には、シンガポールでも政治家のブラッド・ボイヤー氏が自身のFacebookとインスタグラムで、新型コロナウィルス政策を批判する投稿を、アウシュビッツ絶滅収容所の写真とともに投稿していた。

同氏は「ガス室は突然始まったのではありません。1つの支配政党(ナチス)がメディアを支配していました。そしてナチスがメディアから市民へのメッセージをコントロールしていました。ナチスが何が正しいかを決めていました。ナチスが言論の自由を制限していました。ナチスが市民を"我々の側"と"彼らの側"に分けていました。良識ある市民が目を閉じてしまった時にホロコーストが始まったのです」とのメッセージを添えて「シンガポールはいま、"我々の側"と"彼らの側"に分けられてしまっています。神様、私たちの国を救ってください(Singapore is now us and them...God help our nation!)」と投稿していた。つまり、「ワクチンを接種した人」と「ワクチンを接種していない人」にシンガポール国民が二分されていることを、ナチスのユダヤ人政策に例えて批判していた。

これを受けてシンガポールのイスラエル大使館がワクチン接種や新型コロナウィルスの政策をホロコーストに例えることをやめるようにとFacebookで訴えいてた。イスラエル大使館は「ホロコーストはナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を殺害した民族抹殺です。コロナの感染拡大から命を守るためのワクチン接種と比較するのはおかしいです」と主張。

また、SNSでコロナの政策とホロコーストを比較するような投稿があっという間に拡散され共有されていく状況についてもイスラエル大使館は「このような投稿を拡散して共有する前に、しっかりと考えてください。ホロコースト時代に起こった悲劇と、現在の状況は全く異なります。比較すること自体がおかしいです」と訴えていた。

▼シンガポールの政治家ブラッド・ボイヤー氏が自身のSNSに投稿していたコロナ政策とホロコーストを比較した投稿

ブラッド・ボイヤー氏のインスタグラムより
ブラッド・ボイヤー氏のインスタグラムより

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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