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米国の帽子店「ワクチン未接種」のユダヤ人の黄色い星のバッジを販売してネット大炎上・店舗謝罪

佐藤仁学術研究員・著述家
ナッシュビルの帽子店でのデモの様子(ラヘル・ティーダ氏提供)

店舗前にも抗議デモ

米国テネシー州のナッシュビルにある帽子店で、新型コロナウィルスのワクチン接種をしていない人のために、ナチスドイツが支配していたホロコースト時代にユダヤ人が強制的に着用させられた黄色い星に「NOT VACCINATED」(ワクチン未接種)と表示されたバッジを販売しており、ネットで大炎上している。また店舗の前にはたくさんの抗議デモも来るほどの大騒ぎに発展してしまい、店舗が謝罪した。

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われており、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられている人が多い。そしてそのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。当時、ゲットーに閉じ込められたユダヤ人やアンネ・フランクのように隠れ家で息をひそめながら隠れていたユダヤ人に例えられやすい。

そしてワクチンを接種していない人のために「NOT VACCINATED」(ワクチン未接種)というバッジまで登場して、ますますホロコースト時代のユダヤ人の生活と最近の新型コロナウィルス感染拡大での生活が比較されている。そして、このユダヤの黄色い星に例えられたのも、今回のナッシュビルの帽子店が初めてではなく、もう欧米では何回もあり、その都度ネットでは「ワクチン未接種の人をホロコースト時代のユダヤ人に例えるのはおかしい」「迫害されていたユダヤ人とワクチンを接種していない人とでは置かれている状況が違う」といった声が多く上がり、ネットで大炎上していた。

ホロコースト時代に差別標的のために黄色い星を着用させられたユダヤ人

日本人には馴染みがないが、黄色のダビデの星はナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。

特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に乗せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用の義務化、ワクチン接種の有無をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットで炎上している。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたり、ワクチン接種を受けられないといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」というイメージを持つ人が多い。

▼黄色い星のデザインの「NOT VACCINATED」(ワクチン未接種)バッジ

▼店舗での抗議デモ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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