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イタリアのイスラエル大使館主催ホロコーストのオンラインイベントにZoom爆弾でナチスのカギ十字

佐藤仁学術研究員・著述家
Zoomの画面に現れたナチスのカギ十字(イタリアのイスラエル大使館提供)

ホロコースト犠牲者追悼のオンラインイベントに登場したカギ十字

毎年4月にはヨム・ハショアと呼ばれる、ホロコーストで犠牲になった人々を追悼する休日がある。今年は4月7日夕方から8日夕方までだった。イスラエルのエルサレムにあるヤド・バシェムは第2次大戦時にナチスドイツによって殺害されたユダヤ人らを追悼するための国立記念館。毎年ヨム・ハショアの日には、多くのユダヤ人がヤド・バシェムに集まり、ナチスドイツによって殺害された約600万人のユダヤ人犠牲者に祈りを捧げる重要な行事である。イスラエルではヨム・ハショアの日にはサイレンが2分間にわたって鳴り響き、車に乗っている人も全員が道路に降りてきて、全土でホロコースト犠牲者を追憶して黙とうをする。いつもは喧噪のイスラエル中の町が沈黙する。ホロコースト生存者の高齢者も家族と一緒に多く集まる。

そしてイタリアにあるイスラエル大使館ではヨム・ハショアを記念してホロコースト犠牲者を追悼するオンラインイベントをZoomで開催していた。そのオンラインイベントに参加者の一人がナチスドイツのカギ十字(ハーケンクロイツ)のマークを表示させて嫌がらせをしてきた。イタリアのイスラエル大使館のドロール・アイダー氏が画面の共有を停止してカギ十字の画面を表示させないようにした。ドロール・アイダー氏は「イタリア人の多くは反ユダヤ主義がないと理解していますが、まだヨーロッパには反ユダヤ主義が残っていることがわかる事件でした。大使としてもっと強い連帯を呼びかけていかないといけません」と語っていた。

多発している反ユダヤ主義のZoom爆弾

このように反ユダヤ主義者がZoomのオンラインイベントに入ってきて妨害をするのを「Zoom爆弾(Zoom bombings)」と呼ばれており、今回が初めてではない。アメリカ最大のユダヤ人団体で反ユダヤ主義と闘っている「名誉毀損防止同盟(The Anti-Defamation league)」によると、新型コロナウィルス感染拡大に伴って、リアルでのイベントができなくなってZoomでオンラインイベントが開催されるようになった2020年3月~4月の1か月でアメリカとカナダで反ユダヤ主義の「Zoom爆弾」が11回もあったと報告している。また2020年7月に米国ダラスのシナゴーグが開催したユダヤ教のバーチャル祈祷会でも反ユダヤ主義者がZoomで入ってきて「全てのユダヤ人を殺す!イスラエルを爆発する」といった反ユダヤ主義に関わる暴言を吐いていた。

今回のイタリアのイスラエル大使のように、Zoomでのオンラインイベントなので管理者もすぐにそのような人をZoomから退出させることもできる。だが、URLを知っていれば、世界中のどこからでも誰でも簡単にオンラインイベントに参加できる。リアルなイベントのように入り口でチェックもされないし、ナチスのカギ十字やヒトラーの肖像を出して匿名で顔を隠すこともできる。そして暴言を吐いて立ち去ることもできる。

欧米ではいまだに反ユダヤ主義が根強く、ホロコーストから70年以上が経過した現在でもユダヤ人を嫌いという人が多い。欧米の大学やイスラエルのヤド・バシェムでは「ホロコースト教育」や「ホロコースト・スタディーズ」の講義を提供しており、その中に「反ユダヤ主義(Antisemitism)」に関するクラスもある。筆者も受講したことがあるが、古代から中世、近代から現代までの世界中での反ユダヤ主義の長い歴史があるため授業時間も文献も多く非常に難しかった。そして現在でもユダヤ人墓地やユダヤ人の銅像、学校などリアルな場所にナチスドイツのカギ十字を書くという犯罪が今でも多い。

Zoomに慣れているホロコースト生存者

新型コロナウィルス感染拡大によって欧米ではロックダウンが進み自宅から外に出られなくなると、ホロコースト生存者らはZoomを通じて学校の授業で学生や、一般の方々に向けた講演会で話をするようになった。そのため、ホロコースト生存者の多くは高齢でありながらも、家族らに教えてもらいながらZoomの操作には非常に明るい人も多い。

彼らは新型コロナウィルス感染拡大前には学校や博物館に行くのは高齢で肉体的にも大変になっていたが、自宅からZoomで当時の体験談を語れるということで、元気に家で座りながら当時の経験を世界中に伝えている。そしてこのようなオンラインイベントにも自宅から参加している。かつてナチスドイツに差別・迫害され、故郷を追われて強制収容所に移送され、家族や友人を殺害された高齢のホロコースト生存者らの胸をえぐるような事件である。

Zoomの画面に現れたナチスのカギ十字(イタリアのイスラエル大使館提供)
Zoomの画面に現れたナチスのカギ十字(イタリアのイスラエル大使館提供)

▼ドイツの難民キャンプに落書きされたカギ十字

写真:ロイター/アフロ

▼フランスのユダヤ人墓地に落書きされたカギ十字

写真:ロイター/アフロ

▼ウクライナのユダヤ人作家ショーレム・アレイヘムの銅像に落書きされたカギ十字

写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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