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英国、冷戦後最大の防衛費投資へ サイバー、AI、ドローン、宇宙に注力:中国とロシアを意識し経済発展も

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 イギリス政府は2020年11月に今後4年間で防衛費の投資を当初計画よりも165億ポンド(約2.3兆円)上乗せすることを明らかにした。この防衛費の投資は冷戦後最大でここ30年で最大の投資となる。ジョンソン首相は「撤退の時代は終わった」と語り、積極的な防衛投資を行っていく姿勢を見せている。

 今回のイギリスの防衛費への投資増額の注力点はサイバーセキュリティ、AIなどの最新技術の活用、宇宙分野である。ジョンソン首相は今回の投資について「軍事革命につながるような最新技術の分野に投資を集中していく。例えばセンサーとAIを搭載した兵器などを開発して、敵軍から防衛できるようなネットワークの構築が迫られている」と述べていた。また「センサーや衛星を活用して遠隔地の敵陣にいる兵士らに警告を発したり、AI技術を軍事分野にも積極的に活用していく。また徘徊型ドローンによる積極的な攻撃とサイバーセキュリティを強化していく」とも語っていた。サイバー軍や宇宙司令部、AI技術を軍事に活用する新機関の創設も発表している。

 あらゆるものがネットに接続されている現在においてはサイバースペースの防衛であるサイバーセキュリティは国家の安全保障と同じように重要であり、イギリスのサイバーセキュリティ強化も明らかに中国とロシアの脅威を念頭に置いている。また宇宙司令部も中国とロシアの人工衛星や宇宙の軍事化への対抗を意識している。

 またジョンソン首相は「新しい技術を活用して、我々の古いロジスティックを改善していく。新しい装備や兵器を導入して敵軍を圧倒していくようにする。新たな戦争のための技術を使いこなすための投資("designed to master the new technologies of warfare”)だ。国家は新たな戦争のドクトリン(基本原則)を支配するために他国と競合していかないといけない。そのためにも今回の投資によってイギリス軍を強化して、イギリスという国家を強国にして敵から防衛することは重要である」と語った。

 空軍ではAI技術の活用とドローンとの共存が求められている。特に「神風ドローン(Kamikaze drone)」と呼ばれる標的を破壊、爆破させる徘徊型ドローンの導入や、AI技術を搭載した自律型殺傷兵器の開発などが行われるのだろう。「神風ドローン(Kamikaze drone)」はアゼルバイジャンとアルメニアの紛争で実戦で活用された。「キラーロボット」とも言われている人間の判断を介さないで攻撃を行う自律型殺傷兵器は、まだどこの国も実戦では活用されていない。未知の兵器は最初に開発して国際社会で覇権を握りたいところだ。

 さらにジョンソン首相は「今回の軍事費投資によって、宇宙空間での技術開発や自律型兵器の開発など新たな幅広い技術開発と製造がおこなわれて、それらが経済発展にも大いに寄与するだろう」と語っていた。また今回の防衛費投資の増額とともに、年間で1万人ずつ4年間で4万人の雇用を創出することも明らかにした。イギリスはEU最大で、NATOではアメリカに次いで2位の防衛費への投資国となる。新たな軍事技術の開発と兵器の製造は雇用創出と経済発展にも大きく寄与する。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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