TikTokもヘイト動画削除を強化:ホロコーストの犠牲者になりたがる若者の動画はヘイトなのか

アウシュビッツ絶滅収容所(写真:ロイター/アフロ)

 世界中の若者に人気のショート動画アプリTikTokがヘイトスピーチや民族憎悪に対するコンテンツ削除の強化を行っていくことを明らかにした。現在でもナチスを礼賛したり白人至上主義や陰謀論などに関するコンテンツは削除されている。また今後はホロコースト否定論などの反ユダヤ主義やユダヤ人が世界を支配しているといったユダヤ陰謀論などの偽情報、LGBTを傷つけるコメントの削除も強化していく。TikTokは2020年になってアメリカで38万件以上のヘイトスピーチに関する投稿を削除している。

 TikTokは「悪意あるイデオロギーを根源から削除していきたい。そのために悪意ある表現や行動、さらには婉曲的な表現やシンボルの拡散を抑止していきたい」とコメントを寄せていた。TikTokが指摘しているように、露骨なヘイトスピーチや特定の民族を対象にした憎悪主義的な表現は、どこのSNSでも発覚するとすぐに削除されてしまう。そのため、そのようなヘイトや民族憎悪に関する投稿や表現をアップする時には婉曲的な表現や、仲間内でしかわからないような表現でアップされることがほとんどだ。日本人には馴染みがないが、欧米やアラブ諸国では反ユダヤ主義が今でも根強く「第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害したホロコーストはなかった」といったホロコースト否定論は多くの反ユダヤ主義者に支持されており、そのようなホロコースト否定に関する投稿はFacebookやTwitterでも禁止されたが、実際には婉曲的な表現や仲間内でしかわからない表現などで投稿されることが多く、発覚して削除することは容易ではない。そしてTikTokは今後、婉曲的な表現によるヘイトの拡散を防止しようとしている。

TikTokでホロコーストの犠牲者になる若者たちの動画にアウシュビッツ博物館も懸念を表明

 またTikTokでは今年に入ってから欧米の若者たちが「ホロコーストで殺害されました」とホロコーストの犠牲者になりきるようなショート動画をアップすることがトレンドになっており「victim trend(犠牲者のトレンド)」と呼ばれている。TikTokのショート動画の中でも「アウシュビッツで殺害されました」「ナチスがやってきて連れていかれました」「ガス室で殺害されました」「ホロコーストで死亡しました」というテキストが書かれている。投稿者のほとんどが10代から20代の女性がほとんどだ。アメリカのWIREDは「フロリダに住む15歳の少女は親戚がホロコーストで殺害されたことから、ホロコーストのことを知ってほしいという理由で投稿している」と報じている。

 投稿しているのはユダヤ人やユダヤ人以外の若者もいるようだ。投稿の内容は決して明るいものではないが、ショート動画の中でホロコーストの歴史を感じる内容になっている。ユダヤ人だけでなく現代の若者にとってホロコーストのような大量虐殺はリアリティがなく、学校の授業で学習する歴史的な遠い昔の出来事になっており、このような動画を投稿することを躊躇しなくなっているのだろう。そして親戚をホロコーストで失ったことがある少女が「ホロコーストのことを知ってもらおう」という想いでTikTokに投稿することもデジタル化された記憶の伝承形態の1つだ。ヘイトや反ユダヤ主義の意図はないようだ。そしてショート動画のどれもが婉曲的でなくストレートな表現だ。

 これらのショート動画は民族憎悪やヘイトスピーチのような内容ではないのでTikTokの投稿ガイドラインに違反はしていないとのことで削除していなかった。実際に多くのユダヤ人の若者も、自民族が犠牲となったホロコーストの犠牲者になりきるTikTok動画を投稿しており、ヘイトや反ユダヤ主義の意図はない若者がほとんどだ。ホロコーストで歴史的に起こった事実が淡々と書かれており、過激なヘイトスピーチでもないので炎上もしていなかった。

 だがこのような若者らのTikTokでのホロコーストの犠牲者になりたがるトレンドについて、イスラエルのメディアJewish Telegraphic Agencyは「ホロコーストの犠牲者や生存者にとってはトラウマの内容であり、決してクールではない、さらにホロコーストの犠牲者の家族が見たらどのように思うのかを考えてほしい内容もあるし、反ユダヤ主義を増長する恐れもあるので投稿を削除すべきだ。10代の若者たちはホロコーストの歴史と、現在のユダヤ人の置かれている立場をもっと勉強してほしい。このような動画がトレンドになるのは止めるべきだ」と呼びかけていた。

 さらに、アウシュビッツ博物館も懸念を表明していた。アウシュビッツ絶滅収容所は、約110万人のユダヤ人らがガス室や飢え、病気で殺害されたホロコーストを象徴するような場所だ。現在でも世界中から多くの観光客が訪れている。また欧州やイスラエルの学生の多くは社会科見学でアウシュビッツ博物館を訪問してホロコースト学習をしている。アウシュビッツ博物館はTikTokでのトレンドについて「TikTokでの犠牲者になりたがるトレンドは、心が痛みますし、非常に攻撃的な内容です。いくつかの動画は危険なものであり、歴史を矮小化したものになっていると思います。アウシュビッツで起きた悲劇は痛ましいものです。ホロコーストの歴史はもっと正確に、かつ敬意をもって表現されることが重要です」と訴えていた。

 また「しかし、様々な動機でこのようにTikTokに動画をアップする若者たちがいます。中にはホロコーストの犠牲者を冒涜するような表現もあります。一方で(家族をホロコーストで失った人たちはそのような)個人的な思い出を表現するのにTikTokが必要な手段だと考えている人もいるようです。彼らにとってはTikTokのような馴染みある動画プラットフォームで、強い感情で表現しようとしています。このような動画がトレンドになることをもっと議論すべきです。若者たちは若者らしい感情を強く揺り動かすような表現でSNSで発信します。SNSは我々の生活の中で、コミュニケーションの一部になっています。SNSでの投稿においても常にホロコーストの犠牲者に対して敬意を払い、正しい表現と言葉で歴史的な事実を正確に語っていかないといけません。先生方は是非若い人たちとホロコースト犠牲者に対して敬意を表しながら、どのように表現するかを議論すべきです。これは教育的なチャレンジです」と伝えていた。

 「ホロコーストの犠牲者になりたがる」動画を悪意やヘイトの意識が全く無く投稿している若者と、そのような動画が反ユダヤ主義を煽動しかねない攻撃的な内容で、ホロコースト犠牲者に失礼だと嫌悪する大人たちで捉え方が全く異なっている。このような「victim trend(犠牲者のトレンド)」と呼ばれているホロコーストの犠牲者になりたがる若者たちの動画は削除の対象なのだろうか。

▼ホロコーストの犠牲者になりたがるTikTokでの動画