Yahoo!ニュース

ドイツ、新型コロナ感染拡大に対して世界中のホロコースト生存者に約700億円を支援

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 ドイツ政府は新型コロナウィルス感染拡大に伴って、世界中のホロコーストの生存者に5億6000万ユーロ(約700億円)の支援金を提供することを明らかにした。第二次大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。現在、全世界に約24万人のホロコースト生存者がいる。アメリカに拠点を置くユダヤ団体のClaims Conferenceのプレジデントのギデオン・テイラー氏は「ホロコースト生存者の高齢化が進み、世界規模での新型コロナウィルス感染拡大に伴って緊急の対策が必要になっており、新たな挑戦にホロコースト生存者は直面しています」とコメントを寄せていた。

 戦後75年が経過し、現在のホロコースト生存者のほとんどが高齢者で年々減少している。そして欧米やイスラエルで生活している高齢なホロコースト生存者らの多くが新型コロナウィルスに罹患して死亡している。イスラエルでの新型コロナウィルスでの最初の死亡者もホロコースト生存者だった。また高齢者であるためにホロコースト生存者は決して裕福な暮らしをしているわけではない。ホロコースト生存者は現在約24万人だが、近い将来ゼロになるのは確実だ。そして生存者の記憶が鮮明で体力があるうちに、彼らのホロコースト時代の経験を証言として欧米やイスラエルのユダヤ団体、大学などが動画やホログラムなどで記録し、後世に伝えようとしている。記憶のデジタル化を積極的に推進しており、そのような動画やホログラムは博物館での展示、学校での教育や歴史研究などに活用されている。そしてホロコースト生存者の記憶をデジタル化していくのは、彼らが元気で記憶が鮮明なこれから10年が勝負で、一人でも多くの証言を集めてデジタル化しようとしている。

 そしてホロコースト生存者は現在約24万人だが、そのうちのほとんどは赤ちゃんだったり幼児期だったために鮮明なホロコーストの記憶はない。両親や親せきはホロコーストの犠牲になってしまっても、幼児だった子供たちはキリスト教徒が匿ってくれたりしていたため、実際に本人が差別や迫害を経験していなかった人も多く、当時のホロコーストの様子や経験、記憶を伝えられる人の数はさらに限られている。ホロコースト生存者で当時の記憶や経験を鮮明に覚えている方は90歳くらいの高齢者であり、新型コロナウィルスに罹患して死亡してしまった人も多い。新型コロナウィルスによって多くのホロコースト生存者が死亡してしまうと、彼らの歴史的な貴重な経験や記憶も消滅してしまう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事