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イスラエルとウクライナ:新型コロナ情報の防衛に向けてサイバーセキュリティ連携を再強化

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナの国家安全保障・国防会議(National Security and Defense Council)の官房長官のオレクシィ・ダニロフ氏は、ウクライナのイスラエル大使のジョエル・リオン氏と2020年7月に面会して、両国間でのサイバーセキュリティの連携を強化していくことを明らかにした。

 ウクライナとイスラエルは以前からサイバーセキュリティで情報共有や人材育成などで連携を行っている。ウクライナとイスラエルでは圧倒的にイスラエルの方がサイバーセキュリティの技術力は高い。プレス向けの文書では2国間による連携の強化だが、実際にはイスラエルがウクライナを支援している。ウクライナの国家安全保障・国防会議では「今回の両国での会談で、新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、世界規模、そして地域的にサイバー攻撃が行われており、新型コロナウィルス関連に関わる多くの情報が窃取されていることから、サイバーセキュリティの連携を改めて強化していきたい」とコメントしており、イスラエル側は「引き続き、ウクライナを支援していきたい。これからも両国間でのサイバーセキュリティでの連携は続いていく」と自信を見せた。

 新型コロナウィルス感染拡大に伴って、それらの研究情報やワクチン開発にかかわる情報窃取が世界規模で相次いでおり、イスラエルはインドともサイバーセキュリティの連携再強化を明らかにしていた。またアメリカ、イギリス、カナダの3か国で2020年7月に新型コロナウィルスの研究とワクチン開発に関する情報を標的にしたサイバー攻撃に対するセキュリティアドバイザリーを公開した。

 サイバーセキュリティに関する国家間の連携は他の安全保障分野と同様に、信頼関係のある友好国とでないと協力することは基本的には難しい。だがイスラエルのユダヤ人のウクライナに対する感情は複雑だ。19世紀末にはロシア(現在のウクライナ含む)に約520万人のユダヤ人が住んでいたが、そのうちウクライナには200万人いた。ウクライナでは1918年~1919年の1年間に1200件のポグロム(ユダヤ人襲撃)が行われ、その3分の1以上がウクライナ国民軍によるものだった。ロシアでも特にウクライナでは大規模なポグロムが起こり、ユダヤ人は深刻な打撃を受け、19世紀末には多くのユダヤ人が新大陸に移住し、現在のユダヤ系アメリカ人の中核となっている。またナチスドイツが第二次世界大戦時に約600万人以上のユダヤ人を殺害したホロコーストの時にも、ウクライナに住んでいるユダヤ人は大量に虐殺されたが、その時には多くの地元のウクライナ人がユダヤ人殺害に加担していた。1941年9月には34,000人のユダヤ人がキエフ郊外の谷間バービ・ヤールに集められ、射殺されたうえ、穴に埋められた。同地は今でもユダヤ人受難の地として知られており、ウクライナでは85万~90万人のユダヤ人が殺害されたと推定されている。2020年7月にもウクライナでビルを壊してみると、1942年5月にナチスドイツとウクライナ軍が殺害したユダヤ人286人の死体が地中から出て来たばかりで、いまだにユダヤ人にとってはウクライナでのホロコーストは終焉を迎えていない。

 だが、イスラエルにとってウクライナとのサイバーセキュリティの連携は重要だ。ウクライナは頻繁にロシアからのサイバー攻撃の標的に晒されている。特に重要インフラもサイバー攻撃の標的にされて、社会を混乱させられたり、多くのデータを窃取されている。イスラエルとしてもウクライナを踏み台にしてロシアからサイバー攻撃を仕掛けられて混乱に陥ってしまう前に、ウクライナを支援してでも両国でのサイバーセキュリティを強化しておきたいところだ。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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