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ロシア軍事高等研究財団、音声で操作できる無人ロボット戦車を開発中:進む兵器の無人化

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアの軍事高等研究財団では、人間の声を理解して作動するロボット型戦車を開発していることが明らかになった。ロボット戦車は無人型で人間の声による命令で、行進、停止、発砲、撤退ができる。軍事高等研究財団のオレグ・マルチャノフ氏は「当初はタブレットで操作できるロボット戦車を開発しようとしていたが、現在は音声テクノロジーを活用して、ロボット戦車の操作ができるように開発している」とタス通信に語っていた。

 ロシア軍としてはロボット戦車の導入によって、戦場に送る人間の軍人を削減していこうとしている。戦車ロボットは「Marker」と呼ばれるオペレーションセンターで人間によってコントロールされる。センサーが搭載されており無人だが、戦車ロボット自身が判断して攻撃を仕掛けることはない。マルチャノフ氏は「我々の目的は人間の軍人はコントロールセンターに集約して、500キロ先の遠隔地からでも操作を行うことだ」と述べていた。

 人間の音声によるロボット戦車のメリットの1つとしては、ロシア語のみに反応するように設定したり、特定の隠語や特定の人物の音声にのみ反応するようにしておけば、敵にハッキングされて彼らにロボット戦車を勝手に操作されることを防ぐことができる。

進む兵器の無人化で変わる戦争

 今までも無人のドローンは遠隔地からの操作によって、敵の偵察や攻撃を行っていた。ロボット戦車やロボット兵器の登場によって、人間の兵士は戦場に行かなくてもよくなる。ロシアが開発しているロボット戦車は、遠隔地で人間の声によって操作されて発砲による攻撃を行う。だが現在ではAIを搭載したロボット兵器の開発も進められており、人間の判断を介さないでAI自身の判断で攻撃を行うことができるようになる。いわゆる自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)の開発と登場が懸念されている。

 一方でロボット戦車など兵器の無人化が進むと戦場で自国の兵士の命が奪われることは以前に比べると少なくなり兵士の「人間の安全保障」は守られるようになる。兵士が戦場で新型コロナウィルスに感染する確率も低くなるだろう。戦場では無人兵器同士の戦いとなり、無人兵器によって街やインフラなどが破壊され、犠牲者は一般市民のみになってしまうかもしれない。兵器と戦場の無人化が進み兵士の「人間の安全保障」は守られるようになっても、一般市民の生活と「人間の安全保障」は守られない。無人兵器の普及は戦争の在り方を大きく変える。

▼ロシア高等研究財団が公開しているロボット兵器の動画(2019年2月)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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