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イスラエルのハイファ大学院、ホロコーストを次世代に伝えるために起業家マインドで研究へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 イスラエルのハイファ大学大学院のホロコースト研究科は、ヴァイス・リヴナット・イノベーションセンターハブ(Weiss-Livnat Innovation Hub for Holocaust Education and Commemoration)を開設した。第2次大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害したホロコーストは欧米やイスラエルの大学で研究されている。多くホロコースト研究は歴史学や博物館学、文化学、社会学の観点からの進められているが、今回ハイファ大学大学院では、アントレプレナーシップ(起業家)アプローチの観点からホロコースト研究を進めていき、次世代にホロコーストを伝えていくことを目的としている。

 ハイファ大学大学院のイェール・グラノト・ベイン教授は「ホロコースト研究は歴史学、博物館学の観点から行われていますが、我々としては新たな視点から、新たなテクノロジーを活用してイノベーションを起こす必要があると考えています。そのためにもアントレプレナーシップ(起業家)マインドが必要です。世界中から学生が集まってクリエィティブな環境で、学生たちは自分たちのビジョンを実現させようとしています」と語っている。

 ハイファ大学大学院の修了生でイスラエルの他に、オーストラリア、ドイツ、オランダ、イギリスなどの学生がホロコーストを新たな視点で研究している。ホロコーストというテーマで、市場調査、ビジネスプランの計画などを行って、プロジェクトに取り組んでいる。例えば、オーストラリではメルボルンでユダヤの食事を提供する「Cafe Australia」レストラン、ドイツではAR(拡張現実)技術を活用して、欧州でのユダヤ人の歴史を伝える「Voids」というサービスを開発、オランダではVR(仮想現実)技術を活用してオランダでのホロコースト時のユダヤ人の子供の歴史を伝える「Walk With Me」という学習サービスを開発、オランダでは他に砂絵を使ったユダヤ人の子供の歴史を伝える「Wie Niet Weg Is, Is Gezien」の開発、イギリスではポッドキャストを活用したホロコースト学習の提供をしようとしている。

 従来、ホロコーストの研究は歴史学、博物館学、国際政治学の観点から研究が進められてきた。戦後75年が経過してホロコースト生存者は非常に少なくなってきた。現在、ホロコーストの歴史と当時の様子を後世に伝えるために、ホロコースト生存者の声をデジタルで記憶したり、VRで当時の様子を伝えるなど様々な新たな取組が行われている。今回、ハイファ大学大学院では、ホロコーストを後世に伝えていくために、起業家マインドを持って、新たな技術などを活用していくことに本格的な取組を始めた。また従来の歴史学、博物館学、文学、国際政治学からのホロコースト研究ではなく、新たな学生層にもホロコーストに関心を持ってもらい、新たな技術を活用した様々な視点でホロコーストの歴史を後世に伝えてもらうことも期待できる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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