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Google、インドに初のAI研究所設立:社会課題解決のために

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 Googleは2019年9月にインドのベンガロールに人工知能(AI)の研究所を開設することを「Google for India」で明らかにした。Googleはインド市場には多くのアプリやサービス、鉄道での無料Wi-Fiサービスなどを投入しているが、同社がインドでAIの研究所を開設するのは初めて。人口12億人以上を抱えるインドではスマホも普及してきており、特に安価なAndroid OSのスマホが主流だ。そのようなインドでは様々な情報やデータを収集することが可能で、AI技術の強化には最適の場所だ。

 GoogleインドのJay Yagnik氏は「学校から政府、あらゆる産業においてインドでAIのエコシステムを構築していくことを期待している。インドでのAI研究は中長期的な展望に基づいて進めていき、多大な投資をしていく。私たちは既に多くの博士や科学者を採用している」と語っている。さらに「インドでのAI技術開発のエコシステムは、Googleに関わるあらゆるステークホルダーとの関係を強化していく」とコメント。

 インドでのGoogleのAI研究所は、2つの研究に注力する予定で、1つは機械学習などにAI技術を強化するためのコンピューターサイエンスの研究。もう1つが、ヘルスケア、農業問題、教育など社会課題を解決するためにAIを活用していく領域の研究。Googleでは2018年6月にインド政府と提携して、AI技術を活用して洪水の予測システムを開発している。

Googleの「AI利用に関する原則(ガイドライン)」

 GoogleはAI技術開発に注力しており、世界でも有数のAI技術力を保有している。GoogleのインドのAI研究所は社会課題解決に向けた研究に取り組むとのことだが、一方でAI技術の開発が軍事利用を懸念する声が高い。インドでも軍事分野でのAI活用と導入が推進されようとしている。AI技術の開発は民間のサービスや製品だけでなく軍事用にも転用される、いわゆるデュアルユースだ。

 Googleは2017年9月に米国防総省(DoD)とGoogleが契約した「Project Maven」で、GoogleのAI技術と画像認識技術をDoDに提供。それらの技術が軍事ドローンに利用される可能性があるということで社内外から批判を浴びた。さらに2018年4月にはGoogleの3000人以上の社員が、このDoDとの契約に反対する請願書にサインしてピチャイCEOに提出した。それを踏まえて、Googleでは2018年6月に、スンダー・ピチャイCEOがブログにて「AI at Google: our principles」という「AI利用に関する原則(ガイドライン)」を発表している。

「AI利用に関する原則」7つのガイドライン

「AI利用に関する原則(ガイドライン)」を公表。以下の7つを掲げた。

1.社会に貢献できる利用(Be socially beneficial)

2.不公平な偏見が生じる利用をしない(Avoid creating or reinforcing unfair bias)

3.安全な開発設計とテスト(Be built and tested for safety)

4.説明責任を果たす(Be accountable to people)

5.プライバシーの保護(Incorporate privacy design principles)

6.研究成果の標準化と知識の共有(Uphold high standards of scientific excellence)

7.有害な利用の制限(Be made available for uses that accord with these principles)

さらに、ピチャイCEOはGoogleとしてAIを利用しない4つの領域を明らかにした。その中には武器関連の技術利用にはAIを利用しないこと、国際法と人権の原則に反するAI技術の活用もしないことが含まれている。

1.有害な事象を発生させる可能性のある技術

2.人間に危害を与えることを目的とした武器、その他の関連技術

3.国際的なプライバシー規範に反する監視のための情報収集に利用する技術

4.国際法と人権の原則に反する技術

 ピチャイCEOは「Googleは、AIのリーダー企業として、AIの正しい利用方法について大きな責任を感じている。このAI利用原則は、ただの理論的な概念だけではなく、Googleの研究開発と製品開発の方針を示している。そして、意思決定に影響を与える具体的な基準である」とコメントしていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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