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Facebook「ホロコースト否定論」投稿への対応:ホロコースト博物館らがオープンレターで抗議

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは2018年7月に、ホロコースト否定に関するFacebook上での投稿を削除しないことを米国メディアRecordの取材で明らかにした。ザッカーバーグ氏自身がユダヤ人であることから、大きな波紋を呼んでいる。

「ホロコースト否定の全てを削除しない」

 ザッカーバーグ氏はインタビューの中で「ホロコーストを否定する人々もいる。そのことは極めて残念だ。だが、人々に正しく理解されていないこともあるので、そういう投稿を必ずしも全て削除することはない。人々が意図的に間違った理解をすることはないと思う。但し、私自身はホロコースト否定論を認めているわけでは決してない。特定の集団に対する暴力や憎悪を煽る、行き過ぎた投稿は削除していく」とコメントしていた。但し、反ユダヤ主義的な人種差別を煽るような発言は削除していく。ザッカーバーグ氏自身がユダヤ人であることから、大きな波紋を呼んでおり、英米のユダヤ団体は非難声明を出していた。

 第2次大戦時にナチスが欧州のユダヤ人やロマなど約600万人を殺害したホロコーストだが「ホロコーストは存在しなかった」という、いわゆるホロコースト否定論を主張する人々もいる。「ホロコーストはユダヤ人が多額の賠償金を貰い、イスラエル建国を正当化するためにでっちあげた物語で、そんなに多くのユダヤ人が殺されてはいない」といった主張だ。1980年代以降、多くの欧州諸国ではホロコースト否定を規定する法律を制定、施行してきた。その適用範囲は次第に拡大され「ホロコーストなどなかった」と発言しただけで罰せられることもある。

「ユダヤ人への偏見と差別がホロコーストにつながった」

 このザッカーバーグCEOの「ホロコースト否定を全て削除しない」という発言に対して、ホロコースト生存者や英国など世界中のホロコースト博物館など25の人物や団体がユダヤ人であるザッカーバーグCEOに対して2018年8月にオープンレターを発出して、抗議をしている。

 オープンレターの中では「Facebookはホロコースト否定やユダヤ人に関する間違った情報について、絶対に許すべきではない。過去の反ユダヤ主義が悲惨なホロコーストを招いたことを忘れるべきではない。ホロコースト否定と発言の自由は別の問題だ。ホロコースト否定に対して何もしないことは悪が栄えることになる。全てのジェノサイド・大量虐殺は、真実を歪めることから始まる。どのような社会でも反ユダヤ主義を許すべきではない。第2次大戦時、ユダヤ人への偏見と差別がホロコーストにつながった。それがユダヤ人だけでなく、政治的に違う考えを持つ人々、同性愛者、ロマ(ジプシー)へと拡大していった。社会の中で1つのグループや民族を嫌うことは、他者を受け入れないことにつながる」と述べている。

 そしてFacebookに対して、ホロコースト否定に関する投稿に対して、きちんと削除するように促している。また「我々には、ヘイトスピーチや人種差別の偏見に対して、ホロコーストの体験を伝えることができる資料や人々がいくつもある」とホロコーストに関する資料や教育プログラムも無料で提供していくことも提案している。

 このオープンレターに対して、Facebookのスポークスマンは「Facebookは反ユダヤ主義とヘイトスピーチは重要な問題と考えており、きちんと対応していく」とTimesの取材に対して答えているが、ホロコースト否定に関する投稿の削除については言及していない。

▼Facebookへのオープンレターを公開するホロコースト博物館のツイッター

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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