オランダ、アンネフランクもいたヴェステルボルク収容所をVRで再現へ
オランダにヴェステルボルク収容所というナチスドイツ時代にオランダのユダヤ人らをアウシュビッツ強制収容所など東方へ移送する前に収容していた通過収容所があった。ナチスは当時、ユダヤ人やロマ、政治犯など約600万人を殺害した。いわゆるホロコーストだ。
ナチスに占領されたオランダでは国中からユダヤ人が集められ、この収容所に運び込まれ、行く先を決められた。数日間しかいない者もいれば、数カ月とどまる者もいた。10万人以上のユダヤ人がヴェステルボルクからアウシュビッツなどに移送され、生き残って帰ってきたのは5000人しかいなかった。アンネフランク一家も捕えられ、1944年8月から9月までヴェステルボルクに収容されていた。現在は数キロ先に博物館がある。
大量の残っていた写真で克明にVRで再現
2017年12月からヴェステルボルク収容所の博物館スタッフがVR(仮想現実)で当時の収容所での様子を再現できるような取組を行っている。VRの画面を通してバラックや監視台など当時の様子を鮮明に体験できる。ポーランドにあった強制収容所と異なり、ヴェステルボルク収容所には多くの写真が残っており、それらの写真がVRでの当時の様子を細かいところまで克明に再現することに貢献している。VRはスペインのバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学 の認知科学のPaul Verschure教授によって開発された。同氏は2年前にドイツにあったベルゲン・ベルゼン強制収容所のVRも制作した。
歴史学者でヴェステルボルク収容所のガイドも務めているBas Kortholt氏は「VRによって、多くの人があたかも自らの体験のように収容所を視察することができる。VRを体験した人は、特に収容所の大きさに驚いている」とコメント。1942年には2万人ものオランダのユダヤ人が収容されており、収容所の中には病院やキャバレーまであった。
ヴェステルボルクには年間18万人が訪れる。Kortholt氏によると「ホロコーストというとアンネフランクとアウシュビッツのことは知っているが、ヴェステルボルクについてはほとんど知られていない。VRで当時の収容所の様子を再現すると、多くの人がする質問は『ガス室はどこにあるの?』だ。ヴェステルボルクは一時的に集積させられた場所だったからガス室はなかった」と語っている。
ホロコーストの歴史研究に多く利用されているVR
ホロコーストの生存者の高齢が進み、証言や記憶のデジタル化が世界規模で進んでいる。その中でもVR技術の発達はホロコーストの教育や紹介、さらにはナチス戦犯追及にも活用されている。アウシュビッツを追体験できるVRの開発も進められている。VRで当時の収容所経験者の体験を表現されたショート映画も制作された。
VRでの表現は、博物館に展示している写真を見たり、本を読むだけよりは、リアリティは感じるだろう。だが、VRは文字のごとく「Virtual Reality、仮想現実」であり、仮想の世界で、現実(リアル)ではない。つまり当時の強制収容所の臭い、熱さや寒さ、不衛生な環境、恐怖や悲しみといった人々の感情、病気の苦しみ、愛する人との別れ、不安、飢え、強制労働、暴力、虐待、殺害といった本当の地獄を100%再現できるわけではない。VRで収容所の描写を通して、例えば「アンネフランクがこの収容所にいた時、どのような不安と恐怖を感じていたのだろうか」といった当時の様子を思い描く想像力が現代の我々には求められる。