Facebook、ドイツで2か所目「ヘイトスピーチ対策のオフィス」開設:増加する移民と日常の不安
ドイツでは2017年6月に、ソーシャルメディア(SNS)がヘイトスピーチの投稿を削除しない場合には、最大5000万ユーロ(約66億円)の罰金を科す法案が可決された。明らかにヘイトスピーチとわかる内容の投稿は24時間以内に、また査定が必要な投稿は1週間以内に削除しなければならない。
ベルリンとエッセンで1200人がヘイトスピーチ削除
Facebookはベルリンでヘイトスピーチ対策のオフィスを設置しており、約700人がヘイトスピーチの削除に努めている。2017年11月に同社はドイツで2カ所目となるヘイトスピーチ対策のオフィスをエッセンに設置した。エッセンでは500人がヘイトスピーチの削除を行う。ドイツで合計1200人がヘイトスピーチ削除を行うことになる。
全世界でFacebookの利用者は20億人以上を超え、情報発信のプラットフォームになっている。Facebookによると、世界規模では4500人~7500人のスタッフがヘイトスピーチの投稿削除を行っており、毎月約29万のヘイトスピーチ関連が投稿され、削除しているそうだ。また同社では人工知能(AI)を活用したヘイトスピーチなど過激な投稿の検出と削除も進めている。
ケルン大晦日集団性暴行事件から2年
ドイツでは、ちょうど2年前の2015年12月31日、ケルンで若い男性集団が女性たちを取り囲んで金品強奪や性的暴行事件が650件以上も発生した。被害に遭ったと警察に届け出た女性は600人以上に達した。加害者には難民申請者が多いことから、ケルンの街は新年を祝うためのお祭りが、ドイツ史に名を残すような大惨事になってしまった。この事件はドイツ人に移民に対する態度や考え方に大きな影響を与えた。
この事件から2年経つが、ドイツではシリアや北アフリカなどの移民が増加そており、各地で反移民のデモも相次いだ。ドイツ人の移民に対する怒りや不満、そして日常生活での不安は減少していない。ドイツ人の怒りや不平不満の捌け口としてソーシャルメディアが活用されており、ドイツでのヘイトスピーチ関連の投稿は2016年には1年で112%増加した。
ドイツで増加する日常の不安と不満、もはやマイノリティでない移民
第二次大戦中にナチスによるユダヤ人やロマの迫害から、ドイツでは難民・移民に対して寛大だ。また受け入れる経済的余力も他のヨーロッパ諸国よりはあるが、このような難民・移民の存在に不安や不満を感じるドイツ人が多い。特にケルン大晦日集団性暴行事件の後には、移民への嫌悪感を示す人々は増えている。たとえ過去にユダヤ人を迫害したという負の遺産を背負っていたとしても、現在の自分たちの生活を脅かされることに不安と不満を感じる人が増加している。
またドイツ人だけでなく、以前にドイツにやってきた中東やアフリカからの移民らは「自分たちの仕事を新たに来た移民や難民に奪われるのではないか」という不安を持っている人も多い。新たに来た移民や難民は生活基盤の安定のために仕事が欲しいから「安い賃金でもいいから働きたい」と思っているので、以前からドイツにいた移民らにとっても脅威である。
ナチス時代のドイツは人口約6700万人で、そのうちユダヤ人は人口の1%以下で全ドイツでも約50万人しかいなかった。明らかにマイノリティ(少数派)だった。だが現在のドイツでの移民はもはやマイノリティの存在ではない。フランクフルトやベルリンなどの大都市ではあたかも「中東にいるのではないか」と錯覚するくらいだ。
どこまでがヘイトスピーチか
ヘイトスピーチの意識がなくとも、移民増加に対する日常の不安、不満をSNSに書き込み、それに同調する人も多く、それらの書き込みは、あっという間に拡散されていく。他の民族・人種の異なる文化や習慣に対する些細な気持ちも、それが助長していくと差別や隔離に繋がっていくこともある。
明らかに人種差別を煽るようなヘイトスピーチの投稿なら、投稿者の意図もわかりやすいので、すぐに削除も可能だ。しかし「日常の不平不満」や「異文化への戸惑い」は表現の自由の領域かもしれない。誰もがスマホから簡単に自分の思いをSNSに投稿できるようになったが、どこからが「ヘイトスピーチ」で、どこまでが「日常の不平不満」や「異文化への戸惑い」といった表現の自由なのか。その線引きはますます難しくなってきている。