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米国イリノイの博物館、ホロコースト生存者13人と3Dで対話「50年後も100年後でも対話できる」

佐藤仁学術研究員・著述家
Sam Harris氏(Illinois Holocaust Museum)

 第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちは、現在でも証言者として、博物館などで当時の様子を学生らに語っている。だが彼らも高齢化が進んでいき、生存者の数も年々減少している。

 技術の発達によって、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現できるようになった。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。

撮影時のSam Harris氏(USC Shoah Foundation)
撮影時のSam Harris氏(USC Shoah Foundation)

3D化されたシカゴ周辺の13人の生存者と対話

 米国のイリノイホロコースト博物館では、13人のシカゴ周辺に在住しているホロコースト生存者のインタビューと撮影を行い3D化して、2017年10月から展示している。博物館を訪問した人が画面に映る3Dの生存者らに、質問を話しかけると音声を認識して、回答する。あたかもテレビ電話で会話をしているような雰囲気だ。イリノイホロコースト博物館での取組は以前にも紹介したが、今回は生存者のSam Harris氏について米国NPRが伝えていたので紹介したい。

 Sam Harris氏はナチスがポーランドに侵略した時は4歳で、その後デンブリンとチェンストホヴァにあった強制収容所に収容されていたそうだ。両親は虐殺され、戦後は孤児となり12歳の時にアメリカに渡った。当時、多くの子供が労働力にならないという理由から、収容所到着後やその前に殺害されてしまうことが多かったが、Sam Harris氏は幸運にも生き延びることができた。

「50年後も100年後でも3Dで対話できる」

 ハリウッドのスタジオで3D撮影とホログラム制作を行って、生存者らは1日に5~6時間で合計5日間で2,000以上の質問に回答。博物館を訪問してきた学生らが例えば「ホロコースト前の生活はどうだったのか?」「収容所に到着した時の印象は?」「家族では誰が生き延びたの?」といった質問に対して、音声認識された3DのSam Harris氏が回答している。もちろん、他の12人の生存者も同じように、質問に対してそれぞれの経験に基づいた回答をする。

 Sam Harris氏は「私は自分が見てきたことの詳細を話している。それは酷い思い出だ。でもこのやり取りには意味がある。今から50年後も100年経ってからでも、人々が私の顔を見て質問することができる。そしてそれに対して私は回答できる」とコメント。

 イリノイホロコースト博物館のSusan Abrams氏は「従来のようにホロコースト生存者のインタビューだけを撮影した動画を見せるだけでなく、音声認識の3Dホログラムでインタラクティブに対話して、質疑応答ができる。これは今までのようなただ動画を見るだけの経験とは全く異なる」とコメントしている。

 また博物館の副館長のShoshanna Buchholz-Miller氏は「聴衆に訴えかけるもので、生存者の証言に代わるものはない。技術の発達で、このような機会に恵まれたことは嬉しいことだが、このような機会はもう2度と来ないで欲しい」とコメントしている。

 生存者の老齢化が進み、肉体的にも対応できる人も少なくなってきている。こればかりは仕方ないことだ。3Dで保存できる技術が発達した現在、ホロコーストの生存者らの証言をデジタル化して残していく取組が全世界で進んでいる。このようなホロコースト生存者の3Dでの対話システムは、米国だけでなく欧米のホロコースト博物館で進められている。今が最後のチャンスだ。

▼ハリウッドのスタジオで制作された3D撮影風景の動画。Sam Harris氏はホログラムになった自分の姿を見て「まるで月世界にいる自分を見ているようだ。これが本当に私かい?」と話していた。

▼Sam Harris氏がホロコーストについて回想して語っている動画。

イリノイホロコースト博物館

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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