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米国イリノイの博物館、13人のホロコースト生存者と3Dで対話

佐藤仁学術研究員・著述家
(Illinois Holocaust Museum)

 第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコースト。そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちは、現在でも証言者として、博物館などで当時の様子を学生らに語っている。彼らも高齢化が進んでいき、生存者の数も年々減少している。

 生存者らは老齢化が進み、肉体的にも対応できる人も少なくなってきている。こればかりは仕方ないことだ。そこで現在、ホロコーストの生存者らの証言をデジタル化して残していく取組が全世界で進んでいる。

3D化されたシカゴ周辺の13人の生存者と対話

 ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの開発が進んでいる。このようなホロコースト生存者の3Dでの対話システムは、米国だけでなく欧米のホロコースト博物館で進められている。

 米国のイリノイホロコースト博物館では、ホロコースト生存者で86歳になるAaron Elster氏の他、合計13人のシカゴ周辺に在住しているホロコースト生存者のインタビューと撮影を行い3D化している。5日間にわたって朝から晩まで撮影とインタビューを行っていたそうだ。

 イリノイホロコースト博物館の中の「Take a Stand Center」で2017年10月29日から展示していく。同博物館ではホロコースト生存者らとの3Dでの対話を通じて、人種差別や偏見をなくす取組を行っていく。

2,000以上の質問に回答

 博物館を訪問してきた学生らが「どうやってナチスの魔の手から生き延びることができたの?」といった2,000以上の質問に対して、音声認識された3DのAaron Elster氏らが回答する。「ヒトラーには会ったことある?」といった質問にも回答できる。

 チェコ出身でアウシュビッツ絶滅収容所から生還したFritzie Fritzshall氏の3Dは、学生からの「ホロコーストが行われている間、どうやって生き延びてきたの?」という質問に対して「希望を失ったら、全てを失ってしまうと思っていた。だから絶滅収容所でも常に希望を持って生きていた。母親が死んでしまったことは確信していた。でも、兄弟だけは絶対に生きていると信じていた。収容所内で石運びの労働をさせられていた時に一度だけ見かけたから。必ず生き延びることができると希望を持っていた」と回答する。

 ホロコースト生存者で3D化されたAaron Elster氏は「若い人に当時、何があったのかを知ってもらいたい。それを伝えることは、我々生存者の役割。若者らが差別や偏見を目撃した時に、それらに立ち向かって行ってほしい。それが未来への希望につながる。ホロコースト生存者の体験は語り継がれていくことが重要」と語っている。

 イリノイホロコースト博物館のSusan Abrams氏は「従来のようにホロコースト生存者のインタビューだけを撮影した動画を見せるだけでなく、音声認識の3Dホログラムでインタラクティブに対話して、質疑応答ができる。これは今までのようなただ動画を見るだけの経験とは全く異なる」とコメント。

▼イリノイホロコースト博物館が制作したAaron Elster氏が当時の思い出を語る動画。

イリノイホロコースト博物館

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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