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南カリフォルニア大学、子供向け教育用ホロコーストのアニメ「Lala」をVRで制作

佐藤仁学術研究員・著述家

 ナチスドイツに占領されたヨーロッパでユダヤ人が大量虐殺されたホロコースト。ユダヤ人やロマ、政治犯など600万人以上が殺害された。

子供向け教育のためにVRアニメで

 南カリフォルニア大学のショア財団研究所(The USC Shoah Foundation Institute)は2017年9月からホロコーストの犠牲者の話を仮想現実(VR)のアニメ「Lala」で公開している。Discovery CommunicationsとDiscovery Educationが制作に協力。動画は教育用の目的としているため、世界中の子供が見ても理解できるようにVRアニメで制作した。VRなので360度で視聴が可能。

 舞台はナチスに占領されたポーランド。ユダヤ人らは強制的にゲットーに押し込められ、食事もほとんどなく、強制労働に駆り出される悲惨な生活を強いられていた。ゲットーは強制収容所やガス室へ行くまでを過ごす場所だった。主人公はポーランドのウッジにあるゲットーに強制的に押しこめられるまで犬(Lala)を飼っていた。だが、ゲットーにペットの犬を持ち込むことは禁止されていた。その愛犬Lalaがゲットーまで飼い主に会いに来る。だがナチスによる迫害で、いつまでもゲットーでの生活も続かないという実話を元にしたアニメだ。「Lala」はポーランド語で人形の意味。

 ナレーションはホロコーストの生存者で88歳のRoman Kent氏が担当している。同氏は自分の経験を元にした本「My Dog Lala」の作者で、その本がこのアニメの元になっている。同氏は「愛は憎しみよりも、はるかに強い」と語っている。実際にホロコーストで迫害されたRoman Kent氏だからこそ、その言葉にも重みがある。

▼南カリフォルニア大学のショア財団研究所が制作したVRアニメ「Lala」

不足している子供向けホロコースト教育コンテンツ

 短いVRアニメだが、子供にとっても大人にとっても考えさせられるストーリーだ。ショア財団研究所のStephen Smith氏は「このアニメは何歳の人が見ても、心を打たれるものがあります。多くの教育者がホロコースト教育をするにあたって『年齢に応じて子供たちにどのような教材を使えば良いのか』という課題に直面するが、このアニメは子供たちの教育用に開発しているので、そのような教育者の問題を解決する一助にもなる」とコメント。

 南カリフォルニア大学のショア財団研究所は1994年に映画監督スティーブン・スピルバーグによって設立。スピルバーグはホロコースト時代を舞台にした映画「シンドラーのリスト」の監督としても有名。同研究所では20年以上にわたって、ホロコーストに関するあらゆるデータや証言を集めている。またホロコーストだけでなく、アルメニア、ルワンダやグアテマラの大虐殺など55,000以上の証言を集めている。同財団では既に多くのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の生存者からの証言を録画した動画をYouTubeにもアップされている。これらの動画などは全米だけでなく世界中でのジェノサイド教育に活用されている。だが、ホロコーストの経験やストーリーの動画の多くは生々しい映像や証言など子供の教育に適した動画はあまりなかった。

 子供向けのホロコースト教育に活用されるコンテンツは、日本でも海外でもほぼアンネ・フランクの「アンネの日記」だ。だが600万人以上が犠牲になったホロコーストには、それぞれの経験と物語がある。ホロコースト生存者が存命のうちに多くの物語を収集し、デジタルで教材にして、後世に残していこうという取組が積極的に進められている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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