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無人兵器システムの機会を活かす(Q&A)

佐藤丙午拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長
著者撮影

 自律型致死兵器システム(LAWS)の開発では、民間企業の技術開発が重要な役割を果たす。しかしそこには、多くの機会とリスクが存在する。ここでは、その代表的な疑問に答えてみるものとする。

Q:無人兵器システムの現状?

A:国際社会では無人兵器システムの導入が進んでいる。2020年のナゴルノ・カラバフ紛争では、トルコから輸入したドローンが活用された。2021年には、ハマスのロケット攻撃をイスラエルがアイアン・ドーム(都市防空システム)で防ぎ、無人システムの有用性を示した。中国やロシアなどもAIを利用した兵器システムの開発や実験を進めている。さらに、タイが垂直離着陸のドローンの実験を実施するなど、国際的に無人システムの利用が急速に進んでいる。

 特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)の政府専門家会議(GGE)では、人道法の観点から、この兵器システムの規制措置に関する議論が進んでいる。2019年には11の指導原則が合意され、AI利用の場合を含め、兵器システムに対する人間の関与の必要性や、人間の責任などが、国際人道法を担保する手段として合意されている。2021年12月には、政府専門家会議での議論の延長が合意された。

Q:日本はどのように無人兵器システムをめぐる問題に取り組むべきか?

A:日本では、CCW -LAWS -GGEに際して、政府が「日本は完全自律型の致死兵器システムの開発を行う意図はない」と表明している。さらに、完全自律型致死兵器システムの採用も否定している。これらの表明を受け、企業は自律型の兵器システムの開発に関与すること自体が禁止された、と誤解されているようである。

 しかし、ほぼ同じ方針を表明している欧米諸国や中国等では、無人兵器システムの開発や、AIの兵器利用が進んでいる。完全自律型として一体性を持つ兵器システムと、そのシステムの構成要素は異なり、後者は民生品の開発にも共通する技術なので、むしろ技術開発は積極的に進めることが、国際社会の基調になっている。

Q:無人兵器システムに関するリスクをどう評価するか?

A:日本企業や大学が、民生品の開発や基礎研究を目的に開発・生産する素材や部品等は、兵器システムの構成要素となるのは事実である。これらの技術が兵器に活用される蓋然性は高い。しかし、日本企業が持つ技術等は国際的に死活的に重要なものではなく、代替製品の利用などの手段で、高性能の無人兵器システムが開発される。日本企業による技術開発は、防衛省・自衛隊の兵器開発に直結するので、無人兵器システムに対する政府や企業の消極性は、日本の安全保障を危険に晒す。

 今日の武力紛争では、無人兵器システム、サイバー、宇宙など、様々な手段が、正規戦及び非対称紛争で使用される可能性が指摘されており、場合によってはそれら手段が戦争のパラダイムを変えてしまうとされている。CCWで議論されている人道問題は、一つの方向からその変化後の世界に制約を課そうとするものである。技術で先行する国家群が、後発国のキャッチアップを阻止するような規制を設けると、国際社会の階層分化が固定されてしまう。これを、「デジタルNPT」と批判される場合もあり、日本が技術を持ちつつ、管理される側になることは避ける必要がある。

Q:日本企業の商機は?

A:民生分野や、レガシー兵器の性能向上という面からも、完全自律が完成したシステム以外の技術開発は積極的に進める必要がある。兵器システムの運用は、「攻撃サイクル」で説明されることが多いが、サイクルの各段階で致死性に直接関係する、死活的に重要な機能(標的と攻撃)以外の段階(探索、移動、評価など)の開発は進む。死活的な機能でさえ、国際人道法に違反しない様々な方法が模索され、すでに無力化技術や合成生物学など、その開発が進みつつある。

 米国は打撃力を重視した軍事技術開発を行う傾向があるが、いわゆるスモール・ウォーでは敵対勢力の排除が主要な任務となり、日本はそのための兵器システムを最も必要とする。そして、その開発には、新興技術や死活的技術などの汎用技術が活用される。つまり、日本企業には大きな商機が存在し、防衛装備と民生品と一体になった開発を進めることで、新たな可能性が拡がるだろう。国際的にみても、いわゆる「軍需企業」の意味は変化しているのである。

Q:国際社会の動向と日本企業が注意すべき点は?

A:汎用品の利用では、軍民の境界線が曖昧になる。大学の基礎研究が、大きな軍事的可能性を秘める場合もある。その意味で、経済安全保障が重要になり、とりわけ企業は安全保障貿易管理政策の国際的な動向に注意を払う必要がある。各国はグローバル化の下で熾烈な技術競争を展開しており、日本政府は軍事と民事の協調によるシナジーを生むような兵器システムの開発を進める必要がある。

 ただし、現時点で兵器開発に遅れる日本には、無人兵器システムに関する国際社会の議論をリードする力はない。議論での劣勢を挽回するため、民間分野の技術競争力を軍事開発の側面から資金や技術、また試験などで支援する体制を構築する必要がある。

                                   以上

拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長

岡山県出身。一橋大学大学院修了(博士・法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官(アメリカ研究担当)より拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、国際関係論、安全保障、アメリカ政治、日米関係、軍備管理軍縮、防衛産業、安全保障貿易管理等。経済産業省産業構造審議会貿易経済協力分科会安全保障貿易管理小委員会委員、外務省核不拡散・核軍縮に関する有識者懇談会委員、防衛省防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会委員、日本原子力研究開発機構核不拡散科学技術フォーラム委員等を経験する。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)国連専門家会合パネルに日本代表団として参加。

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